モブの力
これで終了となります。いかがだったでしょうか?
僕は頭に血が上っている。きれいごとを言いかねないヒーローの願望がまだ残っているのかという位『助けたい』という気持ちで一杯である……というのを、普通の人は見るだろう。
確かに僕は普通に笑ったり怒ったり泣いたりする。一般的な人達と同等の場所で同様の感情を抱き、表現できる。
という時点で、実はかなり冷静な自分が存在するということに気付いているだろうか。
出来る。だけどどこかではどうとも思わない自分がいる。そういうものなのだ。
親しくなった人がバカにされたから怒る。好きな人が亡くなったから泣く。面白いから笑う……そう言った自然なものが普通に共感して表現できるけど、それだけ。
――平等家は僕の感情に関してまで影響を及ぼしている。
適当に走った僕がたどりついたのはなんと墓地。必死に入っている中冷静にどちらの道を行くか勘で決めた結果嫌なところに来た。
迷子になったのは確定だろうけど、何もこんなところに来なくてもいいんじゃないかと自分にため息をつく。
その瞬間、『僕自身』が体験したことのある異常を察知。
これは血の臭い。腐食したものではなく今も流れているもの。
その意味を自分なりに解釈した結果最悪なビジョンが浮かんだため急いでそのにおいを辿る。
今回は平凡に解決できないだろう。この段階になってしまったのだから薄々気づいている。
ならばどうするか。簡単だ。クーデターが起こっているかどうかわからないが、この場を治めてから自分の『役』をかなぐり捨て、すべてを使って阻止する。
そう決意して走っていると、丁度、クラスターさんが血だらけの上に肩で息をしながら『誰か』と闘っているところだったので、僕は石ころを拾って彼女の後ろから跳び上がり、その誰かに全力で投球する。
とはいっても平均的な速度しか出ない。しかしそれだけ出れば人を殺すことも可能である。
果たして。投げた石ころは誰かに直撃して後ろに倒れ込んだ。
彼女を飛び越えた僕は、前の集団の奥の方にシエスタさんがいるのが見えて息を吐く。
「ありゃりゃ」
「ロイ君!? どうして君がここにいるんだ!!」
そりゃそうだろうなと思いながら彼女の隣に下がった僕は、「彼女が病気じゃなくて『呪い』にかかっていたのが分かったから様子を見に行ったらもぬけの殻でね。適当に走り回って見つけたわけ」と言うと案の定驚いた。
「な、呪いだって!?」
「そう。おそらく幼い頃に掛けてから薬で徐々に蝕んでいったんだよ。彼女が薬を途中で飲むのをやめたのを知ってこういう手段にしたのかどうかまでは分からないけど」
「そんな……それじゃぁ、シエスタは……」
「諦めないでよ、クラスターさん」
「え?」
落ち込んだようなので僕は言う。
「呪いなんて解く方法はある。だから諦める理由にならない」
「そ、そうなのか……」
「けれどまぁ、この状況を何とかしないと、だけど」
「ああ……クーデターを起こそうと考えてる奴らは魔法で洗脳されてる様だからな」
「なるほど……」
言われてあらためて見渡すと、確かに目がおかしい。虚ろだ。
となると更に黒幕いるのか……面倒くさい。
剣を構え直しているクラスターさんに僕は肩を叩く。
「ねぇクラスターさん」
「なんだロイ君」
顔をこちらに向けずに返事をする。確かにこちらを見たら危険だからね。多分。
まぁやる事をやったので「思いっきり戦ってね」と言って敵に突っ込む。
「え? あ、あれ、傷がない!?」
――平等家は僕を平凡にするわけではない。あらゆる境界に立つのが平等家である。
それは、僕が意識しさえいれば傷だらけなら普段通りの状態にでき、絶好調の相手の調子を落とすことも可能である。
ということはあらゆるものを僕がしていれば平凡にできてしまう。
使い方次第ではもう凶悪極まりないこの力は、けれど、基本的に使わずに僕が平凡の状態にとどめている。
悪用する気起きないからなんだけど。
その力を駆使して一人一人に触れ洗脳状態から平凡に戻す。
もはや平凡な旅人ではないが、介入することを決めた以上どうだっていい。
そうやって戻し続けながら先へ進むと、僕の存在に気付いた騎士の一人が剣を振り下ろしてきたので半身をずらして避け、あごにアッパーをかます。
崩れ落ちる騎士の一人を見ずにそのまま行こうとしたところ、今度は三人まとめて。
「って、それはひどくない!?」
さすがに三人別々の角度から切り込んでくるので避けるのに必死。
クラスターさんはどうやら一人一人気絶させているようなので助けを求めるのは不可能。
しょうがないので、僕は避けながら触って戻す。
触ると同時に騎士の人は糸が切れた様に崩れ落ちる。洗脳の弊害だろう。
ともかくこれでほとんどいない。さっさと寝ているシエスタさんを助けに行こう。
そう考えてスパートをかけたところ、真横から巨大な火の玉が飛んできたので避けられず直撃。
すぐさま平等家の力で元に戻し飛んできた方に体を向けて立ち止まっていると、音もなくメイドさんが姿を現した。
僕は『あなたが黒幕ですか』とため息をついて告げる。
「ええ。私はこの国が憎くて仕方ありませんので」
「憎い……その為だけにシエスタさんに呪いを?」
「ええ。呪いをかけやすいのが生まれてすぐの子ですので」
そう言うと彼女は僕に掌を向ける。
「もう少しで成就するのです。あなたには退場願います」
それに対し僕は息を吐いてからいつも通りの態度で言った。
「退場しますよ。あなたを戻してから」
「できるものなら」
そう言って彼女は僕に魔法なのか手のひらから槍を僕に飛ばしてきた。
もはや問答無用だけど、これくらいなら僕は最小限の動きで避けられる。
「……今のを避けますか」
「まぁね」
そう言うと火の玉やら氷の槍やら地面から槍が生えてきたので、僕は冷や汗が流れてるのを自覚して覚悟を決めて駆け出す。
「! させません!!」
僕がシエスタさんの方へ向かっているのが分かるやすぐさまその魔法を一斉に放ってくるメイドさん。
危ないので何とか全て避けながら近づく。
火の玉をスライディングで躱し。氷の槍を横っ飛びで。地面から生えてきた槍は氷の槍にぶつけて。
それらを繰り返しながらコツコツと進むと、魔法の種類の一つに固定して繰り返し始めたのでたまらず遠回りする羽目に。
「そもそもどうして彼女に呪いをかけたのさ!」
単純な疑問と時間稼ぎに問いかけると、一番かけ易かったからですよ! と同じ答えが返ってきた。
それを聞いた僕は何も言わず再びシエスタさんへ走り出す。
それを阻止しようとメイドさんが再び僕を攻撃しようと手のひらを向けてきたが、僕はそれができないことを知っている。
「シエスタによくもぉぉぉ!!」
「!!」
だって、クラスターさんが彼女に向かっていたのが見えたから。
声に驚いたのか反応が遅れた彼女にクラスターさんはロングソードの柄で頭を殴り気絶させた。
どうやら彼女を寝かせていた台も魔法だったらしく気絶したと同時に消えてしまったので、僕はヘッドスライディングで彼女を助けた。
顔面痛いし丁度背中に乗ったみたいでそこも痛い。仕方ないので力を使って元の姿にしたところ、上にいるシエスタさんにも影響を及ぼしたらしい。すぐさま目を覚ましてから起きたらしく、「クラスター姉さま!」と向かってしまった。
何事もなく起き上がった僕は首を回して息を吐き、これで終了かなとポケットに入れていた紙を広げる。
案の定何も書いてなかったのでやっと帰れると思いながら伸びをしていたところ、「ありがとうロイ君」とクラスターさんが礼を言ってきた。
「どういたしまして。元気になったようで何よりです」
「ああ。洗脳されていた騎士団たちに父を呼びに行ってもらったから、彼女が起きる前にはこちらに来るだろう」
「となるとわたくしはこれでお暇しますね」
「? どうしてだい?」
「大事に首を突っ込んだら移動する。そう決めて旅をしていましたので」
「そうなのか……」
そう言って納得するクラスターさんとは対照的に、シエスタさんは「もう少しだけでもいられませんか?」と訊いてきたので首を横に振る。
「残念ですが。私はそろそろ旅に出ます。またどこかで会いたいのでしたら祈ってもらえればきっと」
「そうですか……でも、これだけは言わせてください」
「はい?」
歩き出したところで言われたので振り返ると、シエスタさんはなんの翳りのない笑顔で「ありがとうございます」と言った。
不意打ちのようなその言葉に僕は赤くなった顔を見せないように歩く方向へ向け、手を挙げてそのまま森の中を歩き出す。
こうして、僕は八日も学校を休んで事件を解決した。
まぁ怒られたけどね。こっぴどく。




