一話
僕の周りには自分のホームページを持っている人なんてごまんといる。部活仲間、クラスの仲間、前に同じ中学校だった仲間。何かとグループを作り上げてホームページを作る。
「今日の授業つまらなかった」
「あの人に会えて良かった」
「私サイテーだ」
皆、色々な内容を毎日ほとんど欠かさずに書く。その人がどんな気持ちで、どんな姿勢でその記事を書いているかなんて分かるはずがないけれど、僕はできる限りの想像力を働かせて、それらの記事を見る。
僕も前はホームページを持っていた。今はもう閉鎖してしまったし、その理由を書くつもりもないけれど別に喧嘩して閉鎖したとかではない。
だから別に他の誰かが新たにホームページを立ち上げた所で驚かないと思っていた。
僕もまたいつか日記を書くのかな。
そんなことをぼんやりと考えていた。だから先生が僕を睨んでいることにも本当に気付いていなかった。
「それじゃペアワークをして下さい」
机の上に出ている教科書を確かめる。ライティングの教科書だ。今が何の授業なのか再認識した。
どうやら今は教科書を英文を見て音をし合い、相手の発音があっているかどうか確かめるということをするらしい。隣の佐藤琢磨が僕が教科書を開くのを待っている。
僕はのろのろと教科書を開く。当然何処を開くのかなんて分かってないから、当ってるかどうかは運任せだけど。
「…じゃ、柴田…ろうか」
またかと僕は溜め息を吐く。彼の言葉は上手く聞き取れない。今聞き取れたのは、僕の名前だけど。純粋に声が小さいのだ。
「聞こえないんだけど」
「…ごめん」
自然と語尾が強くなっているのを感じた。
「・・・・・・・・・・・・」
全然大きくなってない声に苛々しながらも、琢磨の口元には絶えず注意を置く。彼の唇が一定期間動かなくなったら、音読が終わったってことだから。
終わったようだ
「いいんじゃない」
それだけ言うと僕は後ろの晃宏の方を向く。本当は僕が読まなきゃいけない番なのだが、何処を読むのか分からなかった。
僕は晃宏と内容のない、世間話をする。最初は笑顔の晃宏だったけど少し経つと顔が険しくなった。理由は僕にも分かった。隣の琢磨が身を乗り出して、僕等の話を聞こうとしているのだ。
害はないけれど、話にくいのもまた事実だ。結局、「話をやめなさい」と先生に注意されるまで琢磨は身を乗り出したままだった。
琢磨はいつもそうやって僕等の話を聞こうとする。仲間に入りたいのは分からないけれどどう対処すれば良いか判断できないのもまた事実。
何時の間にか四時間目が終わって、昼食の時間になった。
友達とどうでも良い話をしていたら眠くなった。僕は学校で良く眠くなるし、実際に眠る。家で夜更かしをしているからなんだと自己分析はしているが改善をしようとは思わない。それほどに深夜のラジオは面白いから。
夢の中をさ迷っていると後ろの方が騒がしくなっていた。別に昼休みなんだから騒がしくなっても良いんだが、何か気になったの。
目を擦って体を起こす。乾いたコンタクトのせいで少し目が痛い、酸素不足だ。
後ろを向くと琢磨が一人の男子に向かって何か言っていた。少し珍しい光景だった。
「きもくてごめん」
状況を整理しようとしたけれど、全く分からず近くにいた晃宏に詳しく聞く事にした。
「どうしたの?」
「また寝てたのかよ。それがさ…」
晃宏から聞かされた話は僕に興味を持たせた。今日の昼休み、男子は一つの話題で盛り上がっていたらしい。それは琢磨がホームページを持っていたという物だった。
別に彼がホームページを持っていただけなら驚かないのだが、どうやらそれは琢磨一人のホームページらしい。女子でさえ個人のホームページを持っている人は少ないのに男子ならさらに稀だった。
それも琢磨が、だ。その話を聞いた友達、西田が言ったらしい。
「何それ、きもくね?」
「そしたら後ろに琢磨が居たってわけ」