二話
「それで今に至るってわけね」
とか何とか言っている間にも、状況は変わっていた。僕は晃宏の話を聞きながら事の成り行きをしっかりと観察していた。
後ろで琢磨が聞いていたと気付いた西田は相当慌てた様子だった。
「うわ、うそ冗談だよ」
「サイト、消すね」
この発言を聞いた西田は自分の責任だと感じたのか、それを阻止しようと必死だった。
「そこまですることないって。きもくないから、本当にさ」
西田が本当に冗談で言った何てことは皆分かっていたし、琢磨も間に受けていないだろうと僕は思っていた。
結局琢磨は返事をしないまま自分の席に着いてしまった。
特に何も起こらないまま放課後になった。僕は帰宅部だったのでとっとと帰ろうと荷物をまとめ始めた。
「おい、柴田ちょっと来いよ」
席をたとうとリュックを肩に掛けた時、僕は呼び止められた。
「なんだよー」
進路を変更して声がした方向へと向かう。面白い話が聞けそうな匂いがした。
男子生徒四人程が集まって、パソコンを覗き込んでいる。
「これ見てみろよ」
差し出されたパソコンの画面には、何処かのホームページのTOPが表示されていた。直感的に何処のサイトか分かった。
「これって琢磨のサイト?」
「大正解」
「どうやってみつけたんだよ?」
「ホームページ検索で岩手、高校生二年、合唱部って調べたら何件かヒットしてな。その内の一つがビンゴだった」
得意気に発見者が報告した。僕は彼を強く賞賛し、この場に居合わせることが出来た自分の強運に感謝した。
「アウトオブキューブ?」
「サイト名っぽいな。洒落た名前じゃん」
まずはプロフィールから拝見することにした。
しかし予想以上にそのプロフィールは驚く内容だった。
「本名、佐藤琢磨。やっぱ間違いないな」
その後も出身地、誕生日等、既に知っていることや特に興味がない情報が続いた。
しかし口癖という所で僕の目は釘付けになった。
「おい、これ見てみろよ」
皆の視線が集まる。強調したい所を読み上げた。
「口癖は、知らねーよ、死ねよ、うざい」
他の人の反応を見る。
「琢磨がこの内のどれか発言したの見た事ある奴いる?」
誰も手を挙げなかった。普通の会話だってそんなにした事ないのに、死ねだなんて言われるはずがなかった。
「これってネット人格ってやつじゃない?」
それはつい最近、小論文の授業で題材として挙がった物だった。だから皆、その単語には馴染みがある。
ネット人格は現実とは違う人格を、ネット上で作り上げ、その人物に掲示板や自身のサイトでなりきるという物だ。作り上げる人格の多くは現実世界では達成できない自分の願望の性格らしい。
結構覚えている物だな、と自分を褒めた。
「ああ、ネット人格だわ」
「ちょっと恐くね?」
「俺らでもこんなことあんまり言わないからね」
しばらくそこの項目で盛り上がった。
「そろそろ日記行こうぜ」
一度、戻るボタンでTOPに戻り、日記という欄を選択した時、僕は異変に気付いた。と言うよりも気付かずにはいれなかった。
画面がエラー表示に切り替わったのだ。そのサイトは存在しませんという文が表示された。
「どういうことだよ?」
覗き込んでいた友達が苛立ちの声をあげる。この表示に僕は見覚えがあった。
「あいつ、サイト消したんだ」
僕達がプロフィールを見ている間に琢磨はサイトを消去したと考えた。サイトの消去はボタン一つで簡単に実行出来る。
皆の脳裏に西田と琢磨がもめた時、琢磨が言った一言を思い出していた。
「このサイト、消すから」
「まじで消したのかよ」
「先日記見とけば良かったじゃん」
「柴田がプロフィール先に開くから」
皆の非難が僕へと向けられた。