表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

五話

 僕は重い足取りで学校に向かった。何となく嫌な予感がしていた。


僕はまた八時十分に校門をくぐる。この時間はよっぽどのことが無い限り変わらない。


昨日のデジャビュを見ているようだった。また琢磨の下駄箱には中靴が入ったままだった。


教室に入った時間、八時十三分。これまた同じだ。


でも琢磨の席は空のまま、十五分を告げるチャイムが鳴った。僕は内心焦っていた。


本当に来ないつもりなのか。僕は誰とも会話をせずに両肘を机の上に乗せうな垂れていた。


十七分を回った頃だろうか、教室の前のドアがガラガラと音を出して開く。僕は顔を上げ、入ってくる人物が誰か見極めようとした。


琢磨だった。


日記にお詫びを書いた次の登校日にしていた様な暗い表情を琢磨はしていなかった。怒りを秘めているようなそんな顔をしている。


何も言わず僕の横を通りぬけた。それはいつものことなのだが、しかし何処か、いつもとは違う空気を感じた。


何時の間にか朝自習の時間は終わり、HRも終わった。一時間目の英語の授業の為に、僕はロッカーに行き道具を取り出し、再び教室に戻った。


一番後ろの席、桐沢が座っている席に琢磨が立っていた。琢磨の席はもう少し、前だ。何かを話し掛けていることは明らかだった。


しかし僕は彼等が話している席には行かず、自分の席に着いた。何の話をしているのかを聞くのが、何となく避けたかった。びびっていたのかもしれない。


授業が始まる二分前に鳴るチャイムが教室に響き渡った辺りに琢磨は自分の席へと戻った。


桐沢は近くの友達と何やら話している。


英語の時間。僕は落ち着かなかった。


そしてその間に一つの決め事をした。この授業が終わったら桐沢に何の話をされたのか聞きに行こうと。


二時間目は体育、プールだったので僕等は水着に着替える為に第一体育館へと移動する。僕は桐沢と一緒に移動した。


「さっきなに話してたの?」

「琢磨と?」

「そうそう」

「何かあいつきれててさ」


僕はやっぱりと確信した。


「何言われたの?」

「いきなり机の前に来てさ、サイト荒らさないでくんないって言われた」

「何で桐沢の席に?」

「前さ俺日記にコメントしたじゃん。それでまた俺だろって思ったっぽい」


そんな会話(ほぼ一方的に琢磨が話しただけだが)を何度か繰り返した後、琢磨は自分の席へと戻ったらしい。


「なあ、一緒に琢磨に謝らないか?」


桐沢が僕に問い掛ける。


「でもあんなの荒らしじゃないだろ」


僕がやっていたサイトだって同じ事を行われたことがある。その時は確か一万五千アクセス増えた。僕はそれをやった人物を知っているが別に荒らしだなんて思っていない。


僕が知っているだけでも二三のサイトで行われていた。


「まあ、そうだけどさ」


そうこう話している内に体育館に着いてしまい、その話は打ち切りになった。


僕は水着にさっさと着替え終えると、みんなが来るのをステージに乗って待っていた。


続々と同じクラス、隣のクラスの男子が集まってくる。


僕は無意識のうちに琢磨の姿を探していた。しかし見つからない。


授業開始時刻になっても琢磨は現れなかった。


「ねえ、琢磨は?」


近くにいた友達に話し掛ける。


「知らない。どっかにいるんじゃない?」


それが何処にもいないんだよ。心の中でつぶやく。


体育の先生が来て、出席を取った。隣のクラスからだったが、欠席はいない様だ。


「じゃあ次七組。誰かいるか?」

「琢磨がいません」


誰かが言った。先生は首を傾げる。


「何処行ったんだ?」

「知りません」


先生も知らないようだった。

理由は分からないままプールの授業は始まった。


授業中、僕は何度か見学者が立っている所に目を向けた。


琢磨が来たか確認する為だ。


結局授業時間の間、琢磨の姿を確認することは叶わなかった。


濡れた体を拭き制服に着替え始めた。

「まじで琢磨何処行ったんだろ」


誰も答えられない。


「保健室行ったのかな」


僕は何となくそんな気がした。


「でもほら」


友達が琢磨の机を指差す。


「鞄ないじゃん。多分帰ったよ」


僕は焦って、琢磨の席を見た。いつも置きっぱなしにしているリュックはあるが、トートバックが無い。


それはもう琢磨がこの学校にいないことを暗示しているように思えた。


答えを見つけるには十分休みはあまりに短すぎる。 三時間目が始まってしまった。


生物の授業。担当の先生はクラスの副担任だ。


「あれ琢磨はどうした?」


先生もまた琢磨がどこにいったのか知らないらしい。


この様子を見る限り、琢磨は学校に無断で帰った様だ。


授業にも身が入らないまま昼休みになった。何人かの友達は体育館にバスケットをしに行く。


いつもは僕も一緒にバスケをしている。しかし、今日は後から参加することにした。


僕はどうしても確かめたいことがあった。


急いで弁当を食べ終えると鞄にも仕舞わずに席を立った。昇降口へと僕は歩を進める。


行く途中で国語の先生に出会い、あいさつを済ませて素通りする。


昇降口には生徒全員の靴箱がある。僕は自分のクラスの下駄箱へ行く。


琢磨の下駄箱を見る。中靴はあるが、彼の外靴は無い。


やはり帰ったのか、僕は気落ちしながら自分のクラスへと帰る。


いつもと違う、職員室を通って教室に戻る道を選択した。特に理由は無かったが担任の先生に会う事を少し期待していたのかもしれない。


結局職員室の前の知っている先生はいなかった。職員室に入るまでする気はなかった。何を聞けばいいのかもわからなかった。


三階の廊下を歩いている時、また国語の先生にあった。


「柴田さっきからさ迷っているな」


いつものような気の利いた返事は出来なかった。そんな気分じゃかった。


教室に戻っても男子はほとんど居なかった。一人になりたくなかったので、僕は体育館に向かう。


男子が六人くらい、バスケットをしている。一緒にやるかと誘われたが僕は断った。


折角偶数で三対三が出来るのだから、わざわざ自分が入って輪を乱す必要もない。


体育館の中心。バスケットで使う円がある辺りに行って寝そべった。


大の字で横になる。バスケットボールを床に着く、ドリブルの音の振動だけが耳に伝わった。


自分が何を落ち込んでいるのか分からなかった。いくら考えても答えは見つかりそうになかった。


悟りは開けないまま昼休みは終わり、授業も終わり、そして一日が終わった。明日が土曜講座で良かったと思った。こんなもやもやした気持ちを抱えたまま一人で土日を送りたくない。


しかし、その土曜講座で僕の心のもやもやはさらに深い物となる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ