13
健斗の経営する病院から少し離れた所で車を降り、俺は時間つぶしの為に近くにあったコンビニに入った。
まだ一三時少し前。
健斗と約束をした時間には、まだ時間がある。
今日は平日だ。あまり早く行って、余計な職員と顔を会わせたくなかったから、何を買う訳でもなく、時間つぶしで少し店内を見て回る。
こういった場所にすら滅多に入ることはないから、見ているだけでもわりと面白い。
最近は、ATMがコンビニの中にあるとか、栄養ドリンクが売られているとか、弁当もわりと種類が豊富なんだとか、俺がCMに出た事のある菓子があるとか…
そんなことを思いながらぶらぶらする。
“あれ…”
ペットボトルの陳列してある冷蔵庫の前に、見慣れた白衣の後姿がある。
すらっとした長身に、ショートの髪。
俺はそっと、相手に近づいてみる。
ガラス扉越しに映る相手の顔を見て、当人だと確信する。
彼女は何やら真剣に、陳列されたペットボトルを眺めている。
「不経済だわ…」
ぼそりと呟いた彼女の隣に、黙って立つと、相手は不思議そうに俺を見上げる。
「わっ、さ、榊さん!何で…」
一歩身を引いて、心底驚いた顔をする吉良に、俺も驚く。
そこまで驚くようなことなのか?
「…何が不経済なの?」
「コンビニって、スーパーと比べると、どうしても値段が高いんですよね…」
「そう?」
俺はコンビニでも、スーパーでも買い物をほとんどしないから、どう違うかなんてさっぱりわからない。
「で、何を買うつもりだったの?」
「院長の食後のコーヒーを点てるためのお水です。お水の銘柄を変えると、途端に機嫌が悪くなるので…」
そう言いながら、ガラス張りの大きな扉を開き、二リットル入りのミネラルウォーターを手にとって、買い物籠に入れる。
「榊さんは何を買われるんですか?」
「俺は良いの。時間つぶしだから」
「時間潰し?」
「約束した時間より、ずいぶん早く仕事が終わったから」
「そうなんですか…お昼ご飯はもう食べられました?」
「あ…まだだけど」
吉良は、不意に破顔する。
「よかった。院長に言われて、お弁当を三人分作ってきてたんですよ」
普通、単なる看護師が医者に言われたからって、そんな物を作って持ってくることなんてないよな?
健斗にいたっては、そもそも女の手料理は嫌いなタイプだ。
俺が知る奴の歴代の彼女にすら、手料理を作らせない。
作られても、絶対に食べない男だ。
一体、健斗と吉良の関係はどうなっているのだろう。
この間は、否定していたけど、どこか怪しい。
不倫していようが恋愛していようが、特殊な関係だろうが、俺には関係の無い話だから、普段はあまり他人に対して興味がわかないけど、吉良のことはどうしてか気になる。
俺の周りに居た女とは、どこか違うせいかもしれない。
「たぶん、榊さんは何も食べずにくるはずだし、自分は忙しくて外で食べる時間もないからって、ほぼ脅迫的…あ、いえ、何でもないです」
レジへと歩きながら、俺に説明していた吉良は、途中で言葉を濁した。
困った顔をしているあたり、本当に脅迫まがいに命じられたのだろう。
レジで会計を済ませ、長財布に小銭とレシートをしまっている吉良を見ながら、俺はレジ袋に入れられたペットボトルを手に取って、先にコンビニを後にする。
その後を、吉良が慌てて追いかけてきた。
「榊さん、すいません。荷物持ちます」
手を差し出してきた吉良に、俺は立ち止り、手をのばして吉良のその細い手を握る。
吉良が一瞬、その握った手を見て固まり、俺を見上げてきた。
「これは、何の冗談でしょう?」
「女の人に荷物を持たせるなんて、男のすることじゃないでしょ」
「そうじゃなくて…」