第零話 マラソンマン、散る
今、俺は学校に向かって全力疾走している。
俺の名前は貫 大樹
都内の男子高校に通う17歳だ。
……何故だ!俺は何故こんな学校を選んでしまったんだ!
いや理由は分かっている。分かりきっている。
その理由はたったの一つだ。
とにかく自宅から近かったのだ。
自宅近くにあるバス停からバスに揺られることわずか十分程で到着する。
ぶっちゃけ歩いても通える距離だがそこは親に『バスの中でも勉強出来るから!』と、
強弁したおかげで定期券を買う事に承諾してもらった。
電車やバスで一・二時間もかかる共学の学校に行くよりはずっと安く済むし、
朝も早く起きる必要が無い。
ゆっくりと寝て、のんびり学校に行き、まったりと過ごす。
そんな快適学生生活が送れるんだ!
そんな風に思っていた時期が、俺にもありました……。
男だけの学校ってのがどんな物か、男だけの教室の荒々しさがどんなものか。
そんな男共を抑える強烈な教師達の存在が!
……知っていたら絶対に来なかっただろうな。
いやさ、今更言ってもどうにもならないんだけどさ。
そんな学校で平穏に生きる為、
俺はとにかく路傍の石ころのごとく、目立たず過ごす事を心がけた。
おかげでこの一年弱、絡まれたり、いじめられる事無く過ごす事ができた。
友達も出来なかったけどな!
だが実際そこら辺は俺的に問題ないと思っている。
学校に友がいなくても家に帰れば俺を待っている友がいるのだ。
そう、漫画! ゲーム! アニメだ!
人型のロボットが! 光学迷彩が! 日本刀で銃に立ち向かい!
異世界に転生しての美少女とのイチャラブが!
我が城(自室)ではそれらが俺の帰りをいつも待っていてくれるんだ!
何も寂しくなんか無い!寂しくなんかないぞ!
……。
それはさておき、今俺は学校に向かって走っている。バスには乗っていない。
それは何故か? とても単純なことだ。
交通費は全て俺の友へと変貌を遂げてしまったのだ。
俺の月々三千円の小遣いではあいつ等と付き合う事ができないのでな。
さらにその友との交友は深夜まで続き、
朝起きるのがギリギリになる事が多くなってしまった。
バスが使えないプラス寝坊イコール全力疾走、と繋がるわけだ。
だが俺は一切後悔はしていない。
お金で買えない価値がそこにはあるのだ。
走るのも最初はつらかったが今では慣れたものだ。
一年間毎日の如く走り続けた俺は陸上部にすら負けぬ脚力を手に入れたのだ。
帰宅部筆頭、マラソンマン(いつの間にかあだ名が付けられていた)とは俺のことよ!
あだ名が付けられる程目立ってしまったのは不本意だが、
これも友の為だ。友の為ならいくらでも走るさ。なあ? そうだろメ○ス!
とはいえ今日はちょっとやばかったりする。
いつも時間ギリギリで家を出るのだが、
今日は家を出る直前で腹が痛くなりトイレに篭ったせいで、予想外のタイムロスがあったのだ。
「遅刻だけは、遅刻だけはせんぞ! マラソンマンの名に懸けて!」
そんな事を(心の中で)叫びつつ、俺は走り続けた。
そしてそんな俺を天は祝福しているようだ。
いくつかある信号に一切引っかかる事無く学校の前まで辿り着く事ができたのだ。
しかしそこで祝福タイムは終わったのか、学校前の最後の信号は目の前で赤に変わってしまった。
俺は荒い息を整えながらズボンのポケットに突っ込んでいた携帯電話で時刻を確かめる。
……よかった、もう安全圏だ。
信号が青に変わるまで待ち、歩いていっても問題無い時間だった。
むしろこの赤信号は俺を休ませる為の天の計らいなのではないのだろうか。
ここで止まらなければ俺は時間を確認することが出来ず、教室まで突っ走っていき、
汗まみれで教室に入り要らぬ注目を浴びるとこだった。
神様、細かな気遣いサンキューな!
俺はカバンから常備しているタオルを取り出し汗を拭く。
信号を眺める。
……青に変わった。
のんびりと歩を進める。そして――――
赤信号を強引に突っ込んできたタクシーにはねられ、
俺の人生は終わった。
初投稿。
あまり文字に触れない人間ですのでおかしな所が多々あるかもしれませんので、
容赦なき指摘をお願いします。
それを元に切磋琢磨する所存!