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魔力とは、その大昔は人間では到底成し得ない非現実な力、魔法を使う力と考えられており、また更に昔には魔女狩りと呼ばれる行為が行われていたくらい得体のしれない恐ろしい力と解釈されていた。
しかし現代では違う、ある日1人の研究者が学会で
『この世界には瘴気と呼ばれる物が存在している。それは人々の心を知らず知らずに蝕んでいく物質であり、意志はなくウイルスのような存在、それを消し去るのが魔力と呼ばれる力である。』と真面目な顔で発表したのだ。
彼は変わり者で有名だったため最初人々は
『ついに狂ったか』『昔はここまでいかれてなかったが』『奥さんと子供に逃げられたらしい』
と最初はバカにしていたが、バカにされた当の彼は少数ではあったが彼と志を共にする仲間とともに研究を進め、数年後、魔力を測定する装置、魔力を具現化させる増幅装置とそれを撮影する特殊な機械、そして瘴気に侵された人間を連れてきて実際に目の前で見事証明して見せたのだ。
魔力があるものには増幅装置を使い目の前で見せ、無いものには撮影した映像を見せる。
半信半疑ではあった人々であったが、その衝撃的な発表は世間を揺るがせ、徐々に徐々に研究者は増えていき、
今の世の中では立派に認められ少し大きい国であれば政府が瘴気対策として魔法使い課を置いているぐらい当たり前の物になっている。
「というわけだ。」
「その研究者の奥さんと子供は帰ってきたの?」
「知るかバカ」
だいたいこんなん中学校の時社会で習っただろ?と奏多が聞けば寝てた!と元気な答えが返ってきたためもう何も聞くまいと奏多は話を進める。
「だから今では瘴気を祓う人材を探すため18歳以上の奴らの健康診断の項目に魔力健診が追加されるんだよ。」
「ほーん、で、なんでそれがバイトに繋がるのさ。」
考えるのめんどくさいしなんかよくわかんないけど、とりあえず友人が真剣に話をしてるんだから聞いておこっと姿勢を正しキリリ、と表情を作って見せる廉。なんだかんだいい子なのである。
「本当に・・・、まあいい。一般的に魔力があるのは6割って言われてるんだ。んで、実際見るだけじゃなくって祓うことが出来るのはこの中でも4割。」
つまり、と彼は続ける。
「めっちゃ人不足だからバイトでもいいから祓える人がほしい」
「超わかりやすい。」
うんうんと納得したように腕を組み頷いてる廉の頭を左手でバフバフと優しく叩き、俺はちなみに魔力がない、とぼやきながら奏多は続ける。
「まあその当時より進歩したとはいえ、昼間は人の精神の奥にいる瘴気を発見する方法が現時点で存在してないらしい。だから夜に宿主から出て空を漂ってるとこを退治するのが主なんだってよ。」
「はえーそうなんだ・・・。じゃああの研究者はわざわざ人にとり憑くとこ見届けて連れてきたんだね。」
「そうだな。」
段々めんどくさくなってピンボケカメラな廉をありのまま受け止める奏多は、
左手をバフバフしたまま右手で携帯を操作し、1番近くの事務所を教え、
WEBで申し込んどいたから面接の日に筆記用具と学生証と健康診断の結果を忘れず持ってけよ、と言い残しバイトだから、とかったるそうに去っていく。そんな友人に手を振りながら、奏多はすごいなあ、俺も働いたらあんな風になれるのかな?とちょっとチクッとする胸を無視して窓から見える5月に近い、暖かな光景を眺めるのであった。早速かかってきた自分の携帯に目を背けながら。
やっぱり働くのはちょっと怖いらしい。