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Parfum  作者: 響かほり
第十三.五章   鈍感と狡さと生殺しの愛で
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66 ~健人side~

   第十三・五章   鈍感と狡さと生殺しの愛で



 夜、仕事を終えた俺は従弟いとこの榊紫苑のマンションへと足を運んだ。

 玄関先で俺を迎え入れたのは、部屋の主である紫苑。まだ不完全な体調なのか顔色に血の気がない。まあ、昨日の様な発熱はしていないようだが、安静にはしていないとすぐにわかる。

 吉良が言っていた、紫苑の仲間とやらが来たから安静が保てない訳ではない。むしろ、一人でいることのほうが、こいつにとっては苦痛であり恐怖だ。誰かがいたところで、この見栄っ張りで弱みを見せたがらない従弟いとこが、病人らしい素振りをするわけもないのだが。


「誰だ、こいつらは」


 リビングルームを見れば、見慣れぬ男が二人、床でくつろぎモードだった。

 男どもを見下ろした後、隣の紫苑を軽く睨むと、奴は苦笑いする。


「そっちの大きい方が俺のマネージャーで熊井。そっちの金髪が神埼亮、『belladonnaベラドンナ』っていうロックバンドのボーカル。聞いたことあるだろ?」

「あぁ…最近一緒にテレビCМに出ているようだな。そいつが何の用だ?」

「俺に昼飯を持ってきてくれた」


 ダイニングの散らかった机の上に置いたままにされたお重が、紫苑の言葉を裏付ける。


「で、病人の所に我が物顔で図々しく居座っている訳を聞こうか?」

「うわぁ、毒舌」


 大して傷ついた様子も無く、金髪男は首を竦める。


「あんたこそ、何処の誰だよ」

「俺はこいつの主治医だ」

「は?主治医??そんなモデルか俳優見たいな容姿して、医者???胡散くせぇ!」


 褒めているのか貶しているのか解らない、軽薄な口調で亮と言う男は大げさに驚いて見せる。頭の軽そうな男だ。


「点滴の試験台にしてやろうか?」

「!健斗、そ、それだけは止めろっ!」


 慌てて紫苑が俺の腕を掴み、首を横に振る。


「何だ、人の楽しみを邪魔するな」

「目がマジだから、シャレにならない」

「俺の役に立つだけ、ありがたいと思え」

「意味わからない事言うな」

「何だぁ?サイコでマッドなドクターか?」


 真顔でそう呟いた神埼亮とやらの横で、大柄な男が何か思案に暮れていた。


「主治医…もしかして、伊織の従兄弟の?」

「あぁ。確かに従兄弟だ」

「はじめまして。伊織がお世話になってます。マネージャーの熊井と申します」


 熊井と言う男はその場に正座し、頭を下げる。


「電話では話をしたが、実際に会うのは初めてだな。榊健斗だ。こいつが世話をかける」


 俺は立ったままその場で軽く頭を下げる。


「あぁ、いえ。伊織に聞いた通り、見た目が医者には見えませんね」

「…お前、どういう説明をしたんだ」


 隣にいた紫苑を睨めば、紫苑の奴は悪びれも無く笑みを湛えた。


「芸能界でも通用しそうな容姿の男」

「確かに、インテリキャラで売り出したら、女が群がるぞ」

「生憎、女に不自由したことも無ければ、欲しい女も既に手に入れている。今更、他の女に興味はない」

「おぉ、俺も言ってみてぇ!」


 感嘆の言葉を発した亮と言う男には、どうやら嫌味が解らないらしい。


「いや本当に、医者にしておくには惜しいですね。どうですか、うちの事務所に所属して活動しませんか?」


 意外に商売上手なマネージャーに、俺は鼻で笑う。


「使われるのは大嫌いでな。商売道具にされるのはごめんだ」

「かっけー!兄貴って呼んでいいかっ?」


 亮と言う男に、犬の耳と、千切れんばかりに揺れる尾が見えた気がした。

 デカイ犬に懐かれたようだ。


 紫苑の奴にまともな交友関係があるのか、そいつを見て俺は少し疑念を抱いた。


「お前…友達は選べ」

「…お前に懐いた時点で、そう思ったよ」

「俺に失礼だろ、伊織」


 何と言うか、二人していたぶり甲斐のある性格をしている。


「…で、健斗は何しに来た訳?」


 訝しげに尋ねてくる紫苑を睨み、俺はソファに腰を下ろす。


「お前が俺の命令を守って静養しているか、確認に来たに決まっているだろうが」

「子供じゃあるまいし。流石に今回ばかりは大人しくしている」

「どうだかな」


 体調がどれだけ悪かろうと、それを隠して平気で仕事をする様な男だ。

 それに、人の目があればそれを意識して休むなどと言う真似を絶対にしない。

 人に弱味を握られるのが大嫌いなやつでもある。

 昼から、ろくに体を休めてはいないだろう。

 まったくもって良くなっていない顔色を見れば、それが嘘だとすぐにわかる。

 これが吉良一人ついて世話をしていた時は、こいつがベッドで横になるどころか、熟睡していたと言うのだから、困ったものだ。


「どういう意味だよ」

「そのままの意味だろうが」


 まったく、幾つになっても見栄っ張りの癖に、孤独が嫌いなお子様だ。


「吉良を食事に誘った事、まだ怒ってるのか?」


 見当違いの答えを導き出した従兄弟は、俺の横に腰を下ろす。

 もっとも、その話もする予定でいたから、先に片付けるか。

 中途半端に、吉良に手を出されても迷惑なだけだ。


「あいつに手を出すなと、忠告したはずだが?」

「なに、三角関係?」


 空気を読まずにそう声を上げた相手を、俺は黙っていろと牽制の意味を込めて一瞥する。

 紫苑の奴も、同じような視線を向けた。


「マジ?図星?」


 ばつの悪そうな顔をして、亮とかいう男は一歩身じろぐ。

 俺は鼻で笑い、紫苑に視線を移した。




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