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Parfum  作者: 響かほり
第四章 美形との昼食はろくでもない
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16 ~吉良side~



   第四章  美形との食事はろくでもない



 カウンセリングルームの机上に広げられた重箱。

 二人掛け用のテーブルセットに、椅子を一つ持ち込み、小さめの正方形のテーブルいっぱいに広げられた三段のお重。

 中身は、量より数、数より見た目、見た目より味の院長の要望で、和食が中心。

 里芋の煮物、お浸し、ひじきの煮つけ、だし巻き卵等々…普通の家庭料理ばかりで、自分で言うのも何だけど地味。

 でも、今回は珍しく院長から海老フライ、唐揚げ、ハンバーグのリクエストもされたので、しっかり納めてみた。

 ご飯はフリカケ類をまぶすと、「米の味を殺す気か」と、院長からクレームが来るけれど、うす塩味のおにぎりと、紫蘇のおにぎりを半分ずつにした。

 ピクニック用の紙皿と割り箸で、すこし色気はないけれど、その代わりに部屋には稀有な二人の美形男子がいる。

 私の両隣、左側には院長、右側には榊紫苑。知らない人が見れば両手に花状態。

 その見目だけは文句なしに優秀な男二人は、何故だか子供みたいな喧嘩しながらご飯を食べている…。


「お前、まただし巻き卵食べやがったな」

「ケチくさい…まだたくさんあるじゃないか」

「いいや、減る!」

「…どれだけ卵が好きな訳、健斗」

「お前は、他のもんでも食ってろ。ニンジンとか、ニンジンとか、ニンジンとか」

「良い大人が、嫌いなものを俺に押し付けないでよ」

「オレンジ色の悪魔を、俺の皿に入れるな!」

「ちょ、俺の皿に移すなよ!俺だって、ニンジン嫌いなんだよっ!」


 私は二人のやり取りを聞きながら、緑茶を淹れた急須を持ち、三人分の湯飲みにお茶のおかわりを注いでいく。


“大きな子供ね、これじゃ…”


 四捨五入したら四十代の男と、二十五を迎えるであろう男の口喧嘩とはとても思えない。

 しかも、黙って立っていれば十人中九人は見惚れる美形の男なのに。

 全力で人参の擦り付け合いをするなら、そっと重箱に残しておいてくれればいいのに、どうあっても相手に片付けさせようとする気が双方にありありと見える。

 それなりに付き合いは長いけど、こんなに子供っぽい院長を見たのは、初めてかも。

 榊紫苑も、なんだか楽しそう。

 顔色が悪いから食欲もないかと思ったけど、わりと箸の進みは良くてすこしほっとする。

 お茶を配りながら、そんなことを考えていた。

 既に、重箱は殆ど空。

 気持良いくらい綺麗に。

 作りがいのある食べ方をしてくれる人たちに、無意識に笑みがこぼれた。

 もし兄弟がいたら、こんな感じで、ご飯とか食べてたのかな。

 私は一人っ子で、共働きだった両親とも一緒に食卓を囲んでご飯をしたっていう記憶もあんまりない。親戚とも疎遠だったから、賑やかな食事をしている目の前の二人のやり取りが羨ましく思える。

 話しあえる兄弟がいたら…私と両親の仲も、もっと違う形になっていたかもしれない。

 でも、それは全て仮定の話。

 考えても、今の現実は変わるものじゃないし…。


「…吉良さん?」


 呼ばれて、我に返ると榊紫苑と院長が私を見ていた。

 どうしたんだろう。


「…何か?」

「泣きそうな顔しているよ?」


 言われた意味がわからなくて、私は首をひねる。


「…そうですか?」


 二人は同時に頷く。


「そんな、息ぴったりで肯定しないでください」


 何を思ったか院長は、箸でだし巻き卵をはさんで持ち上げ、私の前に出す。


「口開けろ」

「…はい?」

「泣きそうな顔をするくらいなら、欲しいと、はっきり言えば良いだろう」

「違いますよ…。それは、院長が遠慮なく食べてください」


 卵焼きを物欲しそうに見ていた訳ではないのに、院長は手を下げず、険しい表情のまま私を見ている。


「男が一度、女の前に出したものを下げられるか。さっさと口を開けろ。皿は出すなよ」


 つまり、私の意思に関係なく、このまま口に入れるつもりらしい。

 恋人でもないのに、そんな真似なんて無理!恋人でも恥ずかしすぎて死んじゃう。

 でも、そんな動揺を悟られると院長に遊ばれるので、努めて冷静に返答をする。


「…新手の嫌がらせですか?」

「俺に対するお前の愛を、試してやっているんだ」



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