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『明るく笑顔が絶えない職場です!時給900円からスタート!!』
『先輩たちが優しく教えます!時給1000円から!!』
『空いた時間で効率よく稼ごう!時給1200円』
『助けて、 時給850円』
「色んなアルバイトがあるなあ・・・。どれにしよう」
「ちょっと待て一つやばいのがあるぞ」
午前10時私立桐羽大学空教室の長机に隣り合わせで座りながら間に置いた求人雑誌をペラリ、ペラリとなんだか気の抜けた顔で捲っている少年とそれを一緒に真剣な顔で見ている青年がいる。
「こことか良さそう、大学から近いし先輩が優しく教えてくれるみたいだし・・・。」
2人のうち少し小柄な方がぼけっと何も考えてなさそうな声でぽつりと呟く。髪は黒髪で長めの無造作ヘア、とは聞こえがいいが白地に黒文字で『Punk Rock!』と書かれたTシャツに青いパーカーとGパン。如何にもお母さんがスーパーで買ってきたものをそのまま着てます!と言わんばかりの服装を見るとただめんどくさいだけなのだろう。
痩せていて顔立ちは比較的整ってはいるがあどけなくまだまだ親の庇護が必要そうだ。可愛い、というのが合っている。
「廉・・・お前もっと考えろ!!!いいか!この駅は観光地でしかも飲食店だ!ぜっったい!お前には無理だ!これが初めてのバイトなんだから命を大切にしろ!観光地の飲食店で働いてる俺からの忠告だ・・・!」
その呟きを聞いてなにやらエキサイトし相手の肩をがっくんがっくん揺さぶりつつ強い口調で止める平均より背の高い青年の言葉。精悍な顔立ちをしておりがたいが良く、服装も同じような服装なのだがこちらは少し洒落た服装をしているから多少気を使っているのが窺える。こちらはしっかりしてそうな雰囲気だ。
「奏多は心配性だよー。俺だって考えてるって。」
「お前はテキトー過ぎるんだよ。」
ちょっとむっとした廉という少年がふくれたような言葉をかけると奏多の方は苦笑しながらバッサリである。
「もっといろんな事に気を付けて生きろ!お前は!特に服装!!!そんなんだから教授に『あー、そこのRockなTシャツを着た君!』なんてさされるんだよ。」
「うるさいうるさい!服なんか着られればいいだろ!なにが悪いんだ!都会人は気取りやがって!」
「お前政令指定都市出身だろうが!俺は住所に郡がつくくらいのど田舎出身だ。周りに田んぼしかねえし車は1人1台だ。」
「うっ・・・。」
見事に論破された少年は求人雑誌を放り投げ長机にべちょっと身体をつける。
「物は大事にしろよ・・・。」
「あーーー、接客しなくてよくて夜中に働けて未経験な俺でも採用してくれて時給が高くて怪しくないバイトないかなあ?」
青年が呆れながら放り投げられた雑誌を拾い上げつつ、世の中舐めてるクソガキの発言を聞き、そういや、といった調子で問いかける。
「お前魔力値いくつだった?」
「A+」
「それを早く言えっ!!!!」
パコーーンと拾ったばかりの雑誌でぶん殴りつつ阿呆な友人にわかりやすい説明をすることを考えていた奏多なのであった。彼は世話することがなんだかんだ好きなのである。