第一話 マラソンマン、ホリススム
気が付くと俺は暗闇にいた。
俺の目は確かに開いているのだがどこまでも闇が広がっている。
……というより俺の体を何か重くて黒い物が覆っている様な…。
えーと……どうなったんだ?
……あ、そうだ、学校の前でタクシーに吹っ飛ばされたんだ!
吹っ飛ばされた後、意識がスーッと遠くなって世界が白く塗りつぶされていって……。
クソッ、気を失うなんて小学校の音楽会の練習以来だぜ。
あの頃は体力が無くて長時間の立ちっぱなし歌いっぱなしでよく貧血になってたんだよなぁ……。
ところで暗くてわからんがここはどこだろう。
病院……なのかな、やっぱり。
流石に毎日走って鍛えられた体とはいえ、車にぶっ飛ばされてタダで済むわけが無い。
あの後病院に運ばれて治療を受け、一命を取り留めたのだろう。
だが学校を休む羽目になってしまった。
あまり成績の良くない俺に与えられる数少ない皆勤賞が……。
……まあ命は助かったみたいだし、あきらめるしかないか。
死んでしまったら友達とも別れる破目になっていたしな。
しかし今の俺は寝かされているようだがこの全身の圧迫感は一体……?
寝てるとこもベッドというには固くてなんか冷たい。
周囲を確認するべく圧迫感に逆らい、無理やり首を左右に動かしてみる。
やはりどこを見ても暗闇だ。非常等みたいな小さな明かり一つ見当たらない。
ゴリゴリゴリッ
ん? なんだこの音?
首を動かすと同時に、何かを削る様な鈍い音がした。
ひょっとしてこの圧迫感、俺の体を固定している医療器具とかか?
だとしたら無理に動くのはまずいな。
せめてナースコールはないかと腕を動かし辺りを手で探ろうとしてみた。
ゴリゴリゴリ……。
また鈍い音がする。
そして動かす腕はやけに重い。動かすたびに何か細かなものが腕や体に降りかかる。
ここらで俺は異常に気付く。
この圧迫感。俺の体を固定しているのではなく俺の周囲を埋め尽くしているような……。
そして体に降りかかったパラパラとした細やかな『土』や『石』の様な物……。
ま、まさか……。
埋められてるのか俺!
た、確かに俺の住んでる街は田舎といえば田舎だが土葬の習慣はないはず!
あっ! まさか俺を轢いた奴が証拠隠滅に俺の事を!
冗談じゃない!
命が助かり一安心、と思っていたら絶賛、命の危機が継続していたとは!
必死に体を動かしこの場所から這い出ようともがく。
幸い体はどこも痛む所はなかった。
それでも土中に埋められた人間が、
素手で呼吸の出来ない様な場所から這い出る事が出来るか疑問ではあるが――――
そんな知識の無い俺はそんなの関係ないとばかりに土の中と思わしき暗闇を掘り進んでいった。
掘った。掘った。堀まくった。
とにかく自身の赴くままに暗闇を掘り進んだ。
右も左も上も下も考えず掘り続けた。
――――――――――――――――。
どれだけの時間掘り続けただろう。
一向に光ある場所に出れず、俺の心は折れかけていた。
『そうだ……これは夢なんだ……俺はまだ眠っていて、
目を覚ましたら録画したアニメを見ながら朝飯を食べて、
学校帰りには昼食代を削った金で駅前のワンプレイ五十円のゲーセンで遊び、
家に帰ったらパソコンでお気に入りのサイト巡りをしながら,
おもいっきりゲームするんだ……』
俺は土を掘り進める手を止め、そんな妄想を止めれなくなっていた。
このまま、俺は土に帰るんだ。
ああ、父さん母さん、親不孝な息子をお許し下さい。
あと出来れば俺のパソコンは中身を見ずに破壊してください……。
…………………………。
『……ッ! …………………………ッ!。』
……ん……?
『……?! …………ッ! ……………………ッ!……ッ!』
こ、声だっ!よく聞こえなかったけど間違いなく人の声が!
俺は妄想の世界から一気に現実に帰ってきた。
俺は安堵のため息を付く。
なんだ……もう地上寸前まできてたんだな……。
100回叩くと壊れる壁を、99回であきらめる所だった。
希望を取り戻し、俺は声のする方にと再び掘り進んでいった。
そしてしばらくもせずに、俺は光ある場所に出ることが出来たのだった。