魔法学校のテスト、とは
テストです。学力調査なのです。ただのテストじゃありません、魔法学校のテストなのです。魔法学校らしくテストには筆記だけでなく実技がありました。
必死に特訓した甲斐があったというものです。
筆記は多分そこそこできたと思います。出された問題が何を言ってるのかわかりましたから。魔法の実技のテストとやらは、紙でできた的を倒すというもので、わたしは見た目重視で彼岸花風に整えた火魔法を使いました。
あとはどんな属性の素養があるかだとか、魔力量だとかそんな事を調べたり、身体計測をしたり。
明日は採点休みだそうです。試験結果が楽しみです。
唯一残念なことといえば、魔法実技のテストの時にギャラリーが先生三人しか居なかった事ですか。あんなに綺麗に派手に魔法を使えるようにこんなに頑張って毎日特訓しているので早くみんなに見せびらかしたいものです。きっとあんまりかわいいわたしにみんなが絶賛することでしょう。絶賛すればいい。
そして今日も今日とて学校が終わり次第図書室に向かいます。だってまだ授業についていける自信がありません。馬鹿な女の子だと思われたくありません。
そのあと向かった魔法の練習場は、そろそろわたし以外にも利用者が現れ始めました。
わたしは自室で特訓ができるよう、これからは集中的に結界魔法の研究です。
今夜は睡眠も取ることにしましょう。徹夜で回復魔法のお世話になってばかりではいつか身体をこわしそうです。少しは寝ないと。
明くる休日です。カフェでお茶を頂きながら世間様のファッションチェックといきたいところですが、よくよく考えなくてもわたし、文無しでした。
制服だとか、食事だとか、教材だとかは全て免除ですが、細々とした身の回りのもの、例えば肌着だとかお化粧道具だとか、いえわたしはお化粧などしてませんけどそういった物を得る術がありません。
働く必要がありそうです。
と言っても魔法の特訓や勉強もおろそかにするわけにいかないので……困りました。
とりあえず、アルバイトしても問題ないのか事務局に問い合わせでもしてみましょうと思っていたらわたしに来客です。あのガキ頭ダリウス王子です。
「……素晴らしいテスト結果だったそうだね」
応接室で、優雅にソファに座って長い足をこの王子は組んだりはしません。あくまで普段は穏やかな方です。どうやらテンパると暴力的になるみたいですけど。それでいいんですか将来の王様?ただ、この王子、拳を交わした間柄と言いますか、警戒しますけど多少の気安さがあります。見た目だけなら完璧ですし。
「結果は、これから聞きますからわたしはまだ何も知りません」
ダリウス王子はわたしにテストの結果を教えてくれました。学年順位で五十二位だったそうです。どこが素晴らしいものですか。一番になりたかった。あんなに勉強したのに。確かにわたしは文字の読み書きを先日覚えたばかりですけど、せめて、五十位以内に入りたかったです。やはりアルバイトなんてしている場合ではありません。寝る間を惜しんでもっとずっと勉強しなくては。 よし基金を設立しましょう。わたしに資金を提供するがよいのです、お貴族様ども。
「さて、君は世にも珍しい、全ての魔法を扱える人間ということが判明した。そこで、君の身柄は国で保護する事になった」
言いながら、ダリウス王子はわたしにペンダントを取り出してわたしにくれました。
このペンダントでわたしの位置を把握するそうで、わたしは許可なくこの学校の敷地から出てはいけないらしいです。まぁ、困りました。それでは街の流行り廃りに触れる事ができません。アルバイトだってできません。もうする気が失せつつありますけど。
「わたし、気がついたら文無しなのでもしかしたらそのうち働かないといけないかもしれないんですけど」
「うん、そうかもね、だからリリーローズ、君にはわたしから毎月お小遣いをあげよう。好きに使いなさい。そうすれば働く必要なんてなくなるだろう?それと、近々護衛を寄越すから、一人で勝手にうろつかないように」
なんだか軟禁される気分です。しかもダリウス王子からお小遣い。ってなんだか不吉な予感がします。借りをつくるといいますか、養われている気になるといいますか。
「わたし、殿下からお小遣いを頂くことに抵抗があるんですけど。婚約したくないですし。歳が離れすぎてると思うんですけど」
「じゃあ、どこかの有力な貴族の養女になる?」
それも嫌です。困りました。まだ子供のわたしには判断がつきかねます。貴族になるのも王族に入るのも真っ平ゴメンです。
嗚呼、でも、この人と婚約して、そしてゆくゆくは王妃になって、この国を内側からボロボロに腐らせてやるのはそれはとても愉快かもしれない。
「わたし、この学校にいる間はたくさんのイケメンや美少女を侍らせて愉快痛快爽快快適に遊んでいたいんですけど。婚約なんてしたらそれが出来ないじゃないですか」
わたしから見たらオジサン年齢のダリウス王子は苦笑いを浮かべました。
「そう言えば、もう何人かの信望者がいるらしいね」
「まだまだです。まだ男女含めて二十人足らずです。とりあえずの目標はテストで一番を取ることと、学年制覇です」
頑張るぞのポーズを取りました。しばらく間が開きました。あっ、この人の前でかわいさアピールする必要なんて無かった。かわいいをアピールするポーズは解除です。ふぅ。権力で囲い込みを計ることのできる立場の人を籠絡しても大変になるだけでした。
ダリウス王子は王子様オーラを強めてわたしをまっすぐ見つめて言いました。熱を持った眼差しってやつですね、今日もありがとうございます。わたしダリウス王子の見た目は、見た目だけは好きです。
「リリーローズ。もしも……もしもわたしが君を惚れさせる事が出来たら、わたしの妻になってくれるのかな?」
わたしが誰かに惚れる?ぷっぷっぷー!爆笑です。そんな事があり得るものですか。なんておかしな事をこの王子は言うんでしょう。やれるものならやってみればいいんです。
「じゃあ、わたしを虜に出来ない限り、わたしは殿下と婚約しなくてもいいですよね?それでしたら大いに頑張ってください」
どうしてこうなったか実はよくわかっていませんが、こうしてわたしには侍女という名の護衛がふたりつくようになり、毎月それなりの額のお小遣いを受け取れる様になり、ほとんど毎日熱烈なラブレターを受けとるようになり、毎週この王子と面談することになりました。お陰でわたしは貴族にならずに済み、王族にならなくても良くなったので万々歳です。
ええ、わたしが誰かと恋に落ちたりなんてするものですか。誰かと手を繋ぐ事ですら苦痛なのに。でも見た目のよろしい方々と楽しく語らうことは楽しいです、これはわたしの生き甲斐かもしれません。
寮の部屋も引っ越しです。侍女達のいるスペースがありませんでしたからね、仕方ありません。