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獣王の娘と片足の王子  作者: papiko
第三章
27/31

7

 クリスが回復して講堂に戻ってくると、デュランが調子はと聞いてきた。

「いいですよ。つか、救護班足りないみたいで、結構またされました。で、これからどうするんですか?」

 クリスはアリスの隣に腰を下ろした。

大蛇(スニッケル)の所在はまだわからん。とりあえず、うちの班は今夜も出撃になった。壁魔方陣(ウォード)近辺に現れる赤銅豹(レッドハイド)の群れと対決だ」

「ああ、あいつら基本的に夜行性でしたっけ?」

「そうだ。それでな、司令塔がわからない現状で、どう対応するかはある程度話をしないとなとは思うんだが、お前、何かいい案はないか?」

 クリスはそう言われて、困ったなと言う顔をした。


「そういわれてもなぁ……今回初級魔法を使ったのは、ハルの真似だからなぁ……ハルは何かねぇの?」

 ハルベリーも状況がわからないと閃きませんと苦笑する。

「ああ、でも、夜行性なら閃光弾幕(ライティボルト)で視野を奪うとかすれば、動きは止まるかなと思うんですが」

 デュランは首を横に振った。

「以前はそれで十分に対応できていたそうだが、最近は回復が早いんだそうだ」

「まあ、まったく無効ってわけじゃないから、いいんじゃないですか?」

 クリスがそういうとまあなとデュランが返す。

「完全に消耗戦だ」

 ローランドがそうつぶやく。アリスはそうねと頷いた。

「少なくとも一人は、他のメンバーの魔力を回復させ続けなきゃならないってことですか?」

 ハルベリーはそう尋ねるとデュランは首を横に振った。

「ある程度殲滅したら基地に戻る。効率的とはいいがたいが、壁魔方陣(ウォード)への負荷を減らすにはそれしかないようだ」

 ハルベリーはそうですかといい、しばらく考え込む。足が速い相手、それも無数。一班で食い止められる数はたかが知れている。なんとか、一気に殲滅できる方法を見つけない限り、いつまでたってもこちらがふりだとハルベリーは思った。


「群れの規模って、やっぱりわからないんですか?」

 ふとハルベリーがそういうと、いやとデュランが答えた。

「多くて五十体、少なくても二十体だ」

「じゃあ、(ダークロウ)みたいに次々と現れるわけじゃないんですね」

「そうだな。だが、体がでかいわりには身軽だ。木の上から不意を突いて攻撃してくることもあるらしい」

「それって、常に壁魔方陣(ウォード)を展開してないとやばいじゃないですか」

 クリスは眉間に皺をよせ、どうしようもねぇなとつぶやく。

「だから、消耗戦なんでしょ」

 アリスがそういうとクリスは確かになと頷く。

「群れの数が決まってるなら、捕縛して一気に叩けばいいんじゃないんですか?」

「いや、それも難しい。捕縛魔方陣(スタップ)の効力もあまりないそうだからな」

 岩人形(グレイラム)と同じかとハルベリーは思った。捕縛魔方陣(スタップマジカル)が有効でないとしたら、捕縛には初級魔法が有効になる。とはいえ、足が速く身軽な赤銅豹(レッドハイド)の群れを初級魔法でとらえられるかどうかは、難しい。どうすればいいのかとハルベリーは必死に考えていた。そして、ローランドがうまくいくかわからないがと前置きして一つの作戦を提案した。


 真夜中、月の光が心もとない中でハルベリーたちは出撃した。転送先は壁魔方陣(ウォード・マジカル)のすぐそばで、見えない壁の向こうに紫に光る目がいくつも見えた。赤銅豹(レッドハイド)たちは壁に気が付いているらしく、ハルベリーたちを威嚇するように唸るだけで襲ってはこない。クリスが転送魔方陣(パルス・マジカル)を展開すると、ローランドが腕だけをその中につっこみ、閃光弾幕(ライティボルト)を放った。昼間のようにしばらく明るくあたりが輝く。

 転送魔方陣(パルス・マジカル)をわざわざ使うのは、壁魔方陣(ウォード・マジカル)を張っているテロンの魔法師に負担をかけないためである。ハルベリーはこの方法に疑問を持ったので、作戦を立てたローランドに聞いてみると、体に直につかう場合と広範囲で展開する場合では、魔力の消耗が違うのだと教えられた。


「かなりの数ですね」

 ローランドがそうつぶやく。少なく見積もっても三十体はいるようだ。デュランはやってみるしかないだろうといい、アリスが展開している転送魔方陣(パルス・マジカル)に手を突っ込み、飛炎(ショットビート)でいくつかの木々に火を放った。木は緩やかに火を纏い、たいまつの役割を果たす。

 そして、ハルベリーが自ら開いた転送魔方陣(パルス・マジカル)をくぐり、鋼鉄剣(アイアルソード)を手にして赤銅豹(レッドハイド)の群れに切り込んだ。反応の遅れた何体かは、剣の餌食になったが、やつらはすぐに反撃にでる。ハルベリーはそれを剣で打ち払い、後退しては攻めに転じる。赤銅豹(レッドハイド)たちの爪がハルベリーの体に触れる。しかし、蒼く発光した波紋が広がりハルベリーを傷つけることはできなかった。ハルベリーにはローランドが鋼鉄魔方陣(アイアル・マジカル)を施している。そして、ハルベリーが赤銅豹(レッドハイド)たちを引き付ける。やつらは、ハルベリーを殺そうと躍起になり始め、暗がりからとびかかり、しのびより、じりじりと追いつめるようにぞろぞろと暗がりから姿を現す。そして壁の手前まで追いつめられたハルベリーにいっせいにとびかかってきた。


『偉大なる大地よ。その身を深く開き我の敵を喰らえ。我が命に従え』

 いつの間にか赤銅豹(レッドハイド)の背後にアリスとクリスがしゃがみこみ初級魔法を展開していた。大地は、ハルベリーにとびかかった赤銅豹(レッドハイド)たちを一気にのみ込むように、大きく裂けた。ハルベリーはすでに赤銅豹(レッドハイド)の視界から消え、ぱっくりと口をあけた大地の端に立っている。赤銅豹(レッドハイド)が大きく口をあけた地の底でうごめいている。ハルベリーたちは、デュランの合図でいっせいに 業火(ヘルディアルビート)を放った。こうして、ローランドの作戦は成功した。


 一瞬、気が抜けそうになったハルベリーの視界に、輝く紫の光が見えた。ちょうど、クリスとアリスの頭上近く。ハルベリーがあぶないと叫ぶ前に、氷槍(クランスブルー)が二人の頭上を飛び去った。そして、木の上から氷槍(クランスブルー)の突き刺さった一匹の赤銅豹(レッドハイド)が落ちてくる。その身にさらに氷華(フラムブルー)が展開され、氷柱に閉じ込めた。魔法を放ったのは、デュランだった。

「どうやら、こいつが司令塔だったようだな……なるほど、こりゃわかりにくいな」

 デュランは氷柱の赤銅豹(レッドハイド)を眺めて言った。赤銅豹(レッドハイド)の後ろ足に炎のような形の黒い毛が密集している部分があった。全員がそれを確認すると、氷柱はぐしゃりと壊れて赤銅豹(レッドハイド)ごと消滅した。

 

 その夜は、現場で夜営の予定だったが、ハルベリーをのぞいた全員が魔力をそれなりに消耗したため、第二戦というわけにはいかなかった。デュランは本部と交渉し、一旦戻ることになった。戻ると、ローランドもクリスもアリスも、すぐに救護班の元へいけとデュランから命じられた。ハルベリーは自分に魔力復元(マナト)を施す。多少重く感じた体がすぐに軽くなった。

 不意にデュランが言う。

「お前……よくあれだけほいほいと魔法使えるな。魔力の消耗とか考えてないだろう」

「考えてませんけど……今回は班長命令でしょ。俺だけ悪いわけじゃないですよ」

「まあ、確かにな。ローランドもお前がかなり消耗する可能性があるとは言ってたがな。マナトだけでもう出撃できそうだよな」

「まあ……魔力は強い方だと師匠に言われてるし、多少の連動使用は問題にならない程度ってことだと思います」

 デュランはなるほどと言った。

「お前の師匠は魔力の強度がわかるヤツだったのか。珍しいタイプだな」

「そうなんですか?」

「ああ、そういう奴は、ほとんどが審査部に配属になるから、戦闘経験はほとんどないんだ。だが、お前の魔法の使い方は攻撃班狙って鍛えられたようにしか思えないんだがな」

 ハルベリーはなんとも言いようのない顔をしたが、デュランにはそれが困惑しているように映ったのだろう。

「や、すまん。それが悪いって話じゃないだ。在野に能力の高い魔法師がいることは知ってるからな。組織つうところが、窮屈で辞職する奴もいるし。まあ、その、あれだ。いい師匠だなとそう言いたいわけだ」

 ハルベリーはあわてるデュランにありがとうございますと笑いをこらえながら言った。

「お前……何、笑いこらえてるんだよ」

「いや、班長でもじたばたすることがあるんだと思ったら、ちょっと面白かったんで……」

「そりゃ、俺だってじたばたするさ。部下に辞められると、さすがに凹むからな」

「経験ありですか」

 一度だけなとデュランは苦笑いした。ハルベリーはどういう理由だろうと思ったが、聞くのはやめておいた。

「とりあえず、お前は寝てろ」

「班長は?」

「一応、救護班にいってあいつらの状態確認だな。ついでに自分のメンテもしてもらってくるさ」

「了解です。じゃ、先に寝ます」

 おうと言ってデュランは救護班へ向かった。ハルベリーは、そっと講堂に入り、割り当てられたスペースで毛布にくるまる。講堂の中にあまり人がいないのは、ほとんどが夜営に出ているからだ。他の班はどういう戦いを強いられているのか、気にはなったが意識は眠りの中に堕ちていった。


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