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Parfum  作者: 響かほり
第十二章 芽吹く心の種に
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56 ~吉良side~



  第十二章   芽吹く心の種に



 月曜日。

 慌ただしい午前の診療が終わった後、絢子あやこさんと結城ゆうきさんと私の三人で、私服に着替えて近くのカフェへランチに来ていた。

 いえ…これは拉致に近いのかもしれない。


「あげはちゃん、今からちょっとお姉様達に顔かしなさいね?」


 昨日は土曜日からほぼ徹夜状態で榊紫苑の看病をした為か、家に帰った途端、ベッドにダイブして眠っていた。

 肉体的よりも精神的にかなり疲れていた所為か、目覚ましのアラームにも気付かず、眼が覚めた時には予定の時間よりも一時間も遅かった。

 遅刻はしなかったけれど、お弁当の下準備もしていなかったし、作る時間門もなかったので今日はお弁当なし。

 なので、今日はどこかに食べに行くか、コンビニでお買い物でもしようかと考えていた時、両サイドをお姉様二人に挟まれて有無を言わさずこの場に連れてこられた。

 お昼の時間帯も後半に差し掛かった頃だったので、カフェの忙しさのピークは少し過ぎていた。でも、お洒落なカフェテラスもあるそのお店はまだ、店内にたくさんの女性客がいる。

 私たちは、テラス間際の丸いテーブル席に案内され、其処に腰を下ろした。

 三人ともメイン違いの日替わりのランチを注文し、料理を待つ事になったのだけど、二人の私を見る視線がとても痛い…。

 何故だか、二人とも楽しそうに私を見ているのだけれど…私、何かしたかしら…。

 特に絢子さんの目が輝いている…。


「あ、絢子さん、何か良い事でもあったんですか?」

「またまた。良い事があったのは、あげはちゃんでしょ?」


 良い事?悪い事しか思い浮かばない私に、絢子さんがにやりと笑う。


「身持ちの堅いあげはちゃんがキスマーク付けて出社してくる日が来るだなんてねぇ。オネェさんは感激したわ」


 思わずまだ痕の残る首を押さえる。

 見えにくい絆創膏を貼っていたし、人の居ない時間を見計らって更衣もしていたのに、何処でばれたんだろう。


「い、何時みたんですか?」

「ふふっ。あたしの目は誤魔化せないわよ?」

「あげちゃんが急に色っぽうならはったから、彼氏でも出来はったんとちがうやろかって、絢ちゃんと言うとったんよ」


 おっとりとした口調でそう言った結城さんは、絢子さんと目くばせして笑う。


「…色っぽい?」


 言われ慣れない言葉を聞いて、私は首をかしげる。


「やだ、自覚なし?」

「はぁ…それに彼氏もいないんですけど…」

「なに、じゃあ彼女!?」


 大げさに驚いて見せた絢子さんの声が、ランチタイムで混雑し始めた店内に響き、お客さんのいぶかしげな視線が私たちに集中する。


「ち、違います!彼氏も彼女もいませんから」


 私は絢子さんの腕を掴んで、首を何度も横に振った。


「それなら、首のそれはどないしたん?」


 小首をかしげる結城さんに、言葉が詰まる。

 あれをどう説明したらよいのだろう…。


「あげはちゃん…よもや、院長じゃないでしょうね?」


 昔取った杵柄で、身震いしたくなるような鋭い視線を向ける絢子さんに、首がもげそうなぐらい首を横に振った。

 絢子さん、どういう訳か院長と仲が悪くて、敵意むき出しなのよね。仕事中には支障がないのだけど、プライベートだと犬猿の域。


「ち、違います。こ、これは院長の従兄弟のせいです」


 考えるよりも早く私の口をついた言葉に、絢子さんと結城さんが顔を見合わせる。


「院長の従兄弟ってことは、榊一族?」

「そら、口より手の方が先に出はりますなぁ」

「榊の誰よ。そいつ、三枚に下ろしてやるわ」


 舌打ちをしながら呟いた絢子さんに、結城さんが苦笑いする。


「…絢子さん、会った事ありますよ?」

「何時?」

「先週の水曜日に、外人さんに私が絡まれてた日です」

「あ、ちょい伊織似の年下超絶美形な外人?」

「その人がお探しの榊さんです」

「あれが!?思いっきり外人じゃない!何処に日本人の血が混じってる訳?」

「…行動は、まるっきり榊一族です」

「やだ…あんなイケメンなら食べられてみたい…いえ、伊織に置き換えて妄想しながら余すことなく食べちゃうわね」

「もう、絢ちゃんたら肉食女子やわぁ。そんな折は、うちも仲間に入れてくれはります?」


 さっきとは全く違う、夢見る乙女の様に妄想を抱いて恍惚とする絢子さんに、結城さんが品良く笑って恐ろしい事をさらりと言う。


「もちろんよ、希美きみちゃん!美味しい物はみんなで頂かないとね!」


 そうだ…この二人、年下のイケメンが好みだって言うのを、すっかり忘れてた。

 この話が先に進んだら、めくるめく下ネタ話に突入して、二人は現実世界に小一時間は余裕で帰って来ない。

 断固、阻止しなければ。


「そ、そう言えば、絢子さんの大事な伊織さんはどうなったんですか?」


 その瞬間、絢子さんの表情が一変する。とても険しい表情へと。


「…あげちゃん、そら聞いたらあきまへん」


 結城さんが悲壮な顔をする。


「え??重病なんですか??」

「そやのうて…」

「あの女、マジムカつくっ!」


 突如、絢子さんが激怒して立ち上がる。

 その鬼気迫る怒りに、思わず結城さんと身を寄せる。

 周囲も一瞬静まり返って、一斉に絢子さんに視線が注がれた。



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