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獣王の娘と片足の王子  作者: papiko
第二章
16/31

6

 ハルベリーとニノがとりあえず滞在することを決めようとしていたとき、バースティアが一人姿をあらわした。

「待たせた。話はだいたいわかったか?」

 ハルベリーは難しい顔でお前がとんでもないババアだということはわかったきがすると言うと、バースティアはのどの奥でくつくつと笑った。

「そうか、それならある程度は咀嚼できたわけだな。それで、どうする?ここに滞在してみるか?それとも記憶を消して大公家に帰るか?」

 バースティアは靴を脱ぐと、さっきまでサリエリが座っていた場所に腰を下ろしてそう言った。

「それなんだがな、俺は五日以内に下山しないと……お前、今、記憶を消すとかいわなかったか?」

「言ったよ。それが何?」

 ハルベリーは考え込む。確かサリエリがバルドランがこの地になじめない者の記憶を消して安全な場所へ逃がしていたと……。

「お前もできるのか?」

「ああ、消せるよ。多少、骨は折れるがな」

「それは、魔法なのか?」

 それは秘密だとバースティアはにやりと笑う。

「まあ、基本的には一度この地を離れる者は、一時的にせよ、死ぬまでにせよ、記憶を消すというか改ざんするのが掟だ。まだ、迷いもあるだろう。三日ほど滞在してみるといい。ハルベリーはそれで帰るというなら、あたしが屋敷まで送り届ける。ニノはこのままここに残れ。少なくとも、お前は魔法を覚えないとな。そのうち魔力が暴走しかねない」

 ニノは驚いた。


「ま、魔力って暴走するんですか?」

「ある程度強度があるとな。すくなくとも中級魔法まではマスターしてもらわないと、外へは出せない。悪いな。ニノ」

「いえ、僕はここでいろいろ勉強したかったので……」

 ニノは少しうれしそうに微笑む。そして、ハルベリーは自分は帰ることが前提となって話が進むので、多少むっとしていたが、バースティアとニノのやりとりを聞いてはっとする。

「ちょっと待て、俺の魔力は問題ないのか?」

「いや、問題はある。ニノと同じくらいな。だが、お前は人間だからな。魔力については連邦政府の魔法師団が対応してくれるだろう。それにお前は大公とはいえ、王子だからな。魔法師団の錬成学校に入ることもできるし、魔法師を雇って制御術を身につけることもできる。ニノはそうはいかないからな」

 そう言われてハルベリーは、そうなのかと問い返した。

「相変わらず、不勉強だな。まさか、サリエリが困っていたのはこの知識不足か?まったく、人間の上に王子さまなんだから、連邦政府や魔法師団の基礎知識ぐらいもっておけよ」

 バースティアは呆れながらも、まあ、仕方がないかとつぶやいた。


「よし、それじゃあ、三日滞在のうちにハルベリーは連邦政府と魔法師団について勉強しろ。ちょうど、魔法師団にいた奴も帰ってきているから、直接話を聞いて錬成学校に入るか、魔法の教師を雇うか考えろ」

「ちょっと待て……帰ってきたって……ここに戻れるのか?」

「ああ、魔法師団に何人かもぐりこませている。魔物の動向に気を付けないといけないからな」

「そう言えば、サリエリさんも魔物がどうとか言ってましたけど……」

 バースティアは、そうだとうなずく。

「ニノは旅芸人の一座にいたから、知っているかと思ったが……小さい頃のことはあまり覚えていないんだったな」

 ニノは、はいと小さくうなずく。

「魔物がすんでいる地域は限られている。キュリアシス連山、ボルオレスの森、渓谷ロックウォールの三か所だ」

「国境の禁足地か」

 ハルベリーが答えると、バースティアは真剣な表情でうなずく。


「そうだ。今のところその地域を出てこないように、魔法師団が押さえてはいる。それでも、禁足地近くの村や町が突然、襲われることもあるんだ。どうしたって、人間だけじゃ人手が足りてない。連邦政府も魔力のある子供を探しているが、魔法師団のような危険なことをさせたくない親が多くて、人もあまり集まらないのが現状だ。裕福な家庭の子供は、魔力が強いとわかれば在野の魔法師に制御術を学ぶ。だから、錬成学校には孤児や貧しい家庭の子が多い。そのせいか、常識がない乱暴者の集団だと偏見を持たれている。特に都市部ではそういう偏見が強いんだ。実際には、魔法以外の教育もきちんとうけている。そうしなければ、統制はとれない。まあ、仕事柄多少荒くれは多いがな」

 ハルベリーはまるで魔法師団にいたような口ぶりだなと呆れると、バースティアはにやりと笑う。

「まあ、在籍経験はあるな」

 ハルベリーは眉をしかめる。冗談だろうといいかけて、バースティアが尋常でない長寿の存在だということを思い出した。だが、それは成長が遅いだけだと言っていたのを思い出す。

「お前はどこからどう見ても獣人にしか見えないぞ。それに見てくれは子どもじゃないか、どうやってもぐりこめるんだ?」

「変幻術の応用だな」

 バースティアはさらりと答えた。ハルベリーはため息を吐く。

「お前はなんでもできるんだな」

 皮肉のようにハルベリーがつぶやくと、バースティアはそうでもないぞとあっさりと否定する。

「歴代のメイデェンたちに、怒られてばかりだからな。もう少し気持ちを察しろとか、憐みをもてとかなぁ……言葉を選べと未だに言われる。これでもだいぶなおしたつもりだがな」

 バースティアは親に叱られた子供のように珍しくしゅんとしたので、ハルベリーはそれ以上、皮肉も何も言えなくなった。


(なんだ、しおらしいところもあるじゃないか)


 そうは思うが、なんとなく落ち着きが悪かった。やはり、バースティアはどこか横柄な態度のほうが似合う気がした。ハルベリーがそう思っていると、バースティアは果物の籠から杏のようなオレンジ色の実を一つとってかぶりつく。それから、お前らは食べないのかとハルベリーとニノに籠を差し出した。二人は適当に実をつまんでかぶりつく。甘酸っぱい味が口いっぱいに広がり、喉を潤す。

「おいしいですね。なんていうのかな、この実」

「李の一種だ。レピという。今の時期がたべごろだな」

 バースティアは口から種を吐き出して、銀のさらにころがした。それから、思い出したように言う。

「ルクソールの遺骨を埋めようと思うんだけど、お前たちはどうする?ここにいるか?」

 二人は一緒に行くと言った。

「わかった。じゃあ、森に行こう。この街では遺骨や遺灰は森の木の根元に埋めるんだ」

「それは一種の墓じゃないのか?」

 ハルベリーが尋ねると、バースティアは首をふる。

「遺骨が入っている箱は木箱だから、土に埋めればやがて腐る。骨もそのうちとけて土になって木々の栄養になるから、墓にはならないよ」

 なるほどとハルベリーはうなずいた。墓がないとは、特別に墓石がなく、単純に土に埋めるという行為だけなのだ。ハルベリーは墓がないことが死者への冒涜のような気がしていたが、そうではないことをようやくのみこんだ。

 三人は神殿を出て、近くの森へと入る。森の中は薄暗いかと思っていたが、木漏れ日がキラキラと輝き、なんとなく幻想的な雰囲気を醸していた。

「どこにするかは、ニノが決めろ」

 そう言われて、ルクソールの遺骨入りの箱をもったニノは、ぐるりと森の中を見回した。そして、古い大木の側に若木が一本、弱々しく成長しはじめているのを見つける。

「あのあたりに埋めたいんですが」

 そう言うと、バースティアはわかったと言って、若木のそばまで歩いていく。

「穴はどうするんだ。掘る道具をもってきてないぞ」

 ハルベリーがそう言うと、まあ、見ていろとバースティアはしゃがみこみ、右手を大地にあてた。

「土よ。小さく開け。わが声に従え」

 バースティアのその一言で、土がえぐれた。ちょうど箱がすっぽり収まるくらいの穴だった。

「魔法か」

「そうだ。初級のな。自然に命じるだけだから、言葉は短い」

 呆然としているニノを促し、穴に箱を入れさせて、バースティアは閉じよとちいさくつぶやくと土は何事もなかったように元通りになった。物を埋めた痕跡は、何一つのこっていない。

 ニノはしゃがみこんだまま、じっと地面を見つめる。そして、ぽんぽんと二度ほど閉じた土を叩いておやすみなさいと心の中でつぶやいた。


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