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獣王の娘と片足の王子  作者: papiko
第二章
17/31

7

 神殿に戻るとサリエリが出迎えてくれた。

「お部屋の準備が整いましたから、ご自分のお荷物を運んでください」

 そう言われて、ハルベリーとニノは客間から荷物をとってくる。

「ところで、ここは何を祭っているんだ?」

 ふいにハルベリーが疑問を口にするとバースティアが笑いだす。

「なんだ?なぜ笑う」

「ここが神殿だって?本当に人間はおかしなことをいうな」

「姫様……そのように笑うのは失礼ですよ。昔だって似たようなことはあったでしょ。石造りの建物は神殿か城にしかみえませんってば」

 サリエリがいさめると、悪い悪いとバースティアは笑いをおさめた。そして、ここが長の家であることを教える。

「獣人はあまり神をあがめたり、教会や城なんてつくらない。ここは大昔の宿みたいなものだ。里になじむまで客人をここで面倒をみるから、部屋数はかなりある。今は長患いの病人の治療をしたり、住民の集会所としてもよく使われてる……だったよね、サリエリ」

 サリエリは、ええ二十年前と変わらずですよと笑った。

「ああ、そうだった。姫様、メイデェン様がお二人にお会いしたいとおっしゃってました。夕食の後でお話がしたいのだそうです」

 バースティアは深いため息を吐く。

「わかった。とりあえず、荷物を部屋に運ぼう。それから、少し街を案内してくる。もちろん、夕食にはもどるから」

 サリエリはわかりましたと微笑んだ。


 とりあえず、荷物を部屋に置いて三人は街へでた。家は丸太小屋で二階建てが多い。バースティアの説明によると、家が古くなると街の人たちで解体し、薪にする。新しい家は森から木を伐り出して作るのだという。その建てかえはだいたい二十年から三十年ぐらいの周期で行っているそうだ。食べ物も保存のきく小麦は収穫後に一年分がそれぞれに与えられる。季節ごとに取れる農産物のほとんどが配給になる。現在の人口は三百人に満たないからできることだとバースティアは言った。そして、大人でも子どもでもできることをするのが基本的な掟となっている。大半が農業で作物を育てるが、蚕を飼育し糸を紡いだり、その糸を染めて機織りをする者や鍛冶屋のような仕事もあった。


 家畜は黒山羊や鶏。黒山羊は長の家に行くまでに、あちこちで草を食んでいるのをみかけた。冬場は長の家の家畜小屋で藁を餌にする。黒山羊は多産で一回のお産で三匹の子ヤギを生むのだという。繁殖時期は夏で、腹の大きな山羊はまもなく出産するという。三度お産をした山羊は乳もでなくなるので、捌いて食べるのだとバースティアは言った。それも分配はするが二年に一度、干し肉での分配になるという。他にも鶏が飼われていて、普段はもっぱら鶏肉を食べる。他にもウェルセドール連山には熊やイノシシ、シカ、ウサギなどがすんでいるから、春から秋にかけて猟師の一団が山で狩りをし、それらの肉や川魚をとってくると言う。ちょうど、今、三部隊にわかれて猟に出ているらしい。


「結界の外で猟をするのか?というか、熊なんかどうやって捕まえるんだ?」

 ハルベリーは猟と言うものがよくわからない。貴族の中には弓矢でウサギ狩りと趣味としているものもいるとは聞いたことがあるが。熊やイノシシとなると、弓矢では対抗できない気がした。

「魔法を使った罠を仕掛けて、今、その罠にかかっている獣を回収にいっている」

「記憶は?猟に出るたびに改ざんされるのか?」

「まさか、猟師は仕事だからな。そんなことはしない。ただ、結界を出入りできる方法を知っているのは猟師頭だけだからな。結界をでてから、それぞれ、別れて猟をしてくるのさ。猟師頭は、二日目に休んだ洞窟で猟師たちが帰ってくるのを待つというのが猟師たちの掟だ」


 ふとニノが疑問を口にする。

「猟でとれたものも、人々で分け合うんですか?」

 バースティアはああそうだよという。

「貨幣は流通していないのか」

 ハルベリーがそう尋ねるとバースティアはしていないと答えた。

「貨幣は外の世界に出たいものに、勉強の道具として与えることはある。ここは協働社会だからな。それぞれがしたいこと、できることをやっている」

「そんな状態で不満はでないのか?」

「それは長が調停するし、仕事はそれぞれ割り当てがある。そういう割り当ても長の仕事だからな。今はセリルが代行者だ」


 街は静かだった。行きかう人も獣人も、軒下でくつろぐ者たちも誰も三人のことを気にしていないようだった。ただ、ときどき老人や年配者が、バースティアを見て会釈している。バースティアも軽く手をあげて微笑む。子供や若い世代は、それをみて何かに気が付いたようだが、特に接触してくる気配もない。


 ニノが平和そうな静かな街をみながら、たずねる。

「外に行きたい人っているんですか?」

「いるよ。そういう奴には一年くらい外で生活させるんだ。馴染んだら、記憶を改ざんしてそのまま野放し。場合によっては、先に外になじんで生活している奴のところに親戚として送り込んだりすることもあるな。若い場合は特に保護者が必要だからな」

「魔法師団に入っている奴らはどうなんだ?記憶を改ざんされているなら、帰ってこないことのほうが多いんじゃないのか?」

 ハルベリーが尋ねると、それはないと言う。

「魔法師団にもぐりこませてるのは、獣人の魔法師だからな。外で暮らすってことは、奴隷として暮らさなきゃならない。変幻の魔法も五年ぐらいで一度は解ける。魔法師団のサイクルとしては、三年に一度、一年くらいの休暇がもらえるから、三年ごとに交代でもぐりこむ」

 まあ、その辺はおいおいなとバースティアは、話をはぐらかした。


 おおざっぱに街を案内したバースティアは、二人をつれて長の家にもどった。夕食にはまだ時間があったので、バースティアはちょっと出かけてくると言い残し出て行った。

「ハル?どうしたんですか?難しい顔をして」

 ベッドに腰掛けているハルベリーにニノが問う。

「……バースティアは、俺が帰ることが前提で話を進めてるのがな。気にくわん。錬成学校に入れとか、魔法師に学べとかさ」

「それは……」

 ハルが王子で大公だということだろうと思うが、刺客のことが気になってニノは言葉にするのをためらった。

「立場ってものを考えろってことなんだろうけど……。俺はここで魔法の勉強がしたい。家に戻っても、片足じゃあ錬成学校には入れないだろうし、在野の魔法師なんて知らん。フリードマンに頼めば探してくれるかもしれないが……サリエリも言っていたよな。超級の魔法師になれるほどの魔力があるって」

 ニノはうなずく。

「だったら、人間の魔法師じゃダメな気がするんだ。それにな……」

 ハルベリーは少し言いよどむが、言葉をつづけた。

「俺がユスタファムを探してたことは話したな」

 ニノははいとうなずく。

「シャドーヘイス山は遭難しやすい山の一つだ。王は密命でここに登り、幻の城塞都市ユスタファムを探せと言ってきた。それも俺自身でな。王にとって俺は殺したいほど邪魔だってことだ。刺客も差し向けられてるしな」

 ハルベリーは苦笑した。自分が父にとって邪魔な存在なのはわかった。少なくとも、弟が王太子になるまでは、第一王位継承権はハルにある。もしかしたら、王宮内にハルを王座につけようという動きもあるのかもしれない。そんなことがありえたとしても、ハルには王位に興味がなかった。大公の仕事でさえ、実をいえば面倒なのだ。

「バースティアもな、暗示をかけるなら山で遭難して行方がわからないことにでもしてくれればよかったのにな」

「そうですね。でも、バースティアさんの立場上、その判断はできなかったんじゃないかと僕は思うんです。少なくとも遭難となれば大勢で山を捜索することになる。いくら結界で見えない壁を作っていたとしても、何かの不安要素はあるんじゃないでしょうか?」

 ハルベリーは考え込む。どうにかして、ここに残る方法があればいいが。

「ハル。バースティアさんにここに残りたいことをちゃんと言ってみたらどうでしょう?」

 ニノは真剣にそういう。いろいろ策を弄したところで、かなう相手でもないことはわかっているから、ハルベリーはそうだなと答えた。

「正攻法が一番いいかもしれん。なんにせよ、話をしないと何も変わらないよな」

 ハルベリーはニノの提案をのんだ。


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