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Parfum  作者: 響かほり
第二章 金が結んだ縁
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6 ~吉良side~


   第二章 金が結んだ縁



 二年前、その人を初めて見た時、新手の不審者かと思った。

 彼の人は、推定一八五㎝前後の長身で、院長よりも少し背が高い。

 均整の取れた骨格で、決して華奢ではない体格をしていたから、職場のあるビル内のエレベーター前で隣に並んだ時の威圧感はむしろ恐怖心に近いかもしれない。

 服装はパーカーにジーパンというラフな格好。

 それだけなら、ごく普通だったんだけど。

 深夜の時間帯だというのに、その人は淡いグレーのサングラスをしていた。

 しかも、パーカーのフードを目深に被り、伏し目がちで顔を隠している。

 エレベーターに一緒に乗り合わせた時、相手は私から顔を逸らし、そわそわ落ち着かない様子だった。

 エレベーターに付いている、防犯カメラの映像をちらちら見ているし。

 明らかに挙動不審。

 しかも、ビルは小規模でテナント数も少なくて病院がほとんど。

 夜に人が出入りすることは、ほとんどないはず。

 それに、相手は降りる階を押していない。

 その当時、周囲では変質者が出ると、病院に回ってきた回覧板に書いてあった。


“やだ、噂の変質者?どうしよう…院長、もうクリニックに来てるかな…“


 院長に急遽、特別患者を見るから出て来いと呼びだされて来たものの、やっぱり女の一人歩きは危険だったかな。

 今日は何故だか院長が迎えに来るって言ってくれたけど、院長の所有する車は全部、スポーツカータイプでエンジン音がかなり大きい。

 だから、控え目に走行したとしても、住宅街を通るとかなり近所迷惑になるから、色々気を使うので丁重にお断りをした。

 でも、次回からは深夜なら絶対に院長と一緒に来よう。

 で、その院長が私より先にクリニックに来ている確率は五分五分で、微妙な所。

 自分は女としては長身の部類ではあるけれど、さすがに一五㎝近い身長差と、性別と体型の違いからくる筋力差はカバーできない。


“いざとなったら、院長から教えてもらった護身術で逃げよう…”


『抱きつかれたら、まず思いっきり足を踏みつけてやれ。油断したら、素早くかがんで野郎の腕から抜け出して、遠慮なく金的かませ。いっそ、女に変えてやるつもりで、全力で叩き潰せ。男はどいつもこれで撃沈だ』


 一応上流階級の人なのに、院長はかなり品の無い事を平気で言う。『丁度そこに良い検体がいるしな』と、男性スタッフの五藤さんを指さして言ったので、彼が自分の股間を押さえて竦み上がって逃げていたっけ。

 実践はしていないけど、みっちりレクチャーは受けたので、とりあえず相手を油断させてから攻撃すれば逃げ出せる…かな?ちょっと心配。

 でも、そんな護身術を教えてくれる優しさがあるのに、深夜に仕事で呼び出すのはどうにかならなかったのかしら。

 高時給の甘い誘惑に乗ってしまったのは、私なのだけれど…。

 だってね?

 時間給、二倍の特別労働よ?

 看護師のバイトの時間給は、普通のコンビニのバイト代よりずっと良いの。

 その時給が深夜料の加算された状態で二倍だと、キャバクラの新人キャバ嬢の時間給より良いの。

 一生を独身で生きるつもりの私にとって、老後のための蓄えは少しでも多いほうがいいからって、考える間もなく即決してしまった私も…やっぱり悪い。

 院長の下で働くと、予想外にお金もかかるし。

 圧倒的に毎日の洋服代なのだけど…。

 勿論、今回の特別業務のお給料を弾んでくれるのには理由がある感じだけど、理由は聞くなと院長に最初に念を押された。

 とりあえず、呼び出されたらいつ何時だろうと『絶対に来い』というのが院長の命令。

 つまり、訳ありで我が侭の通用するVIPな相手が、診療の相手だと言う事を暗に言われたことになる。

 まあ、VIPの対応をするのも初めてではないし、深夜に呼び出されるのもオペ呼び出しで慣れてはいるんだけど、この状況は、特別出勤初日にして、既に心が折れそう…。

 って、思っているうちに、エレベーターが目的の四階で止まり、扉が開く。

 開いた瞬間、相手の男の人が動く。

 先に降りていく相手の動きがおかしくて、後ろ姿を見ながらとりあえずエレベーターから降りた。

 不審な動きという意味の挙動的おかしさではなく、病態的なおかしさ。

 明らかに、足元がおぼついていないし、ゆらゆらして身体が安定していない。

 お酒の匂いはしなかったから、酔っぱらっている訳ではないのに…。



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