モブのやり方
――えっと。
どうしたものかとその場(噴水)で考えてるから、中途半端な説明を続けようかな。
えっとーどこからにしようか。たぶん僕が住んでいるところは紹介して現状についての説明を軽くした程度だろうから……そこからにしようかな。
僕が住んでいるところは色々とおかしい人達ばかりが住んでる。という説明をしたけれど、その影響かこの学校の旧校舎は少々おかしくなったとのこと。
なんと平穏に暮らしている僕達の世界とは別に存在する世界――並行世界だけでなく、ファンタジー世界も――とつながってしまったという。それが校舎を変えるきっかけになったとか。
原因がその当時教師として来ていた魔女が時空ひらいちゃったせいらしいんだけど、そのまま放置。
した結果行方不明になる子が絶えず、高校生以上でないとダメという決まりに。
そうすると高校生が力試しで飛び込む人が後を絶たなくなり歴史がおかしくなるという問題が発生。
それヤバくね? と満場一致の思考で何があったかというと……その世界における『これはヤバい』と思われることに関して高校生以上の適職な人物たちを入れるという案が採用され今に至るんだって。
んで、適職というのはまぁ各々の特徴を生かすという意味なんだけれど……わざわざ僕みたいな平凡な一高校生が入るというのは些かおかしいでしょ?
というより引き取られるというところからすでにおかしいんだけど、それはどうやら村長(神様)を中心とした人たちが僕の事を知っていた。
僕は、努力しても平均的な部分に留まってしまう。さすがに努力しないと下の方へ行くんだけど、いくら頑張ってもずっと平均。
そのことから村長に引き合わされた時に言われたのが『平等家』。どこまで行っても境界線上に到着してしまう人間の事を指すそうで。
そんな人間は村長が生きてる中で三人目だと言ってたから結構レアらしい。実感ないけど。
そこからまぁ……ここまでに旧校舎の入り口から別世界に入りまくって僕の特徴を生かしてきた……という訳。
本当にね。他のみんなは先生曰くちゃんと場所が特定するらしいんだけど、僕だけどうにも『何かしらの危機があり、なおかつ緊急性がある』場所に飛ぶ。おかげで最初の頃行って来いと言われた場所と全然違う場所に到着して帰ってから文句言ったよ。
帰る方法はいくつかあるけど、僕は基本的に自分の役割が終わったのを見届けてから出現する穴に入る。
穴というのは通路。僕が住んでいる世界と飛んだ先の世界をつなぐ。これは村の古参の人たちが作ってくれる。
中には僕達の年代で自力で帰れる人がいる。これはもう先天的な能力か、人間の限界を超えた人たちぐらい。
でも僕ぐらいしか頻繁に呼ばれてないような……? 改めて振り返ってそう思ったけど、なんか過ぎたことはどうでもよくなった。
それよりどうするかちゃんと考えないとなと思った僕は、改めて紙を取り出して内容を確認する。
そこに書かれていたのを要約すると『この国の騎士団のクーデターを阻止しろ』というもの。
これが騎士団の平団員だったら内部にもぐりこんだ形になるというのに役割すらランダムだからなぁと己の平凡さを嘆きつつため息をつく。
兎にも角にも今日の日銭を稼がないとどうしようもない事に気付いた僕は、こうしちゃいられないのでどこか働ける場所を探そうと思い立ち、人ごみの雑踏に紛れ歩き出すことにした。
「……どうしよう」
なんだか今回はのっけから大変なことになった。なんと宿屋やレストラン、果ては大体人手が足りなそうな場所まで仕事がないのだ。
え、何? 今回結構平和な世界? だからクーデター発生を阻止したいの?
来てから何も食べずに日が暮れてしまい、仕方なくトボトボと道を歩く。
お金もない。帰る場所もない。仕事もない。ないないづくめの現状に気が滅入るのが自覚できている僕は、再び溜息をついてその場でしゃがむ。
「本当、今日はどうしたものかな……」
「どうしたんだ君」
呼びかけられたので顔を上げる。
そこにいたのはかなりな美少年。うちにいる勇者みたいな美形。そんな彼がそれなりに重そうな鎧を兜以外フル装備している。
あ、邪魔になったみたい。そう思って立ち上がりのそのそと端へ寄ると、「大丈夫かい?」と訊かれたので反射的に「僕ですか?」と聞き返してしまった。
「ああそうだよ」
優しい人だなと思いながら、「ここまで来たんですけどお金がなくて……働こうと思ったんですが人手が足りてるみたいで」と先程まで使っていた言葉をそのまま使う。
それを聞いた彼は「そうか……なら、私が仕事を紹介しよう」とありがたいことを言ってくれた。
「本当ですか?」
「ああ。さしあたってはどうだろう。一緒に来てくれないかい?」
ここで僕はふと考える。
今回僕は騎士のクーデターを阻止するというもの。だというのに騎士の誘いに乗っていいものだろうかと。
少し考えてみたけれど、ここは乗ってみた方が良いと結論付けた。
鬼が出るか蛇が出るか分からないけれど、こうして騎士の人に近づくことができたのだから。
「それで、どうだい? 来てみるかい?」
「あ、ありがとうございます!」
空元気で声を上げて頭を下げる。相手への印象を少しでもよくするために。
僕の声に驚いたその人は、けれどすぐに笑顔になって「それじゃついてきて」と言われたのでおとなしく追いかけながら、彼にこの国について訊いてみた。
「助けていただいたのに不躾なのですが、わたくし遠い国から今朝着いたばかりでこの国の事をよく知らないのです。よろしければ教えていただきませんか?」
「そうなのかい? この国を知らないのはよっぽどの辺境から来たってことだけど」
「親元離れて遠くへ行きたかったのです」
そう言うと勝手にあちらが納得してくれた。
何度も世界を跳ぶと大体の行動の仕方が分かる。話の方も、相手に誤解を与える程度で言っておけば問題ないのもその一つ。
「この国は世界でも有数の国なんだ。特にこの首都は世界で一、二を争う華やかさだと僕は思うよ」
「確かに活気はすごいですね…」
歩きながら、店の人達に挨拶される彼に対し素直な感想を述べる。
路地裏をちらりと見たけど視線を感じない。貧困者はここにいないのか、それとも別なところに移されているのかそれは定かではないけど、何となく気がかりになる。
延々と歩いているような気がするので、僕は質問した。
「あの、わたくしは一体どこへ連れて行かれるのですか?」
それに対し彼は「もうそろそろ着くから」と言ってこちらを振り返らない。
こりゃ失敗したかなと後悔していると、「ここが僕の家さ」と立ち止まった彼に説明された。
ピンとこない僕は首を傾げる。
「あの、仕事を紹介してくれるのでは……?」
「だから、紹介してるよ。ここで僕の妹の面倒を見て欲しい。報酬は一日銀貨一枚でどうだろう」
「……」
目の前の家は――家より庭の方が広いから少し遠く感じるけど――大きい。兎にも角にも豪邸と言っても過言ではない。
ひょっとして本当に偉い家の人? そう思っていると顔に出ていたのか「ああごめん。自己紹介してなかったね」と言ってから笑顔で名乗った。
「僕の名前はクラスター=ローグ。この国の武家貴族筆頭であるローグ家の跡取りさ」
……あ、ものすごく偉かったわ。こりゃ下手うつと死にかねないぞ。
内心でそう考えながら、僕もサラリと自己紹介した。
「僕の名前はロイと言います。ですが、特に偉いという訳ではありません」
こうして、僕の住込み生活が始まることになったけど……
何時までやってりゃいいんだろうね?