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行ってきます

 モブキャラ。


 ライトノベルやゲームでは主人公を引き立てたり関わりがないけれどいないと寂しい場面に存在する人達の事を指す……とのこと。


 これはつまり、自身の人生における他者と言い換えることができる気がするのだけど、伴侶とかもいわゆるモブに相当するかは謎だと思う。


 なぜまぁいきなりそんな人生において恐らくあまり役に立たないであろう主観的見解を言ったのかというと、まぁ不意に思い立ったものだからなのだけれど。


 それはとても「僕」の事を指しているようで自分で納得してしまったわけである。


 そもそもの話、自己完結における結論というのは主観でしか語ることができないが為自分に都合の良いものになる。つまり、納得できないわけがないという事。


 そんなことを考えながら自分の席で本を読んでいると、「かーえっろ!」と持ちかける声が聞こえたため、僕はしおりを挟んで机に置き、目の前にいる少女に言った。


「そう毎度誘わないでくれないか? 僕にできることはないのだから」


 そう言うと少女は「いいじゃん一緒に帰ろうよ~」と駄々をこねる。


「どうせ一人で帰るんでしょ?」

「君は待っている人と帰ればいい。待たせるのは悪い事でしょ?」

「君だって私を待たせてるでしょー? お互い様じゃない」


 言葉に詰まってしまう反撃を受けたけれど、そもそもの話僕はちゃんと言ったはずである。


「今日僕は先生に呼ばれて遅くなるんだ。だからこの時間帰る納谷さんと一緒に帰れない、って言ったはずなんだけど?」

「あちゃーそういえばそうだったねー」


 しまったという顔をする目の間の少女――納谷さん。その可愛らしい顔立ちでやっているからか、それほど嫌な感じはしない。

 そうと決まれば彼女は早いもので、「それじゃねー孝文君!」と笑顔で教室を出て行ったので、僕は先生に呼ばれるまで本を読みたかった。


 が、彼女が去ったのを皮切りに僕の運命は分かり切っていたので早々に教室の窓を開けるが時すでに遅く。


『モブの癖になんでお前ばっかぁぁ!!』

「ふぎゃあぁぁぁ!!」


 残っていた男子生徒の血の涙と叫びと我を忘れた集団攻撃に、僕はなす術もなくボロ雑巾のようにされた。


 納谷さん。僕が通う高校の、僕の学年の、男子の人気女生徒第二位に君臨する純粋そうな笑顔が特徴的な活発系美少女である。ちなみに一位は……ゴメン。僕そう言うのはあまり知らなくて。


 僕の名前は孝文。名字は佐藤。聞いて驚け見て笑え。どこにでもいる平凡な高校一年生十五歳だよ。趣味は読書で納谷さんとは……家が近いという関係。それだけ。


 平凡を地でいく存在である僕は、抵抗らしい抵抗が出来ずされるがまま。終わったのは先生が来る少し前で、自分の席に座らされて顔のあちこちが腫れていた。身体も痛く、容赦ないな本当…と考えたところで先生が来た。


「おい佐藤。なんだまたボロボロにされたのか」

「……えぇ」


 弱々しく返事をするとくたびれた白衣を身にまとったグラマラスな先生はため息をついてから「まったくあいつらは……」とぼやく。

 確かに酷い八つ当たりなんだけど、悲しいかな。僕にはやり返すだけの力はない。なのでされるがまま攻撃を受ける毎日。

 手加減してもらってるんだろうけどね……。


「まぁいい。ついてこい佐藤」

「はい……」


 先生も容赦ないなぁと思いながら、頑張って立ち上がってヨロヨロになりながらも後をついていくことにした。

 後を追いながら歩くこと数分。たどり着いたのは古い建物。学校設立当初はここだったそうだ。学校の裏山に存在している。

 慣れてしまったために移動中に痛みは引いた。完全にという訳じゃないけど、六割ぐらいは回復したんじゃないかな。


「さて、孝文」

「なんですか、先生」


 わざわざ名前を呼ぶあたり学校の教師と生徒という関係と区別してるんだなとこれから(・・・・)始める(・・・)ことに辟易しながら考えていると、一言「行って来い」と言われた。


「今日は変なところじゃないですよね」

「どうだろうな。さすがに前回みたいなことにはならないと思うが」

「先生も知らないんですか……」

「毎度の如くランダム性が強すぎるからな」


 ……まぁ仕方ない気もする…かな。


「それでは行ってきます」

「気をつけろよ。死んだら悲しむ奴らがいるんだから」

「誰だって死んだら悲しみますよ。誰かは」


 そう言って僕はその建物の扉を開けて中に入った。



 さぁって。今回僕はどの世界へ行くのかな?




 僕が住む町、というよりかはなんていうんだろうか。僕がいる村は完全に人里離れたところにあり、住む人達は僕以外のみんなどこかしら人と違う。

 例えば妖怪とか、ドラゴンとか、魔法使いとか、超能力者とか、神様とか、勇者とか、もうファンタジー小説の中だけの世界だと思われた人物たちが住んでいる。みんな人の姿をしてるので初見の人がパッと見ただけだと誰がどうなのか分からない。僕もそうだったけど。


 まぁそんな中にいるのにただの人間である理由は、単純に人格形成が終わったころに親がいなくなって引き取られたからです。

 で、生活し始めて早六年。時折人里に降りたりするけれど、僕が行くのはもっぱら異世界。


 ……うん。ここら辺はちゃんと説明しないとダメな気がするからしたいところだけど、もう世界に着いちゃったのでちょっと中断するから。


 着いた場所は人ごみ溢れた通りが見える路地裏。そこで人を観察したところ、時折これから戦いに行きますよ、みたいな装備を身に着けた人達が歩いているのでこれはファンタジー世界かなとあたりをつける。

 ついで服装を確認したいけどそれなりに狭い路地裏なので光があまり射しておらず、仕方ないので人ごみに紛れて流れに乗ることに。


 すっと何事もなく入り込んでしまったのでそんなに存在感薄いかなと思いつつ歩いていると、広場に着いたのかまばらになる。

 それを利用して真ん中にある噴水に向かった僕は、ようやく自分の服を確認する。


 ……これは、普通の出稼ぎにでも来た感じかな? 普遍的な考えでそうあたりをつけてみる。おそらく間違ってはいないだろう。

 さてどうしたものかなーと自分の服を触っていると、ズボンのポケットにふくらみがあるので出してみる。


 入っていたのは紙。現代の印刷紙ではなく、古い時代に使われていたというものじゃないだろうか。

 高価なものだというのになんだかなと思いながら折りたたまれたそれを広げると、日本語でこう書かれていた。


『今回君にやって(・・・)もらいたいのは(・・・・・・・)騎士団の均等化。その国では騎士団が優位になりつつあるようなので、その暴走を阻止すること』

「のっけから地獄じゃないですか先生……」


 平凡な人間にやらせる仕事じゃないですって本当に。まだ体痛いのに。


 どのくらい学校休むことになるのか想像ができない僕は噴水の淵のところに腰かけて空を仰いだ。

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