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Parfum  作者: 響かほり
第十三章 黄金色の愛の宣教師
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61 ~紫苑side~


  第十三章  黄金色の愛の宣教師



「…お前、何しに来た?」


 その客人の姿をインターホンの画像で確認した瞬間、俺は頭が痛くなった。

 俺の平穏をぶち破った画面の中の奴は、真っ昼間から、殆ど変装もしない状態。

 ロックバンドやっています候の服で、シルバーアクセサリーを派手に身に付けた金髪頭の神埼亮かんざきりょうは、むっとした顔をして手に持っていた大きな紙包みを持ち上げる。


「決まってんだろ、見舞だよ、み・ま・い。とっととエントランス開けろって」

「…分かったよ」


 下手にごねられて騒動になっても面倒だ。さっさと俺の部屋に上がってもらわないと、俺の正体さえばれる。

 エントランスの扉を解錠すると、亮は満足げに笑って「じゃあな」と、自動ドアをくぐって行く。

 それを確認してからインターホンを切って、リビングのソファまで移動して座る。


「…あれ、伊織起きたのか?」


 トイレから出て来た俺のマネージャー熊井が、俺に不思議そうな顔をする。

 そもそも、熊井がトイレにいたから、連打されたインターホンに我慢しきれなくて俺が起きて対応したのだけれど。

 人間の自然現象を止めろとも言えないし、あえてそこは突っ込まない。


「亮が来た」

「…あ、ベラドンナのヴォーカル?」

「あぁ。見舞らしい」


 熱も下がっているし、少しくらいなら起きて話をしても大丈夫だろう。


「昼飯此処で食べるかな?買い出しとか、してこようか」


 主婦みたいなことを言った三十路の男に、俺は苦笑が漏れる。


「それは亮が来てから確認をすればいいだろ?」


 言葉尻をかき消すように、再びインターホンが嵐の様に鳴る。

 亮、お前、ホントに俺より年上か?そう思わずにはいられない。


「俺が出る。茶、用意して」


 玄関に行こうとした熊井を止め、俺は玄関に向かう。


「うるさいんだけど?」


 玄関を開けた瞬間、神埼亮の動きが止まる。


「ちょ、お前、大丈夫か?」


 神埼亮が部屋の入り口で俺の顔を見た瞬間、そう言葉を放って俺の腕を掴み、部屋の中に押し入った。

 相手はまじまじと俺の顔を見上げて凝視する。


「お前、顔色わりぃな。体大丈夫か?」

「大丈夫じゃないから、救急搬送されたんだけどな?」

「退院して大丈夫だったのか?」

「マスコミが来て、病院に迷惑かけたんで出た」


 確かにマスコミの取材が殺到していたらしいから、嘘ではない。別の意味で多大な迷惑もかけたが。


「だったら大人しく寝てろよ」


 あのインターホンの連打音で眠れるほど図太い神経もしていないし、元から不眠症で吉良が帰ってからは一睡もしていない。


「腕の良い看護師が、土日はつきっきりで面倒みてくれたんでな。随分良い」

「なに、ナース連れ込んだ訳?!なんて羨ましいんだ、お前!」


 あらぬ事を想像しているのは、相手の表情を見れば容易に想像できる。


「従兄弟が医者なんだ。彼女はその部下。俺は熱出して寝込んでいたし、従兄弟も一緒に居たんだから、お前が想像する様なやましい事はない」

「なんだぁ…お前の事だから喰っちまったかと思ったのに」

「そんな元気があったら、仕事に復帰している…とりあえず上がれよ」

「あぁ。お邪魔します~」


 好き放題言ってくれる亮を、俺はリビングに案内する。


「あ、クマさんお久しぶりっ」


 衝立の様な扉を取り払った先にあるダイニングで、熊井がお茶を淹れている姿を亮が気付いて声をかける。


「亮君、お久しぶり。仕事はどうだい?」


 熊井は律義に手を止めて挨拶を返す。


「まあ、それなりに順調っすよ」

「あまり木根を困らせないでやってくれよ。この間、事務所で会った時に荒れていたから」


 亮と俺は同じ所属事務所で、木根と言うのは亮のマネージャーだ。


「あいつ、最近、ほんとキレやすいんだよ。一昨日だってちょっと作詞に煮詰まって散歩に出たんだけどよ、半日連絡つかねぇだけで一時間も正座させられて説教だぜ?カルシウム足りてねぇんじゃね?」


 俺と熊井は互いに顔を見合わせる。

 普通、怒るだろ。曲がりなりにも、亮は人気ロックバンドのヴォーカリストで、ソロアルバムの作成の追い込み時期だとついこの間、連絡を取った時に亮本人が俺に口に言ったばかりだ。

 そんな時期に曲も出来ないまま、半日も連絡とれなくなったらキレるだろ。

 そう思ったのは熊井も同じの様で、熊井の顔には、ありありと同僚の木根に対する同情の念が浮かんでいる。


「むしろ説教を一時間で済ませてくれた木根さんの優しさに感謝して、お前が土下座して謝るべき所だろ」


 熊井も賛同する様に頷くと、亮は大袈裟に両手で頭を抱える。


「うわぁ!俺の味方がいねぇっ!もう、俺ってばショック~ッ!…あ、そうだ、お前にこれやる」


 亮は一人で悶えていたが、突然、普通に戻って俺に大きな紙袋を渡す。

 この変わり身の早さ、いつもながらただ者ではないと思う。

 一人で忙しいこのテンションには時々、ついていけない事もあるが、裏表がない奴だし面白くて俺は好きだ。

 受け取って中を見れば、風呂敷に包まれた大きな物と、二リットルのペットボトルがお茶とスポーツ飲料と一本ずつ入っている。


「…なんだ?」

「メシ。お前もクマさんも料理はできねぇだろ?だから全然、まともな飯なんて食ってねぇんじゃないかと思ってさ」

「お前、見た目に似合わないマメさだよな?」


 見た目は礼儀とか常識を全く無視の派手な奴だけど、中身は体育会系で礼儀には細かいし、世話焼きでもある。


「お前は仕事以外の事に無頓着すぎるんだよ」


 困ったように笑った亮の言葉に、俺は苦笑いしか出来なかった。

 


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