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第一章 【4】 奪還作戦

長くなってしまいました・・・

 ノワールの町までは、目的地を変更してから10分程度で着いた。こちらも大きな島なので、潮風が少し冷たく感じる。

 マロンを草原に着陸させ、その場で待機させておく。

 黒髪を手で押さえながらセレンは状況を隊長に報告した。


「それにしても、静かだな」


 キセがあたりを見回しながらつぶやく。


「悪魔も警戒してるんだよ」


 メアがセーターを脱ぎつつ言った。戦闘中は暑くなるためだろうが、半袖のセーラーから見える華奢な腕に、ルイはドキッとしてしまう。

 それを悟ったキセが、ニヤニヤしながらルイに近づいてきた。


「ん?ルーイくーん?どこ見てるのかなー?」

「う、うるさい!どこも見てない!」

「え?そっか、俺はてっきりメアの肌見て興奮しちゃったのかと思っ」

「からかわないの」


 セレンが絶妙なタイミングでキセの顔面にこぶしを叩き込んだ。

 キセはぐらつくが、あまりダメージを見せない。

 セレンは緊迫した様子で隊長からの命令を告げた。


「いい?今、国境付近の5つの町が同時に悪魔から襲撃されてる。私たちはノワールって町を奪還しなきゃいけない」


 するとメアが質問した。


「私たちだけなの?ほかの学院の隊は?」

「ひとつの町だけだと思ってたらしくって、五人組クインテットすら決めてない」


 つまり、5人だけでひとつの町を奪還しろということだ。さすがにそれは不可能に近い。


「でも、援護はちゃんと来るから、それまで持ちこたえればいいの」

「援護が来るまで待機しちゃだめなの?」


 セレンはうなずいた。


「これは無差別殺人とおんなじ。これ以上待ってたら、大事な戦力がなくなるだけ。話は以上。質問はもうない?」


 みんなうなずく。


「じゃあアサルトモードで一気に片付けるわよ」


 アサルトモードというのは、魔力を最大限以上に溜めた状態の事をさす。魔力が減りにくくなるかわりに、スタミナを尋常じゃなく消耗するため効率がいいとはいえないが、時間が無い時は役に立つのだ。

 5人は目を閉じ、魔力を溜め込んだ。最大限以上になるまで時間と集中力がいる。

 やがて、うっすらと目を開けていく。

 5人の目は赤く発光していた。目をあわせ、互いにうなずきあう。これからが本番だ。

 足音をなるべく出さずに町の入り口の門まで走っていく。すると、キセが何かを見つけた。


「ちょ、ローレン目隠し!」


 するとセレンがあわててローレンの顔を手で覆った。ローレンは「え、え」と動揺している。

 なぜキセがそんなことを言ったのかはすぐに理解できた。

 門の前に転がる二つの死体。おびただしい血が辺りに飛び散っている。ゆっくりと近づくと、それはまだ子供であることが分かった。

 悪魔に殺されたのだ。草原を遊びまわっているところを、不意打ちで。

 メアは口元に手をあて、絶句していた。セレンも顔をそむけ、まだ幼いローレンにはこの凄惨な光景を見せないようにしている。

 キセは唇を噛み、悔しそうにしていた。


「許せねえ・・・絶対悪魔共を殲滅してやるぞ」

「うん」


 誰もがそう思った瞬間だった。


 町の中に入ると、さっきの死体がまだ優しいものだと実感した。

 家が燃え、木も燃え、人も燃えていた。地獄絵図、と言い表すしかない。とてつもない吐き気がメアを襲った。口元をおさえ、うつむく。ルイが「大丈夫?」と声をかけてくるが、返す気力もない。

 ローレンはセレンに目隠しされていたが、さすがにされたままだと戦えないの外してもらっていた。無表情でこの光景を見ている。

 しばし呆然としていたが、不意にルイがぴくっと動いた。


「・・・魔力の位置把握で逆探された。すぐに隠れよう」

「え、逆探?」


 メアが聞き返すが、ルイはすでに走り始めている。急い後を追い、建物の影に隠れた。


「いい?僕たちは首都のホワイティアから魔力を随時補給されてる。つまり、魔力を導線にしてたどっていけば、僕たちの位置もわかるんだ。相手はそれを応用して、特別な機械がなくても僕たちの位置を把握できる。簡単に言うと、蜘蛛の糸をたどって蜘蛛を見つけるかんじ」

「え、じゃあもう、潜入はばれてるの?」


 セレンが不安げな顔をした。


「そう思って行動したほうがいいね。一応僕も、逆探魔法は使えるけど、無闇に魔力を使うと相手にすぐに攻撃されるから」


 赤い目をきらめかせ、ローレンはうなずいた。


「じゃあ・・・わたしがおとりになる・・・。それで、てきのえらいひと、たおして」

「え、それはさすがに危ないよ」


 ルイが止めるが、セレンが苦笑しながら手をひらひら振った。


「大丈夫。ローレンは私たち3人相手でも負けないくらい強いから」

「そ、そうなの?」


 α部隊に小さな子供がいることに疑問を感じていたが、まさかそこまで強いとは思ってもみなかった。

 ならばここは任せてしまったほうがいいのかもしれない。その隙に、この町のどこかにいる、敵の頭を叩けばおわりだ。


「じゃあ、頼むよ。僕らもすぐに敵を倒して、残った悪魔をつぶす。それまでの時間稼ぎよろしく」

「わかった」


 するとセレンが不安げな顔でローレンの手を握った。


「ローレン・・・分かってると思うけど、アレは・・・」

「だいじょうぶだよお姉ちゃん」


 ローレンはうなずき、茂みから飛び出していった。悪魔はすぐに気づき、銃撃を開始する。

 ローレンは銃弾をかろやかに避けてみせ、反撃の体勢に入った。呪文詠唱をし、魔法をビシバシ相手に叩き込む音が聞こえてきた。

 アレとはなんなのかルイは気になったが、後で聞けばいいだろう。


「よし、今のうちに行こう。相手はもうぼくらが5人組だってことも分かってるはずだよ」

「おっし!やってやんぜ!」

「うるさい」


 キセはセレンに蹴られながらも立ち上がり、先頭を走り出した。ルイ達もあとに続く。気づかれないように慎重に、魔力をなるべく使わないように入り組んだ町を走ること5分。


「・・・ここね」


 そこは大きな塔のような建物だった。数回のルイによる魔力感知で、敵のお偉いさんはこの塔にいることがわかった。高さは20メートルほどで、周りには敵の姿も見当たらない。襲撃するのなら今しかないだろう。


「じゃあ、二手にわかれよう。僕とメアが塔の中に入って、それから・・・」


 続けようとしたその時。

 ズズズズ、と何かを地面に引きずる音がしたかと思うと、塔の影から何かがゆっくりと出てきた。

 金属の鎧を身にまとい、巨体を揺らしながら近づいてくる大男。手には2メートルもあろうかという大剣を持ち、しかし持ちきれないのか地面を引きずらせている。

 見るからに敵。しかも、かなり強そうだ。

 これは予想していなかった展開だ。この大男を倒すために人員を割いては塔の制圧は難しい。かといって、この敵相手に全員で戦っていては陽動役のローレンにも負担がかかってしまう。

 どうしたものか、とルイが冷や汗を手ににじませていると、セレンがささやいてきた。


「ルイ、ここは私とキセがなんとかする。その間にメアと塔をよろしく」

「え、でも・・・」

「いいから!まよっている暇はないわよ」


 そう言うが早いが、セレンは魔方陣を展開させ召喚呪文を詠唱し始めた。瞬く間に魔方陣が金色に光り、召喚獣が2体現れる。毛並みのきれいな、トラのような獣だ。

 キセも腰にある鞘から勢いよく剣を引き抜き、構えた。


「ここは二人にまかせよう!」


 メアは塔に向かって走り出した。ルイもあわてて追う。


「入り口ってどこ?」


 確かにこの塔の外壁には入り口らしきものがない。どうやって入ろう、とルイが悩んでいると、突然。


「ルイ君危ない!!」


 はっ、とした時にはもう遅かった。セレン達と戦っている大男の攻撃の余波が、ルイに降り注ぐ。光を帯びた矢の攻撃。あの大男は剣だけではなく、別の物理攻撃もできたのだ。

 すぐさま魔方陣を展開させて、魔法発動用の本をとりだそうとするが間に合わない。

 しかし。


「はあっ!」


 メアのかけ声とともに、突風がルイの頭上を吹きぬけた。

 ルイめがけて落下していた光の矢が、風圧に負けて彼方へ飛んでいく。


「ルイ君ボーっとしちゃだめだよー!」

「ご、ごめん。でもすごいね、助かったよ。ありがとう」


 そしてまた塔の外壁を見上げる。

 入り口はない。どうやって入るのかは、おそらくこの町の人だけが知っているのだろう。悪魔たちはそれを聞き出したに違いない。


「どうやって入る?むしろ、もう入らずにこの塔丸ごと壊す?」


 と、メアが微笑で冗談めかしたことを言うが、その策も考えてなくはなかった。


「うん・・・。でも、中に人質として、町民がいるかもしれないし」

「そうかあ・・・」


 メアの能力を使えば、この塔を壊すくらいたやすいものだろう。メアが残念そうに地面の小石を蹴った。


「何かあるんだよ。この塔に入る方法が・・・」


 もんもんと考え始めたルイを、つまらなそうにメアは見上げた。

 と、メアはいい考えを思いついた。


「そうだよ!風に乗ってあそこまで行って、中に入ろう!」


 メアが指差したのは、塔の先端部にある通気口だった。確かにあそこなら人が一人入るくらいの隙間があるだろう。しかし・・・。


「風に乗るっていってもさ、どうやるの?メアの能力でも難しいでしょ」

「ちょっと!私の本気はすごいんだよ」


 そういうが早いが、魔法呪文の詠唱を始めるメア。

 絶対無理だって・・・とルイは言うが、聞く耳を持たない。


「じゃあいくよ!」

「行くっていっても・・・。うわ!?」


 突然地面が爆発したかと思うと、すでにルイの目の前は通気口だった。なかば押し込まれる勢いで通気口の入る。


「ふう。ね、どう?すごいでしょ」

「びっくりした・・・」


 一瞬で10メートル以上も飛んだことよりも、風の魔法で人を飛ばせることのほうが驚きだった。

 メアの体重はともかく、ルイだけで40キロ以上はあるのだ。それを一瞬で飛ばすとは、メアもなかなかやりおる・・・とルイがまたもんもんと考え始めていたら、ポカン!と頭を叩かれた。


「ちょっとルイ君!ボーっとしないでってば」

「ご、ごめん」


 あらためて塔内を見下ろす。地上からは筒抜けになっていて、直径10メートルほどの一階部分しかない。そこには黒の陣にある学院の制服を着た少年少女、計20人が集まっていた。人質はおらず、敵の隊長とおぼしき中年の男が椅子にすわり、何かを操作している。おそらく、ホロディスプレイによる、見方への遠隔指揮だろう。今頃、ほかの国境付近の町も襲われているに違いない。


「・・・どうしよう、さすがに20人相手はきびしいよ」

「いや、大丈夫」


 ルイが魔方陣から本を取り出す。


「ぼくらにはコレがある。うまくいけば、一発であいつらを全滅させられるよ」


 薄く口の端を上げ、獰猛な笑みを浮かべるルイに、メアはごくん、と喉をならした。

 

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