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あなたはどこのイケメンさん?

 ついに明日は入学式です。寮に今まで通り人が少ないのは、入学式のあとにみんな入寮するかららしいです。どのくらい人が増えるのか、楽しみです。


 魔法は少しくらいなら見られるように、なってきました。集中的に特訓した火魔法なら、もう多分問題ないと言いたいです。小さな火の玉は彼岸花らしく、大きな火の玉はちょっと豪華に牡丹らしく造り上げることになんとか成功しました。成功率は八割でしょうか。

 とっても神経を使うけど、当たり前の様にぽんぽんこれが出せるようになりたいので、これからも要・練・習です。学年主任よこれからも予約は頼みます。近頃は練習場の管理人さんがわたしの顔を覚えてくれているらしいので、管理人さん、融通きかせてくれてもいいのよ……?


 ……ね?


 他にも風魔法は巻き込んだ木の葉を綺麗に散らすだとか、氷魔法や水魔法だって綺麗に可憐に可愛く派手に見えるような練習が必要だと思います。


 常時展開している結界魔法(日焼け止め代わりに愛用)を応用して、寮の自室でも少しは練習できるようになりたいです。

 そしたら移動時間も練習に充てられるのに。お勉強はなかなか上手くいきません。でも教科書はすらすら読めるようになってきました。誰かわたしにお勉強を教えてくれないものかしら。


 とはいえ、さすがに、わたしも、これは、ちょっと、肉体的にキツいです。今日で五徹はけっこうしんどいです。

 明日はわたしの可愛らしさを存分にアピールする儀式、こと『入学式』なので練習も勉強も早めに切り上げ……


 ガチャ


「ガチャ……?」


「おわ!?」


 疲れすぎ、良くない。


 練習室の個室の鍵をかけ忘れてた!?今、美容魔法使ってないのに!?

 今すぐ!他人の!記憶操作できる魔法を修得しなければ!!!


 見知らぬ人が入ってきたので、わたしは混乱して、目眩ましにと強い光を部屋に溢れさせました。


 即、美容魔法です。

 練習の為に右手で風魔法、左手で水魔法を扱っていたけど全部中止!中止!

 光の加減でほとんど金髪にしか見えない髪の毛の色を愛らしいピンクに変えます。

 そしてお肌を中心に回復魔法。

 張りツヤのある、透き通った肌を目指します。

 風魔法で仄かに女の子らしい良い香りを漂わせます……さっきまで汗をたくさんかくような練習をしていたのでなるべく早くお風呂に行きたいです。光が弱まってきたので、鏡も消します。

 不自然な土の隆起は均しておきます。


「えっと……君、平民出身の……リリーローズさん、だよね?ずっと篭ってるって聞いたから、魔法の使い方でもアドバイスしようかと思って来たんだけど……」


 光が完全に収まった頃、戸惑うような声が聞こえました。

 うん、魔法で教えてもらうこととか、たぶん、今は必要ありません。


「ありがとうございます」


 わたしは完璧な笑顔を浮かべました。

 今日はもう、練習は終わりにするところだったんだけどね!なんて言いません。


 見れば、歳上の、さながら王子様みたいなイケメンです。つか全体的にイケメン多いな。……このイケメンはちょっと歳上すぎて圏外、と。


 でも、このイケメンさんのご兄弟だとか後輩さんとかの、まだ見ぬイケメンさんと楽しく語り合う未来に興味があるので、かわいいわたしは可愛らしさを前面に押し出して行きます!


「……で、君、今まで何やってたの?」


 王子様風の彼の顔がなんとなーく怖い感じになりました。


 何 と 言 わ れ ま し て も


「あの……特訓です」


 なにかまずいこと、あったかしら。

 美容魔法無しの姿を見られたのは確かにまずいけど、ノーメイクを見られたら死んじゃう!てほどのものではあるけど、そもそもわたしは土台が良いんです。 美髪と美肌と美臭以外ではそんなに変えてません。

 ……ちょっとくらいしか。ちょっとです。ちょっとだけです。


「君ね、いくつ魔法使えるの?」


 王子様風のその人はずい、と近寄ってきました。

 これはアレです。わたしは怯えて一歩後退りするべきシーンですね!


「えっと……」


「今、使ってる魔法を全部解きなさい」


「げ」


 王子様風のその人は睨み付けるみたいに目を細めながら、わたしの髪を一房つまんで自分の指に絡ませました。


 眼福です。

 これだけのイケメンがそんな事をしているのをこんなに間近で見られるなんて幸せです。


 だけど魔法を解くとかやりたくありませーん無理ですお断りです。


 リリーローズは可愛らしさを売りに生きていくんです。

 ピンクの髪が珍しい訳じゃないし……王子様風の貴方だって綺麗な緑色じゃないですか……くすんだ金髪よりもピンクのほうがかわいい。それに、この人の前で魔法を解除しなきゃいけないの?さっぱり理解できません。


 途端に、髪が引っ張られました。


「……ぃたぁっ!!!」


 わたしの口から悲鳴にならない声が漏れます。

 続いて腹部に衝撃。苦しい、と思うのと、練習室の土の床に強かぶつけた肩と頭が痛いです。泣ける。


 身を起こそうとして、顔のすぐ近くに、氷の剣が刺さりました。

 頬が痛いのでたぶん、かすった。

 恐怖で動けません、状況が理解出来ません。なになになになに!?なんなの!?いきなり部屋に入ってきて、いきなり命令とか、何なの!?なんでわたしは髪の毛引っ張られたの!?なんであちこち痛いの?なんで魔法が解けちゃったの!?やだ怖い!


「全部の魔法を、解け」


 それは、低くて怖い声でした。


「……いくつの魔法を使える?」


 床に転がったまま固まるわたし。どうだ!悲劇のヒロインぽく見えるでしょう!あなたは酷い事をしたんですよ!反省するのです!この怯える美少女を見逃してここから立ち去るがいいのです!


「ちょっと、やりすぎたのかな……すまない。落ち着いて話すよ」


 ぴるぴる震えるわたしの姿に罪悪感をぐりぐりされたらしい彼は、頭を降るような仕草をして、わたしに立つよう促してきました。謝る声が少しだけ、優しく聞こえたのは気のせいだと思います。わたしはゆっくり壁際に下がりました。


「君は、いくつの魔法を使えるのかな」


「わかりません。でも……闇魔法以外ではほとんど使えるかと思います」


 そもそも闇魔法というのが何かをわたしは知りません。

 それよりもなんです。

 なんでこんな、理不尽な目に会わなきゃいけないんです。


「魔法を何種類も使えるヤツ、初めて見た」


 とりあえず、です。とりあえず、攻撃的な意思は見えなくなったみたいですが、いつ彼の気が変わるのか、わかったものじゃありません。さっきのは魔法でしょう。魔法ってことは貴族です。そうに決まってます。とりあえず、とりあえずは身を守らねば……!!!

 彼がわたしから目を離して部屋を見回した瞬間に、一番使いやすい魔法を、思いっきり放ちます。

 わたしの場合は『光』です。

 熱量を上げればそれはそれで殺傷能力にも優れた魔法です。一応熱はできるだけ抑えて、純粋な光を部屋に溢れさせました。


 うんとこしょっと立ち上がって、出入り口に向かいます。鍵が壊れていて、ドアが開きませぇん!

 光に方向性を持たせてドアを焼き切ります。


 ガシッと肩を掴まれました。


「ひぃ!」


 パリン、とまたもや魔法が打ち消されたのを感じました。

 光が消え、この怖い人と二人きり。


 死ぬ。殺される。魔法を打ち消すだなんてそんな卑怯です。


「悪かった。痛いことはもうしないから、頼むから話を聞け?な?」


 まじこええええええええええええええ!(心の叫び)


 恐る恐る怖い人の顔を見れば、彼もちょっと涙目です。

 あれ?よく見たら軽く火傷してるみたいです、ええ、まぁ、きっとわたしのせいですね、ごめんなさいでもこわかったんですもんっ!


「あの、怪我を治したいんですけど」


 怖いから許可を貰って、癒し系の光を溢れさせました、ええ、計算です。この怖い人の怪我もついでに治して好印象狙ってます。


 それから、ゆっくり話し合おうという事で、応接室に移動しました。

 外を歩くのなら美容魔法を使わせろ!とわたしはごねました。ええ、ごねるだなんて事、まったくもって美しくありませんけどわたしはこの人が怖いです早く用事を済ませて帰っていただきたいです。


 応接室で対面すると、この人がやっぱり王子様然とした風貌だと思います。まぁ!こんなところにイケメンが!

 妙な沈黙が応接室を支配しています、はよ要件切り出して貰えませんかね?午後のお勉強の時間が差し迫ってるんです。今夜くらいは寝ないといけないし。


「あの、なんでわたしはいきなり貴方に攻撃されたんでしょうか」


 なかなか話し出さないからもうこっちから聞いてやります。怖いよ!怖いけど、話が進まないでしょぉっ!?

 そもそも彼の名前すら聞いてないってことに気がつきましたきーさーまーはーだーれーじゃー。こほん、とわたしは優雅に咳払いをひとつ。


「あの、わたしはリリーローズと申します。明日、こちらに入学する予定です」


 わたしが完璧な笑顔でそう言うと王子様風のその人は視線を泳がせました。


「わたしはこの国の第一王子、ダリウスです」


 王子様でした。王子様風の、じゃなくて王子様でした。なんかごめんなさいでもわたしはたぶんそんなに悪くないです。ていうか全く悪くないです、髪の毛の先っちょをちょっと焦げさせたみたいだけど。


「その……珍しい光属性の魔法使いが現れたと聞いて、様子を見に来たのだが……魔法を暴走させているのかと勘違いして、焦ったんだ。すまない」


 ガキだ。


 わたし(十二歳)からしてみたらこのダリウス王子(推定十八~十九歳かしら?)は年齢的にオジサンですが中身はなかなかのガキ頭らしいです。


「焦った、でわたしの髪を引っ張って何かしらの攻撃をされたんですか」


 にっこにっこと笑顔で聞いてやります。ちょっと感じが悪いかも知れませんけど、わたしだって頭に来たんです、どうせわたしからしたらこの王子は攻略外。手玉に取るとか取られるとかの圏外です。わたしは同世代の人にちやほやされたいのです。

 手酷くあしらわなければ、そこまで悪評が立つこともたぶん無いと思いたい。それにわたしも酷い事をされてます、脳内ガキ王子に対して遠慮はいらない場合によっては容赦しません。さぁ存分に反省しやがってください。


「……すまない。それで、先程のと、今使っている魔法は……?」


 ダリウス王子の視線が鋭くなりました。途端に迫力が出て怖い人になります。


 わたしは深呼吸しました。きっと、大丈夫。練習室は人が居ない場所だったけど、この応接室のドアから飛び出せば、事務員がいるはずです。大丈夫。もう、襲われたりはしないはず。


「土魔法と氷魔法と水魔法と風魔法を組み合わせて鏡を造り上げ、美しく見える火魔法と氷魔法の研究をしていました」


 ダリウス王子が目を見開きました。

 そう、光魔法を簡単に扱える人間が少ないのがテンプレならば複数の魔法を同時に操ることが難しいのもよくある設定です。


「貴方に攻撃されてから使ったのは純粋な光で、今展開している魔法もベースは光魔法です」


 本からの知識では、どうやら、貴族様方の間では、一人に魔法はひとつ、たまにふたつ……というのが基本らしいのです。わたし?わたしは血と汗と涙の結晶でなんとか各種取り揃えてますよ。努力と根性と気合いで身に付けたものですよ。さぁ存分に驚くが良いっ!!!


「そもそもわたしは魔法が攻撃に使えるものだとは知らないまま育ちました。全ての魔法は美容と健康にのみ使っていたんです。それなのに教本を見たらどうです、魔法で怪獣や魔物を退治するだとかなんとか。わたしは落ちこぼれだなんて美しくないことはしたくありませんから、必死に練習をしてしていただけです」


 それなのに攻撃されて怖かった、と意味を込めてわたしはそっとダリウス王子から顔を背けます。そしてチラッ、チラッと伺う小動物的仕草で圧倒的可愛らしさの演出です。

 こんなかわいいわたしが危険な筈が無いんです。


「そう、なのか……」


 ダリウス王子は顎に手を当てて、何かを考え事を始めました。


「6歳差か……。アリなのか?」


 そこはかとなく不気味な声が聞こえます。不吉です。そうですコイツは権力を持っていたのです。よし帰ろう。


「あの、ダリウス王子様。わたしを見に来たのならもうご用件はお済みですよね?わたしは勉強も遅れているようなので早く部屋に戻りたいんです」


「いや、その魔法についての説明を聞いてからだ。どうやって容姿を変えている?」


「色しか変えてません。光魔法です。光の加減でつまらない金髪を愛らしいピンクに変えて、冷たいピスタチオの瞳は愛らしいエメラルドに変えただけです」


 だってそもそもわたしは素材が良いんです。お母さん似です。


 生まれつき持った完璧なパーツ。

 日焼け止め代わりの結界に、回復魔法で全身つるぷやサラサラです。


 あとはいつも通りの血と汗と涙の結晶、つまり努力です。

 一にも努力、二にも努力です。


「良し、決めた。リリーローズ、お前と俺は今からこんやくしゃだ!」


「お断りさせてください」


 即・土・下・座!です。


 だってわたしはこの学園生活でイケメンと楽しく語らいつつも可愛らしく愛らしい女の子達とキャッキャウフフな生活をしたいんです、そして卒業した暁にはどこぞの商人辺りと結婚するのです左うちわで豪遊しつつも平凡な市民として骨を埋めるなりエステティシャンとして名を馳せるのもまたよろし。


 つまり、お姫様ポジションとかめんどくさそうな儀礼が関わりそうな貴族連中と関わるだとか結婚やら婚約やら全くもって御免です。


 それに、いきなり痛いことをしてくる人は怖いです。


「なぜだ!?」


 なんてけったいな事を言われますから言ってやりました、思ってることを片っ端から。つまるところ、わたしはダリウス王子が怖いです。


「よし、わかった。リリーローズ、お前から俺に結婚してほしいと思わせてやろう……!」


 まっぴら御免です。卒業したらこの国を出ていこうとわたしは今、決めた。

 




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