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Prism Hearts  作者: 霧原真
第五章
64/222

Kiss is...

俺が弥生さんに抑え込まれてから数分して、都さんの「よしっ!」の一言と同時に広太が動き、俺の身に降りかかったその拘束は解消されたのだった。俺に覆いかぶさっていた弥生さんは広太によって平和的に除去され、弥生さんに少し遅れて参戦した未来ちゃんはいまだキャッキャと俺の胴に腕を巻き付けていて楽しそうにしているのだが、とりあえず俺はその危険な拘束からは解放されたのだった。

パーティ用の料理をつくる前にエラいくたびれてしまったが、しかし拘束からは解放されたのだから、ということで俺はベッドから起き上がり、ひとまず大きく息を吐いた。

「助かった……」

「幸久様、御助けに入るのが遅くなってしまい、申し訳ございませんでした」

「悪いと思ったなら、さっさと助けてくれよ…、マジで……」

「もちろん、本当に幸久様の貞操が危うくなったならば私も速やかに間に入るつもりだったのですが、しかし幸久様は見事な体捌きをなさっておいででしたので、おそらくはまだ問題ないと、勝手ながら判断させていただきました。それならば都様に資料収集をさせてさしあげるのがよろしいと思いましたので、手出しは控えさせていただいたのです」

「実際なんとかなったからよかったけど、ほんとに俺のくちびるが奪われてたらどうするつもりだったんだ」

「そのときは、責任を取りまして私のくちびるで上書きをさせていただこうかと考えておりました」

「その責任の取り方どうなの!? ほんとにそれ、責任取れてるの!?」

「しかし、それ以外に責任の取り方も思いつきませんので、おそらくそうさせてもらったのではないかと思います」

「それは、俺が許さないよ! っていうか、別に広太にキスされてもうれしくないよ!!」

「じゃあ、そうなったら未来が三木のおにいちゃんとちゅぅするです」

「…、どこからそこにたどり着いたのか前線分かんなかったけど、そういう特典付きなら弥生さんとキスするのも悪くない…、か……?」

「三木くん、キスは神聖なものよ、そう易々とするべきではないわ。しかし、小さな子と大人の男のキスシーンは、資料映像として少しだけほしいわ」

「っていうかさぁ~、おねえさんのこと、さすがに蔑ろにしすぎじゃないの~? 確かにあたし、ゆきにキスしようとしたけどさぁ~、別に遊びってわけじゃないし~、もっとありがたがってもいいんじゃないの~?」

「やよちゃんには感謝してるわ。女の子が男の子を押し倒してキスを迫っている構図は、リアルな映像としてほしかったからね。この経験は、いつかあたしの作品に反映されるから、安心してね」

「そういう話じゃないし~。おねえさん、ぴちぴちの女子大生なのに、なんでこんな扱いされないといけないのよ~。キスされてうれしくないわけないじゃ~ん」

「そういうことは、もう少し女子大生らしい姿を俺に見せてから言ってください。俺の中で弥生さんはぴちぴちの女子大生じゃなくて、隣の飲んだくれのぴちぴちですよ」

「ぴちぴちってことだけは認めてくれたってことは、別におねえさんにも脈がないってわけじゃないよね?」

「脈がなかったら死んでるじゃないですか。弥生さんの心臓は動いてないんですか?」

「ん? あれ? 生きてるよ」

「じゃあ脈あるじゃないですか。よかったですね。っていうか、今気づきましたけど、都さん、お酒飲んでますね。顔に出ないから分かりませんでしたけど、かなり飲んでますね?」

「お酒? 飲んでないわよ。酒は飲んでも呑まれるなっていうでしょ? 呑まれてないってことは飲んでないのよ。呑まれるってことは溺れるってことでしょ? ほら、あたしピンピンしてるじゃない」

「言ってることが完全に支離滅裂なんですけど…、そうやって思考がまとまってない時点で呑まれてるじゃないですか……」

「呑まれてないってば。やよちゃん、もう一杯ね、さっきの、アレ」

「ほいほい…、あい」

「っとっと…、ありがと。んく…、んく…、っぱぁ……!! 美味しい水ね…、どこのメーカーかしら?」

「ん? 新潟の蔵造りだよ」

「新潟の蔵造山? 聞いたことないけど、やるじゃない、新潟!」

「ちょちょちょっ!! それ一升瓶ですよ! どっからどう見てもまごうことなく酒じゃないですか! しかも弥生さんが飲んでるやつですから強いですよ!!」

「えっ? 別に強くなんてないよ~。食前酒だよ~」

「水に強いも弱いもないわよ、三木くん。しっかりしてよね、もぅ」

「なんで俺が呆れられてるみたいな感じになってるんですか!! どう見ても明らかに酒って書いてあるじゃないですか!! ちゃんと目を開いて見てください!!」

「これはね、酒と書いて『ソウル』と読むんだよ、ゆき、知らないのかい」

「ソウルっていうのね、この水。どおりで胸が熱くなると思ったわ」

「それは酒のせいですよ。都さん、落ち着いてそのコップをこっちに渡してください。それで水を一杯飲みましょう。そうしないとアルコールが残っちゃっていつも大変じゃないですか。ほら、悪いことは言いません、あとで大変な思いをするのは都さんなんですから」

「水だったら、今も飲んでるわよ?」

「思い出してください、水はそんな味じゃないでしょう? いや、俺は飲まないから味なんて知らないんですけど、でも、きっと全然違う味でしょう?」

「ゆきってばぁ~、けちけちしないの! ちょっとくらい飲んでるくらいでちょうどいいの、大人は。こうしたほうがね、きっといろいろいいんだってば」

「いいわけないじゃないですかなに言ってるんですかバカなんですか? 酒なんて、この世からなくなっていいものの筆頭ですよ」

「お酒は! 命の! ガソリンだよ!! なくなったら、おねえさんが動けなくなっちゃうじゃない!!」

「ダメだこの大人どうしようもない……。行こう、未来ちゃん、ここにいたらダメ人間のダメさに中てられるよ……」

「はいです、おにいちゃん。おかあさんも、いつもお酒はよくないものって言ってるです」

「ほんとそうだよね、未来ちゃん。さすが歌子さんはいいこというなぁ……」

「うたちゃんも酒豪だけどね。あれはザルを超えてるよ。ワクだよ、ワク。あんな人見たことない、あたしは。水と同じ感覚でお酒飲んでるんだもん、何かが間違ってるよ」

「ほんとに水の代わりに飲んでる人が、そういうこと言わないでください。きっと歌子さんは二人と違って飲んでも面倒なことにはならないんだろうし、いっしょにしたら失礼ですよ。っていうか、もう弥生さんは水の代わりに酒を飲むくらいなら、酒の代わりに水飲んでくださいよ。そしたら俺が面倒じゃないですからね」

「失礼な。おねえさんはお酒を尊重して飲んでるよ。お酒よりも大切な飲食物は、この世にないと思ってるくらいだよ。酒造り名人とか、神だと思ってるよ」

「マジ顔でなに言ってるんですか……。広太、この二人は隣の部屋に封じ込めてきてくれ。飯ができたらケイタイ鳴らすから、それまで相手してやっててくれ。まぁ、勝手に泥になるまで飲んでるだろうから、飲み過ぎないとうに見張ってるだけでいいからな」

「はっ、了解いたしました。それでは弥生様、都様、参りましょうか」

「ん~? どこに~?」

「幸久様がお料理をつくり終わるまで、弥生様のお部屋で私がお相手します。幸久様から連絡があるまで、そちらで待機していましょう。私たちが邪魔してしまっては、幸久様も心行くまでお料理に打ち込むことが出来ませんので」

「やよちゃんのお部屋? それならあたしの部屋に行きましょう。なんか、こう、今、Gペンの神があたしの腕に降りてきてる気がするから、いつもよりもいい原稿が描ける気がするのよ。だからあたしの作業部屋に行きましょう」

「都様、たまにはお仕事を忘れてごゆっくりなさるのがよろしいかと存じます。常日頃あれだけお仕事に打ち込んでらっしゃるのですから、たまにはガス抜きをしなくては、いくらお好きなことを仕事になさっているとはいえ、パンクしてしまいます」

「広太、あとは頼んだぞ。未来ちゃん、行こっか」

「はいです。未来は、庄司のおにいちゃんのいなくなっちゃう分までテーブルのかざりつけをがんばらないとですから」

「俺もそろそろ料理しないとだし、さっさと逃げよう。じゃあ弥生さん、都さん、手伝ってくれないなら、せめて邪魔しないでくださいね」

「ゆきってば、二人っきりでみくちゃんになにするつもりなの~、えっちぃ~。おねえさんとはちゅぅしてくれなかったのに、みくちゃんとはちゅぅするつもりなんでしょ~」

「ダメよ、三木くん。あなたロリコンなんだから、キスだけで事が収まるわけがないわ。キスしちゃったら、若さにまかせて紙面ではお見せできないようなことになっちゃうに決まってるんだから。ほら、それに、あつらえたようにベッドもあるし、二人っきりだし、絶好のシチュエーションじゃない。ダメよ、キスなんてしちゃ。絶対にしちゃダメだからね」

「そこまで言われると、むしろしろって言われてる気がしてくるんで、そろそろやめてください。しませんよ、キスなんて。未来ちゃんの大事なくちびるを奪うわけにはいかないじゃないですか。キスは大事なものなんです。将来有望な少女のくちびるを奪うなんて、許されざる大罪ですよ」

「それじゃあさ、もし、みくちゃんがそのくちびるを捧げてきたら、ゆきはどうするんだい? 将来有望な乙女が目と鼻の先で、つま先立ちで背伸びして、静かに瞳を閉じていたら、どうするんだい、ゆきは」

「…、据え膳食わぬは男の恥、などと人は言いますが、しかし俺はそんな無責任なことはしません。早計なことはよすんだ、と未来ちゃんを見事説得してみせます」

「それでも、もしも本気の本気で、説得をきいてくれないときは?」

「そのときは、相手の覚悟と思いをくみ取り、自分の心の中の気持ちをよく思い起こして、俺自身責任を取る覚悟ができるんだったら、その思いを受け入れます」

「ねぇねぇ、ゆき、おねえさんも、本気の本気だよ!」

「ごめんなさい、俺、酔っ払いはちょっと」

「まだ、今日はあんまり酔ってないもん!」

「今日のこの瞬間だけの話をしてるんじゃないですよ! 恒常的な状態についての話をしてるんです!」

「おねえさんだって乙女なのに! 少女の心を宿しているのに!」

「お…とめ……?」

「あ~ん! ちょっと本気っぽい顔で首かしげられた~!! ひろ~、ゆきがいじわるするよ~!!」

「弥生様、ご安心ください、弥生様は非常に魅力的にあらせられます。幸久様は照れ屋でいらっしゃるので、正面からそれを言うのが恥ずかしいに違いありません」

「そうよ、やよちゃん、あなたはスタイルいいし顔もいいし、諸々ばっちりなんだから、そんなことで凹むことないわ。それに比べてあたしは……」

「都様は、美しいお心をお持ちです。以前作品を拝見しましたが、心洗われるようなとても素晴らしい心地がいたしました。心がきれいな方は、どなたも素敵だと私は思いますよ」

「ありがとう、やさしいね、庄司くんは」

「いえ、あくまでも本当の事でしかありませんので。私ただありのまま、思ったままのことを言っているだけでしかありません」

「よし、行こう! 意地悪なゆきはほっといて、うちに行こうよ!」

「ほんとに、そうしてくださいよ。食事が用意できたら呼びますから、それまではおとなしくしててください」

「それでは幸久様、少々こちらから外させていただきます。何かご用がお有りのときはケイタイを鳴らしてくださればすぐに飛んでまいりますので」

「分かってるって、もしそのときはそうするよ。ほら三人とも、さっさと隣に行っててくださいよ」

「こんなに追い出そうとするなんて、怪しいわね。やっぱりあたしたちがいなくなったらすぐに未来ちゃんを、そのままベッドに押し倒してやさしくキスをして、一枚一枚服を脱がせて身体中をゆっくりと愛撫して、少女の未発達な肢体に快楽の種を植え付けて少しずつその虜にしていって、最終的にはアレをナニしてにゃんにゃんするつもりなんでしょ?ダメよ、はしたないわ」

「そんな確信的に言われても…、しませんよ、そんなこと……」

「しないの?」

「しませんってば! もぅ、さっさと出てってくださいよ! …、ったく…、なんなんだ、あの大人たちは……」

「三木のおにいちゃん、一つ聞いてもいいですか?」

「ん? なぁに? 俺に応えられることだったら、何でも聞いてくれていいけど」

「未来のこと、好きです?」

「うん、大好きだよ。未来ちゃんのことは、すごい大事に思ってる」

「そう、ですか。えへ、それだけです」

「心配しなくてもだいじょぶだよ。俺は未来ちゃんのことが嫌いだからさっきみたいに言ったんじゃないからね。むしろ未来ちゃんが大好きだから、わざわざお節介であんなことを言ったんだ」

「おにいちゃんが未来のことを大好きでいてくれてるって分かって、未来、とってもうれしいです! それじゃあ、未来とちゅぅしてくれますか?」

「キスは、もうちょっと大人になってからね。大人になって、まだ俺のことを大事に思っててくれて、キスしてもいいと思うなら、そう言ってね。俺もそのときは、真剣に考えるからさ」

「はい、分かりました。教えてくれてありがとです、三木のおにいちゃん」

「どういたしまして、未来ちゃん。それじゃあ、三人もいなくなったことだし、さっきの続きをしてもらおっかな。テーブル周りは、みんな未来ちゃんにお願いしちゃっていい?」

「はい、任せてください。あたし、一生けんめいがんばります!」

「ん、いい返事だ。これなら任せちゃっても平気だね」

「はいです!」

それから俺たちは、まだ始まってすらいなかったパーティの仕度をはじめることにしたのだった。俺は料理を、未来ちゃんはテーブル周りのセッティングを、それぞれが思い思いにこなすことになる。

なに、少し時間を無駄にしたとはいえ、まだ十分に時間は残っているのだ。広太の抜けてしまった二人であっても、きっときっちりやってのけることができることだろう。

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