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Parfum  作者: 響かほり
第六章 弱った大型犬にもご注意を
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 相手のあまりの色気に気を取られていたら、耳朶を甘咬みされた上に、舌でいやらしくなぞりあげられた。


「いゃぁ」


 不意を突いて襲ってきた衝撃に、思わず自分の口から洩れた声が酷くあの時の声に似ていて恥ずかしくなる。

 それ以上に、脊髄からゾクゾクとした震えが走って身体が強張る。


「随分、そそる声だね?」

「ちょ、ちょっと!セクハラで訴えますよ、榊さんっ!」


 そのまま首筋にまた口づけてきた相手を、精一杯の虚勢を張って相手を引き剥がす。

 てっきり、からかって笑っているのだと思った相手には、笑顔なんてなかった。

 真摯に見つめてくる青灰色の瞳には、遊び心なんてなくて、昨日のキスの最中に見せた雄々しい男の表情に、思わず怖くなった。

 榊慣れをしていない女の子なら、うっかりその魅力にそのまま流されていたのかもしれない。


「貴女が頭から離れない。泣きそうな貴女の表情が、俺をおかしくさせる…今だって、貴方に触れたくて、キスしたくなる」


 逃げたいのに、体はがっちり押さえられて身動きが取れない。でも、相手の頭のネジは飛んでいるから、全然、会話にならない。

 本当に口付ける気なのか、迫って来る榊紫苑に私の恐怖心はマックスに達する。


“させるものですかっ!”


「がっ!」


 次の瞬間、榊紫苑は顔面を押さえて私から離れた。

 私の頭突きが、彼の高い鼻梁にクリーンヒットしたのだ。

 慌てて私は起き上がって、彼から離れる。


「貴方は寝てないから、頭のネジがぶっ飛んで、アホになってるだけですっ!」


 ベッドの上に仰向けに転がった榊紫苑は、しばらくじっとしていた。


「っぅ…頭突きとか、マジか…」


 ゆっくり手を下ろし、天井を見ながらぼんやりしていたけれど、突然、榊紫苑は何を思ったか笑い出した。


“どうしよう…頭揺らしたから、余計におかしくなっちゃった!?”


「あぁ、そうか。…ちょっとわかったよ」


 一人で納得したように、相手は私を見て笑う。

 思わず、異様な光景に私は一歩後ずさってしまう。

 頭のネジ…の説明で、納得してくれたのかしら?それとも今の衝撃で本当にアホに…?


「な、何がわかったんですか?」

「泣き顔のままの貴女が、嫌だったんだ…泣かせたくない」

「はい?」


 やっぱり、脳に受けたダメージが大きかったのかしら。言っている事とやっている事の整合性が取れていない。


「それと吉良からする匂い、気分が落ち着く」


 どう見ても、鎮静してリラックスしているようには、見えないけど。

 むしろ、麝香ムスクでも嗅いでしまったかのような、エロスを醸し出していたのに。

 もしかして、それが彼の素?


“顔が商売道具で、女の扱いに長けていて…榊紫苑の仕事って、ホスト的な何か!?”



 そう言えば、何時もクリニックに来るは深夜過ぎだったり、明け方だったり。微妙な時間だったわ。

「…なんか、すっきりした」


 私がモヤモヤしだしたのに、勝手に自己完結した美形男は、ベッドから体を起こす。


「すっきりついでに、やっぱ風呂」

「…もう、勝手に入っちゃってください」


 止める気もなくなった私は、ため息とともに俯き、部屋から出て行く相手を見送った。


「…はぁ。とりあえず、シーツも汗で濡れてるから換えておかないと。それから…」


 効果はいまいち期待できないけれど、ルームフレグランスを調香しておこう。

 これ以上、不眠が続いて、おかしなことをされても困るから、試しに持たせてみよう。

 美菜先生も確か、同じエッセンシャルオイルを持っていたから、それを借りればすぐ作れるし。

 お粥はとりあえずキッチンに下げて…。

 そんなことを考えながら、小さな土鍋の乗った盆を持ってキッチンへ戻る。


「あら、しーちゃん食べなかったの?」


 キッチンで冷蔵庫を開いていた美菜先生が、私を見てそう尋ねる。


「熱が下がったから、お風呂に入るそうです。あ、美菜先生、調香したいのでエッセンシャルオイルを貸してもらっても良いですか?」

「ええ、それは構わないけど…」


 美菜先生が、じっと私を見つめてくる。

 しかも、表情が険しい。


「なにか…?」


 美菜先生は、自分の左首筋に指をあてる。


「此処、付いてますわよ。キスマーク」


 最初、何の事か分からず首を捻り、冷蔵庫のステンレスに映し出された自分の左首筋を確認する。

 そこには、小さく丸い赤い後がくっきりとある。

 しかも、服でも髪でも隠しきれない所に。

 それは、榊紫苑が口づけてきた場所だった。

 とっさに自分の首筋に手を当てる。

 自分の血の気が、一気に引くのが分かる。


「しーちゃんったら、あたくしの警告に逆らうなんて、良い度胸じゃありません事?」


 そんなことを美菜先生が言っていたけれど、私の耳にはあまり届かなかった。


“なんて事をするのよ、あのエロ倒錯男!キスより性質が悪いじゃないのよっ!”


 次第に、ふつふつと怒りがこみ上げていた。


「…っ、榊紫苑の莫迦ぁぁぁぁぁっ!」


 その絶叫は、浴室にいた榊紫苑の耳にも届くほどだった。



 文字通り、いろんな意味での実力行使の力技が此処に…

 イロイロ期待された方、すみません。一応、このお話はコメディなので…ヒロインがヘッドバッドと云う暴挙をお許しくださいませ。

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