四話
今日は三者面談三日目、つまり最終日だ。
当分無い午前授業の至福さを噛み締めながら授業に臨む。
四時間目が終わると教室掃除に割り当てられた僕は掃除のために残った。
掃除を始める前に同じ教室掃除の友達とトイレに行く。
用を終えて外に出ると、これまた同じ教室掃除の亮介と合流した。
「何処行くの?」
「保健室行く。ちょっと用が合ってねー」
「へー行ってらっしゃい」
「お前も暇でしょ?着いてきてー」
「暇じゃないって、これから掃除でしょうが」
「まあ良いじゃん」
「まあ良くないよ」
「前トイレ着いていったじゃん」
「まあ良いか」
そんな感じで二人で保健室に行った。亮介の用が終わるのを待って教室に戻ると掃除開始時刻から十分が経っていた。今日の男子の仕事、机運びはもう中盤に差し掛かっていた。
「晃宏、めんご」
謝ったが、少し怒っているようだ。前面的に僕達が悪かったのでその分一生懸命やることにした。
実際、一生懸命やったかは微妙だったが。
後で晃宏から話しを聞くと、彼が不機嫌だったのは僕と亮介が掃除をさぼりかけたからだけでは無いらしい。
掃除を始める前、掃除がし易いように机を後ろに下げるのだが、男子の内の何人かがそれを怠ったらしい。そうなると、それを下げるのは教室掃除の晃宏達の仕事になってしまう。
細かいことかもしれないが、実際それをやられると腹が立つことは僕も知っている。
掃除が終わった後、親が車で迎えに来るまでの間、ベランダでたそがれることにした。
教室掃除の晃宏、亮介、桐沢、孝弘の五人で話していた。
僕はベランダから身を乗り出して下を見ると、部室に向かって歩いている琢磨を見つけた。
「あ、琢磨」
その声に反応してみんな、下を覗き込む。
「おい、琢磨。ちゃんと机運べよ」
晃宏が琢磨に注意した。そこで始めて琢磨も机を運んでいなかったことが分かった。
その声は経験上、絶対に下の琢磨の耳まで届く声量だった。
「は、なに?」
しかし琢磨は顔をしかめて、面倒くさそうにそう言った。
「だから机下げろって」
晃宏は繰り返したが、琢磨は迷惑そうな顔をするだけで謝ろうとはしない。
「もう、そんなやつほっとけって」
僕は晃宏にそう告げたが正直、今の琢磨の態度にはむかついていた。
「なんだよあいつ」
「前も同じようなことあったよな」
確かに前も同じような出来事があった。詳しくは覚えていないが今回のと非常に酷似していた。
話はそのまま琢磨の話しになり、ホームページの話を蒸し返す結果になる。
「あの日記と言い、あいつ可笑しいだろ」
「あいつのサイト荒らすか」
「まあ、良いじゃん。それよりキリ番ゲームしようよ」
キリ番ゲーム。それは多人数でキリ番を取り合うという物。
キリ番と言うのはホームページに設定されている機能の一つである。
ホームページにはアクセス数という物がある。そのホームページに人が何人アクセスしたか表すので、大抵のサイトでは今日、昨日、合計の三種類が設定されている。
キリ番はその内の合計のアクセスが百番毎や千番毎、ゾロ目毎といった風にある一定の単位の番号を踏むと、賞賛のメッセージが出るという、いわばホームページのお楽しみ機能のような物だ。
「良いね。何処でやる?」
「琢磨の所で良いだろ。あそこ確かまだ五百アクセスくらいだろ」
キリ番はアクセス数が少ない方が取り易い。まだ開設して間も無い琢磨のサイトは絶好の場と言えた。
それだけが理由だったのかは分からない。会話の流れというのもあったのかもしれない。僕も流れでやっていたから良く分からなかった。
僕達は各教室に一台ずつ設置してある、パソコンを起動した。
琢磨のホームページへと移動した。
当たり前のことだが一回サイトを訪れるとアクセス数が一だけ増える。
キリ番ゲームはパソコンのページ更新というボタンを使う。
ページ更新はツールバーのページ更新という所をクリックするか、キーボード上のF5というボタンを押せば実行出来る。
ページ更新をすると、再度そのサイトに入ったことになりアクセス数が増える。
この機能を使えば簡単に百番単位でアクセス数を増やすことが可能だ。
外掃除を終えて参加した佑介を含む六人でゲームをやることにした。
ルールは、しばらくページ更新を連打し頃合を見計らって止める。
その時丁度キリ番だったら勝ち、違ったら次の人と変わるという物だ。
僕らは軽い気持ちで始めた。
ゲームは思っていたよりもずっと盛り上がった。
でもキリ番を丁度踏めるのは単純計算だと百分の一だ。
狙ってやっていると言ってもなかなか難しい物だった。
キリ番がやっと出た頃には合計アクセスは六千近くになっていた。
ほんの十分でこれ程増えたことに僕は驚いた。
画面には、
「キリ番おめでとうございます。BBSに書き込んで下さい」
と表示された。キリ番を取った友達が代表者として書き込んだ。
「1000〜6000のキリ番取りました」
と。
丁度親が迎えに来たので僕は帰ることにした。そのすぐ後にパソコンも消したらしい。
僕は家に帰ると長い昼寝をし、夕食をとり風呂に入った。
風呂から上がると僕は琢磨のサイトに行った。琢磨が日記を書いたかと思ったからだ。
しかし僕はすぐに異変を感じた。
まずアクセスカウンターが無くなっていた。
合計6000を記録しているはずのアクセスカウンターが無くなっている。
そしてもう一つ。大きな変化があった。
琢磨の日記が無くなっていた。
そのサイトは三人で更新していて一人一人ページを分けている。
その中の琢磨のページだけがすっぱり抜け落ちているのだ。
僕には思い当たる節があった。
――あのアクセス数か
その夜、何度ページ更新しても琢磨の日記は表示されなかった。




