表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

入学式と、入学に伴うあれこれ

 昨日のアレは、最悪でした。

 まさかダリウス王子(十八歳・脳内はガキ)だなんて六つも歳上の男性に見初められるだなんて、わたしもなかなか罪作りな愛くるしさです。


 でも十八歳ですか。十八歳にして十二に求婚だなんて幼女趣味の気配を感じます。いえあの、十二にもなればもう、幼女じゃないですけど。


 さて、たっぷり三十分、わたしは校門前に立っています。

 それもこれもこの可愛らしいリリーローズ、つまりわたしをお貴族様連中に見せつける為です。わたしに与えられた寮は学校の敷地内のものですが、寮はひとつではなく、敷地外に建てられていたり、敷地内であっても校舎とはかなり離れている為、通学という行為が発生するのです。そして慣例らしく、お貴族様方は今日、入寮する方々がほとんど。つまりわたくしを目にするのが初めてという方々がほとんどということです。


 ほら、さっきから男女問わずみんながチラチラわたしを見てる。にやけそうになるのを堪えます。わたしは今、『貴族ばかりが通う学校に足を踏み入れるのを躊躇うか弱い庶民』という立ち位置です。

 イケメンか可愛い女の子が助けてくれても構いませんよ?ほら、そこの女子!今可愛い女の子……って呟いたそこの女子!仲良くしましょう!お風呂場で待ち合わせしてもわたしは全然構いませんよ?


 ぽん、と肩に手を置かれました。


「一緒に校舎に、入る……?」


 はい釣れたーーー!!!やっと釣れたーーー!

 わたしは柔らかく微笑んで、振り返りました。

 よし、そこそこのイケメンです。銀髪に空を切り取ったみたいな瞳のイケメンです。ひゃっほーイケメン。これなら頑張った甲斐があるというものです。


「ありがとうございます。わたし、庶民なので気が引けてしまって 」


「へぇ、庶民の……?僕はマティウス。よろしくね」


 マティウスさん……じゃないマティウス様に付き添ってもらってやっと気弱な、ということになっているわたしは校舎に入ります。休み中何度も来てるのでホントは躊躇ったりなんてそんな感情、微塵も持ち合わせてませんがその事に触れちゃいけない。気づいた人がいたらちょっと黙らせて差し上げましょう。


 幸い、というかなんというか、マティウスさまとわたしのクラスは別でした。わたしの教室の前でマティウス様はわたしの両手を握りしめました。一生の別れみたいですね。さっきあったばっかりの人よ。


「こんなに愛らしい人がこの世にいただなんて……入学式が終わったら教室に迎えに来ても構いませんか?ぜひ、帰りも寮までご一緒したいのです」


 その瞳にはキラキラ星が浮かんでいるみたいです。

 で す が 残念……っ!!!わたしは今日も図書室通いと魔法の特訓があります。一時たりとも猶予はありません、全ては本格的な勉強が始まるまで……!


「マティウス様、申し訳ありませんがわたし、入学式のあと用事があるんです」


 そう言ってわたしはさくっと教室に入りました。


 教室中の皆さんがわたしを見ていました。わたしは恥じらう素振りでお辞儀をして、自分のものらしい席に座ります。わたしがかわいいから皆さんの注目を集めてしまったと思いたいところですが、さっきの別離の儀式が原因である可能性も否めません。わたしはちょっとくらいなら現実を見られるのです。


 わたしの席の両隣は女子。なかなか可愛らしい女子。仲良く……しましょうね?


 校長先生の話は長かったですが入学式は終わるのが早いので、わたしは予定通り今日も魔法の特訓と勉強に励みます。これから一ヶ月は寝ている暇も無いと思いましょう……!目指せ一番!


 ふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふひふふふふふふふふふひふふふひふはふふはふっ(心の声)


 さて、翌朝の寮の食堂で、わたしは女子の集団に囲まれました。


「貴女ね、庶民の子だっていうのは」

「マティウス様にもう色目を使ったみたいじゃない」

「生意気なのよ、庶民の癖に」


 はー、これがイジメってものですか。物語では見たことがありましたが、現実目の当たりにしたのは初めてです。ちょっと感動しました。そこで、わたしはうるるっと瞳から涙を溢れさせました。ええ、わざと泣いてます。女優たるものいつでも泣けなければ。


「……あの、マティウス様は、本当に一緒に校舎に入っただけでして」


 秘技!可哀想な子オーラ!!!

 ビビったらしい女子どもに追い討ちをかけましょう、特にその右から三番目の子、好みです。美しい花は飾っておきたいですものね?


「それに、わたし、まだ、この学校では友達なんていなくて」


 リーダーっぽい女の子の手を握りしめ。潤んだ瞳のままにまっすぐ見つめてやります。


「朝ごはん、ご一緒してくれませんか……?」


 きゅぴるーーーん!!!弱い風魔法と光魔法を解りにくく駆使して、良い香りと癒し系の光を放ちます。ほら、リラーックス。わたしといるとなんだか落ち着くでしょう?良い香りするでしょう?うっとりしちゃいましたね?ほら、わたしの隣、空いてますよ!!!


 女の子を五人、ゲットです。なんか敬う視線がくすぐったくも心地よいです。

 女の子達と別れて、自室で身なりが整っているか最終チェックをしてから学校に向かいます。いえ、いつもわたしはかわいいんですけどね。油断禁物、かわいいの上のかわいいを目指すのです。なぜかマティウス様が寮の入り口に立って居ましたが、一瞬よそを向いた隙に通り抜けます。わたしは特定の方と特に深く親しくするつもりありませんから。そうしないとみんなと楽しくそれなりにだなんて難しいでしょう。


 学校に到着です。さっさと教室には向かわず、理科室を目指します。

 だって、下駄箱に御手紙が入っていたんですもん、呼び出されたら何なのか気になるじゃないですか。これかラブレターだってことくらいはわかってますけど。かわいいからラブレターの一通や二通や三十通、来ても辺り前です仕方ありませんね。……今朝は何故だか一通しかありませんでしたけど。ちょっと控え目な方が多いようで。アグレッシブなダリウス王子やマティウス様を見習って、もう少しわたしを崇めたて奉ったほうが良いのではないでしょうか?


 で、何となくお手洗いに寄って、手を拭いたハンカチをポケットに入れそびれました。わざとです。だって廊下で新たなイケメンとすれ違ったんですお話のきっかけが欲しいじゃないですか。


 理科室には見知らぬ男性が。つけているネクタイから、彼はひとつ上の学年だとわかりました。


「へえ。本当かわいいね」


 ありがとうございます。昨日入学式で今日お呼びだしとはどういう事でしょう告白されるには少々早いかと思います。……訂正。わたしはかわいいのですから早めに動いたことを褒めてつかわします。


 わたしは入り口付近から動きませんでした。男性はお行儀悪く机に腰かけていたのを、わたしの目の前に近寄ってきました。


「ね、俺と付き合ってよ」


 わたしは微笑みました。勿論お断りです。イケメンとそれなりに楽しくお話していく関係は求めておりますけども手を繋ぐ以上は真っ平ゴメンです。ええわがままですよ、でもかわいいは正義ですわたしですから許されます。


「今は、特定の方とお付き合いするつもりがありませんので……」


 一生そんなつもりありませんけどね。なんで誰かと付き合うだの、婚約だのしないといけないんですか。いつかは結婚するかもしれませんが、ど庶民のわたしは庶民とくっついてた方が平和だと思いませんか?なんて思ってるけどそんな素振りは見せません。


 気弱そうな素振りで、上目遣い。片手は緩く握って口許に。

 ほら、わたしは可愛いでしょう?セ・ン・パ・イ。

 センパイの顔が少し赤くなりました。昨日かわいいわたしを見つけて、目立とうだとか面白そう程度で告白してきたんでしょうけど!ざーんねーんでーした!もっとゆっくり楽しくお話ししていく関係をわたしは所望です。


 空いた片手でサクッと戸を開けて退出します。

 くるりと踵を返そうとして、とん、と誰かにぶつかりました。見上げてみればわたしのハンカチを握りしめたイケメンです。さっき落としたのを回収してくれたようで何よりです。ネクタイを見ればこちらは三年だとわかりました。


 三年生は理科室の中をチラリと見ました。もしかして声も聞こえていたのでしょう。三年生もホレボレするようなイケメンさんです。


「これ……」


「あら、わたしのです。いつ落としたのかしら。ありがとうございます」


 二年生から見えないのを良いことに、可憐な笑顔を三年生に見せてあげます。三年生の耳がぱっと赤く染まりました。良いものを見た。風魔法で良い香りを届けてあげながら、隣をすり抜けるように教室に戻ります。

  教室の入り口付近にマティウス様が居ました。ストーカー気質か、お主はストーカーなのか。ストーカーかもしれないっていうよりきっとストーカーなんでしょうね。


「おはようございます、マティウス様」


「おはよう、リリーローズ。いつ学校に来たの?寮の出口で朝の五時から待ってたのに」


 ストーカーです。このイケメンさんはストーカーです。わたし程愛らしい容貌であればストーカーの十人や二十人引き寄せてしまう可能性があるかとは思っていましたが、早速一人ここにストーカー発見です。


「そうなんですか?気付きませんでした。それでは」


 すれ違い様に腕を掴ませるような不備はしません。

 風魔法を上手に操ってわたしに向かって伸ばされたマティウス様の手を弾きます。誰かがわたしに触れる事なんて認めさせません。スルッと教室に入って、マティウス様の鼻先で戸を閉めちゃいます。


 教室を軽く見回します。


 気づいてましたけど、この学園、美男美女が溢れてます。うかうかしていてはわたしを越える美少女がいつ現れることやら。もっと自分を磨こうと決意致します。


 今日も授業はありません。自己紹介に校内設備の案内、部活動などの紹介で終わりました。昼食は校内の食堂で、クラス毎に頂きました。ええ、勿論わたしの周りは見目のよろしい女子で固めさせて頂きました。はぁ……可愛い女の子って本当にかわいい。今日はクラス女子と一緒にまとまってお風呂に入る約束まで取り付けました。楽しみです。


 そして三日め。朝食は昨日朝ごはんを一緒に食べた女子達と。あーん、と食べさせあいっこしちゃいました。楽しいです。一口でお腹一杯です。なのでたくさん食べさせちゃいました。幸せです。そして今朝はマティウス様だけでなく、あの二年生まで寮の入口にいました。これはこれで楽しいですね。楽しくなってきましたね。何が楽しいってよそ見なんてしている隙に通り抜けるスリル、癖になりそうです。


 上手く気付かれずに登校、成功です!校内に入ったところで昨日の三年生に会いました。こちらも待ち伏せでしょうか?


「おはようございます」


「……おはよう。……あの!」


 挨拶だけしてすれ違おうとしましたが、三年生から声をかけられました。昨日と同じく耳が赤いです。


「あの、俺はジョエル、と言います」


 ジョエル様は、紅い髪にわたしと同じエメラルドの瞳をした優しい雰囲気の先輩です。つっかえつつも一生懸命お話になるところが好印象です。


「ジョエル様ですか。わたしはリリーローズと言います。一年生です」


 可憐な笑顔というものをまたしてやります。

 ジョエル様はわたしの名前を呟いて、微笑まれました。うむ。なかなか良いものを見られた。特に、パアッと顔が赤く染まっていくところとか。首まで赤くなったところとか。

 どうも、ジョエル様とは会話が続きそうにないのでおいとますることにして、サクッと教室に向かいました。


 今日はテストなのです。新学期最初のテストなのです。マティウス様や二年生と遊んでいる暇はないのです。集中、集中……。頭の中に作ってある、テスト対策ノートを頭の中で確認します。端から見たら窓の外をぼんやり眺める美少女ですけどわたしは今、必死に復習中です。文字の読み書きさえもあやふやだったわたしですけど、このテストで学年順位五十位以内に入っておきたいのです。




 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ