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Parfum  作者: 響かほり
第七章 時にはハンターの様に
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 健斗は手に持っていた雑誌を閉じ、ガラステーブルの上に置くと、代わりに煙草を手に取る。


「昔、あいつらが出来ていると言う噂もあったが、吉良も凱もその事について絶対に口を割らねぇ。二人の態度を見るに、多少なりとも浅からぬ仲なのは事実だ」


 煙草に火をつけ、紫煙を吐きだした健斗は、煙草の先端から揺れ流れる煙をじっと見つめた。


「凱の手の付いた女、お前抱けるのか?」


 露骨な問いかけに、自分に笑みが浮かんだ。

 それが失笑だと分かる。


「そんな女を、何で健斗が大事に出来る訳?」


 俺と同等、いや、それ以上に凱と健斗の間には確執がある。

 健斗の言葉が事実なら、この従兄弟は絶対に吉良を重用しない。


「美菜が惚れこんだ女なら、凱の昔の女だろうと愛せる」


 妻である美菜様への惚気なのか、吉良への恋慕の自白なのか。

 予想しない返答に、俺は何とも言えない気分になった。


“何だ、これ…”


 不意に、胸が圧迫されるような感覚に襲われる。

 痛いような苦しいような、胸に何か重たく大きな物が膨れ上がる様だった。

 何故自分がそんな感覚に襲われるのか、理解できない。


「…それ、本気か?」


 訊ねてみても、健斗の読み取れない表情と態度に、全く判断がつかない。

 大方、健斗がこういうもの言いをするときは、問いかけた答えを期待できないのだ。

 本人に、答える意思がない時の対応だ。深く突っ込んだ所で、健斗は答えない。

 しかも、はぐらかしとは言え、健斗の口から不味い言葉を色々と聞いてしまった。


「…美菜様が惚れこんでいるって…吉良の事だよな?」

「他に誰がいる。美菜の最優先事項は、俺でも自分自身でもない、吉良だ。吉良にふさわしくないと思った男を、徹底的に排除するために、美菜は俺まで利用した盲愛っぷりだ」


 ひんやりとしたものが、背筋を走る。

 まずい。吉良が其処まで美菜様に好まれているのは、想定外だ。


“今ですらこの様なのに、吉良向けの報復をされたら、俺…死ぬんじゃないか?”


「もしかしなくても、美菜様から吉良を愛人にしろとか言われてないよな?」

「なんだ、美菜から聞いたのか?」


 煙草を咥えながら、健斗は何でもない事の様に訊ねてくる。


「俺の愛人になれば、吉良を他の男に取られる心配はない。しかも俺の物は自分の物ってのが、あいつの持論だ。形は何であれ、手に入れられれば良いんだとよ」


 独裁者的発想なのか、盲目的な愛情故の発想なのか。

 健斗も理解しがたいのか、困惑した顔をしていた。


「女に命令されて女を口説くなんて、らしくないだろ」

「それを口実に、欲しい女が手に入るなら煽られたふりをするのも悪くない」

「お前…」


 途端にしれっと答える健斗に、その気がある事を知る。

 美菜様と結婚をして女遊びを一切やめた男だが、どう転んでも榊の人間だ。一人の女で満足できるほど家庭的でもなければ、保守的でもない。

 しかも‘欲しい女’ときた。


「何にせよ、吉良はお前の手に余る。分かったら吉良で遊ぶな。本気なら尚更。美菜や会長に確実に潰されるぞ」


 手に余るどころか、俺の苦手な人間リストの二トップが、見事に揃い踏みで吉良の外堀を固めている。


「吉良が俺に惚れたら問題はないんだろ?」


 健斗はゆっくりと煙草の煙を吸い込み、指で挟んだ煙草を下ろした後、俺の方を向いて紫煙を吹き掛けてきた。

 俺は顔をそむけ、顔の近くにある苦手な紫煙を手で払う。

 刹那、胸倉を掴まれ健斗に引き寄せられた。

 何事かと思って相手を睨めば、健斗が唇の端を吊り上げて不敵に笑う。


「本気で惚れてもいない癖に、ふざけた事ぬかすな。吉良を泣かせたら、お前だろうと破滅させるぞ」


 いつもの皮肉な笑顔のまま、吐きだされたのは怒り剥き出しの低い声音。

 最後の言葉には、間違う事なき殺意の念が含まれていた。

 その眼光にも、普段の人をくって遊ぶ戯れの情は一切ない。

 本気で俺を殺しかねない、従兄弟の警告に、思わず俺は息をのむ。

 不機嫌になるのはしょっちゅうだが、感情をむき出しにして怒りを表現する事は殆どない健斗の怒り。


「お前、もしかして吉良の事」

「あぁ、愛している。…分かったら、これ以上、俺の神経逆撫でするんじゃねぇ」


 言いかけた俺の言葉を、衝撃的な発言で封じ込めた健斗は、容赦ない力で俺を突き放してそのままリビングから出て行った。

 残された俺は、しばらく思考が止まったまま、身動きさえ取れなかった。




すいません。タイトルナンバーが間違っていましたので修正しました(>_<)

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