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第一章 【3】 出撃

「緊急招集だ!」


 誰かの一言により、αクラスにいた別の部隊の生徒がわらわらと教室から出て行き、また、外にいたα部隊の生徒も魔法やテレポーテーションを使って戻ってきた。


「何かあったのか?」


 ルイが訝しげに呟く。


「まだ五人組クインテットも決めてないのに、召集がかかるなんて、よっぽどの事なんだと思うけど・・・」


 メアも不安げに言った。

 やがてα部隊の生徒がほとんど集まり、ざわめきが収まりかけた時、教室の扉が開き若い男女が入ってきた。

 男の方は部隊長らしく、学院で決められている隊長用の黒い戦闘服を着ていて、金色の腕章をつけている。女のほうは白に金色のラインが入ったスーツという戦闘用では無い服を着ている。二人とも20代半ばだろう。

 男が教壇に立ち、凛とした声で話し始めた。


「α部隊の諸君、全員いるようだな。α部隊隊長、アルドだ。放送があった通り、国境付近の町『バザール』で悪魔による無差別攻撃があった。出撃要請がα部隊に出ているため、諸君にはすぐに向かってもらい、白の陣領土からの悪魔殲滅作戦を行ってもらう」


 すると、生徒の一人が質問をした。


「隊長、まだ五人組クインテットを決めていません」


 アルドは頷いた。


「皆も知っていると思うが、全学院の全部隊内では五人組クインテットをつくらなければならない。動きやすくするためでもあるが、小隊を無数に作っておくことで各部隊内での状況が分かりやすくなるためだ。もうメンバーはこちらで決めてあるから、後ほど確認してくれ」


 生徒内から質問が挙がる。


「その後はどうすればいいんですか?」


 するとアルドと来た女のほうが話し始めた。


「その後は各班ごとに別ルートで国境まで行ってもらいます。遠いので、『マロン』の使用を許可します。あ、紹介が遅れました、わたくしは副隊長のノースです。戦場には行かず、無線での支援になります」


 そう言ってお辞儀をした。栗色のウェーブがかかった髪が垂れ下がり、大人の女性という空気をかもし出している。

 アルドが声を上げた。


「それでは直ちに国境付近に向かい、それぞれの任務を遂行せよ!」


 生徒の間に緊張感が走り、全員が「はい!」と返事をした。



 ルイは、メアと、セレン、キセ、ローレンという生徒と五人組クインテットになることとなった。メア以外は全員知らない人だ。

 『マロン飼育小屋』まで行く間、それぞれの自己紹介をすることにした。


「ルイ君と同じなんてビックリだよ!」


 メアが話しかけてきた。


「うん。他の人たちも知り合い?」

「まあね!みんなδデルタ部隊のときから一緒だったから。みんな、自己紹介してもらってもいいかな?」


 すると、背中まである長い黒髪の少女が口を開いた。


「私はセレン。16歳。得意魔法は治癒とか防御とか。でも一番得意なのは召喚系かな。呼び捨てでOK。よろしく」


 一見クールで控えめな委員長タイプの女の子だ。

 しかし、召喚系の魔法を得意とするなら、相当な技術の持ち主なのだろう。そもそも、すべての魔法の中で召喚系はもっとも魔力がいるため、α部隊でも使いこなせるのはごく一部の人だけだ。ルイ自身もあまり得意ではない。学院内でも召喚魔法を使える生徒は重宝されているほどだ。


 すると、セレンの隣にぴったりくっついている少女が口を開いた。


「・・・・・ローレン・・。得意なの・・・いっぱい・・・」


 鈴を鳴らしたような、絹の糸を弾いたような、か細く綺麗な声だった。

 金色の髪は腰より長く、耳の上に赤いリボンをつけている。α部隊にはめずらしい、11歳の幼い少女だ。人見知りで気弱そうな見た目は、少女というより幼女のような雰囲気で、しかしどこか大人びて見える。

 そもそも魔法をまともに使えるのが10歳からなので、ローレンはとてつもないスピードで魔法を習得したことになる。相当な手練だろう。


「お姉ちゃん・・・強いよ。メアちゃんも・・・お兄ちゃんも・・・」

「お兄ちゃん?誰の事?」


 すると、後ろにいた少年が頭をメアとルイの間に突っ込んできた。


「俺、俺!キセっていうんだ、よろしくな!これでも17歳なんだぜ。それとセレンは俺の彼じ」

「死ね」


 セレンが思いっきりキセの後頭部を殴った。しかし、キセは微動だにしない。

 長身で細身にも関わらず、腰の鞘に長い剣が2本さがっている。キセは魔法が得意ではないので、魔力で強化させた剣で戦うのだ。


「なあなあルイ、やっぱメアと仲いい感じかい?ん?」

「は!?ば、馬鹿じゃないの」


 いきなりキセに絡まれ、ルイはあわてた。少し赤くなりながら言葉を返す。


「キセこそ、セレンと仲いいみたいじゃないか」

「あ、バレた?そうなんだよねー、なんせセレンは俺の未来の奥さ」

「死ね」


 今度は背中にハイキックを喰らわされるが、それでもキセはへらへらしている。なんてタフな人なんだろう、とルイは思った。


「あーついでに、俺は魔法得意じゃないから剣使うよ」

「へえ、めずらしいね」


 基本的に武器を使って戦うのは、魔法が使えない大人だけだ。一応ルイももしもの時のために装備しているが、使ったことはほとんどない。


「あ、そろそろ飼育小屋つくよ」


 メアの言葉にみんなが前を向いた。

 飼育小屋、というスケールではない。もはや大きなドームのようになっており、鉄でできた壁が光沢を放っている。中に入るとカウンターがあり、その奥には鉄の檻が無数に並んでいる。ファノステル学院も相当な広さだが、こちらも劣らずかなり広い。


「マロンってなんだっけ?」


 キセがつぶやくと、セレンが呆れて説明した。


「そんな事も知らないの?マロンは白の陣が所有しているドラゴンの事よ。国境なんて海を渡らないとつかない。だから高速飛行が可能なドラゴンを使うわけ。私たちは子供マロンに乗って行くの」

「ふーん、ていうか俺たち使うの初めてじゃん。いきなり乗りこなせるのか?」

「大丈夫よ。よっぽどの事がない限り、調教されているマロン達は反抗しない。それと、マロンは途中で変える事ができないから、今から使うマロンはずっとパートナーだと思って」


 へえ、と納得したキセを見つつ、セレンはカウンターで手続きを済ませた。

 戻ってきたセレンの手には鍵が5つ握られている。


「それぞれ使うマロンが違うから檻も違う。鍵に書いてある番号の檻をさがして」

「この量の中から探すの!?」


 今度はメアがげんなりとした様子でつぶやいた。

 無理もない、なにせ檻は一万個以上あるのだ。順番に並んでいるとはいえ、ドームの端まで行くのに相当な時間がかかる。


「それも大丈夫。魔方陣が、100個ごとのブロックにそれぞれ設置してあるの。100個の中から見つけるなら簡単でしょ。檻を見つけたらマロンの首にある綱ひっぱればついてくるよ。それで魔方陣乗ったら外いけるから。じゃね」


 そう言ってセレンは魔方陣でワープをした。ローレンもそれに続く。ルイはメアに「先行っていいよ!」と言われ、魔方陣に乗った。

 景色が一瞬でかわり、鉄檻の群れの中にとぶ。

 マロンがどんな姿か気になり近くの檻をのぞいたが、暗くて外からは檻の中は見えず、仕方なく自分の番号のマロンを探した。

 やがてその檻の前につき、鍵を慎重に開ける。

 ギイ、と音を出しながら扉が開いた。暗かった檻内に光が入る。

 そこには真っ白な塊があった。やがてモゾ、と動き出し、ルイは一歩後ずさる。

 真っ赤な目がこちらを見た。とんでもない殺気がただよっている。睡眠を邪魔したせいだろう。

 ルイは顔を青くしながらも綱を持ち、軽く引っ張った。それはおとなしくついてくる。

 魔方陣に乗り、そのまま外にワープ。そこであらためてそれを見てみた。

 真っ白な胴体は尻尾に近づくにつれ青くグラデーションがかかっている。本で見たまんまのドラゴンの容姿だが、大きさは小さい。背中には、乗ったとき固定するためのベルトが2本ぶらさがっている。

 そのマロンは尻尾がギザギザしているため、メスのようだ。オスは尻尾がとがっている。

 このマロンが一生自分のものなら、名前くらいつけてもいいだろう、と思い、名前を考えた。


「シーヴァ・・・なんてどうかな」


 照れがちに言うと、マロンはちらりとルイを見て目を細めた。どうやら、好きにしなさいということだろう。


「よろしくね」


 ルイがシーヴァの翼にそっと触れると、シーヴァはこくんとうなずいた。

 すると、メア達が建物の向かい側から走ってきた。


「ルイ君、そろそろ行かないとだめみたい。すぐ飛ぶ準備できる?」

「もうできてるから大丈夫。すぐに行こう」


 さすがにここで飛ぶのは危ない。身支度を整え、草原まで出た。

 シーヴァにまたがり、ベルトを締める。首にある綱を外し、口についている枷にとりつけた。手綱のようなものだろう。

 皆が準備を終えたところで、セレンが合図を出す。


「それじゃあ行くよ」


 手綱を思いっきり引くと、マロンが飛び立った。上昇中は振り落とされそうになるが、ベルトで固定してあるため大丈夫だ。

 上空1000メートルあたりまで一気に上昇し、水平飛行になった。空気が薄くなったため、すかさず魔法でルイの周辺の空気の濃度を地上と同じにした。

 5分ほど飛んでいると、耳につけた無線からセレンの声が聞こえた。


「皆安定したから言うね。これから30分ほど最高速度で飛んでもらう。そしたらすぐ国境まで行けるから。今から行く町、『バザール』は国境付近の島の中にある」


 すると今度はメアの声が聞こえた。この無線は複数の人の話も一気に聞けるらしい。


「バザールの近くにはバザール学院があったよね?そこの生徒は出撃しないの?」

「α部隊だけしてるみたいだけど、バザールの町は大きすぎて奪取に難しいみたい」


 α部隊は各学院に50人程度しかいない。五人組カルテットは10班程度しかできないため、いくら強くても数では悪魔にかなわないだろう。だからといって無闇に生徒を出撃させても戦場が混乱するだけだ。

 そこでルイにとある可能性が湧いた。


「あのさ、もしかしたらバザール制圧が陽動っていう可能性はない?」

「え?」


 セレンが疑問の声を返す。


「いや、憶測だけど。いきなり町ひとつを攻撃してくるのっておかしいと思う。他意があるように思えるんだよね」

「なるほどね。ちょっと本部に連絡入れてみるわ」


 セレンは無線を切り、本部へと繋いだ。

 数秒後、緊迫した声が耳に響いてきた。


「みんな、目的地変更!国境ふきんのいろんな町で戦闘がおきてる。私たちは『ノワール』って町に行くわよ!」


 ・・・・やっぱり。

 いつも悪魔は汚いまねをする。過去を思い出しながらルイは思っていた。

 

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