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Prism Hearts  作者: 霧原真
第十八章
206/222

恨まれている感じ?

「あれ、三木くん、志穂さん、早かったですね」

「あぁ、男前だからな」

「そうだよねぇ〜」

着替えを済ませて校庭に出て来た俺たちは、そのまま先行しているクラスの集団になんとか合流することが出来た。うちのクラスはまだけっこう人数が少ないように思えるが、まぁ、ほかのクラスに比べて女子の人数がぶっちぎりで多いんだから仕方ないのかもしれない。

「紀子さんが、まだ来ないのか〜! って言ってましたよ、三木くん」

「あれ? 俺、そんなに遅くないよな? 幸村も、早かったって言ってたしな」

「えぇ、全然遅くなんてないですよ」

「なんだよ〜、姐さんもたいがいせっかちだな。まだ全然始まってないし、余裕あるのになぁ」

「きっと、三木くんのことが心配なんですよ。紀子さん、クラスのリーダーですから」

「そんな心配することもないと思うんだけど、なんだろう、俺は姐さんにとって不安材料なんか?」

「不安材料ということはないと思います。ただ、心配をしているだけじゃないですか?」

「特に理由も無くただ心配されるっていうのも、なんか逆に不安になって来るけどな……」

ふと校庭を見回してみると、ちょうど一年から三年までの全クラスが続々と昇降口から出てきているところであり、特に俺たちが遅れて来ているということはないわけだ。それだというのに俺ばかりが姐さんに心配されるというのは、なんだか釈然としないというか、いや、もちろん姐さんが俺のことを心配してくれるのは、それはそれで感謝感激なのだが、そんなに俺ってダメだろうか?

「ところで、俺のことを心配していた姐さんはどちらに?」

「紀子さんなら、さっき会場の巡回に行きましたよ。風紀委員は朝一からお仕事がいろいろあるみたいで、大変そうですよね……」

「なんだ、朝っぱらから仕事なのか、風紀は。体育祭だっていうのに、忙しないなぁ」

「お祭りだから、やっぱり仕事があるんですよ。誰かがけがをしたりトラブルが起こったりしたら、せっかくのお祭りが台無しになっちゃいますから」

「それだとしても、別にあえて姐さんに仕事振らなくてもよくね? だって姐さん、いつも風紀の仕事いろいろがんばってるんだしさ、こういうときくらい免除してくれたっていいよなぁ」

「紀子さんなら、むしろ自分からどんどん仕事を入れていってしまいそうですけどね、性格的に」

「それは、間違いなくそうだろうな。ほかの人が姐さんの仕事を少しでも減らそうと奔走していても、その隙を突いてスケジュールを仕事で埋めようとするだろうな」

「でも、そうやって裏で支えてくれる人がいるからこそ、みんなでお祭りを楽しむことが出来るんですよ。紀子さんががんばってくれるおかげです」

「でも俺としては、やっぱ姐さんにも体育祭を楽しんでほしいんだけどな。まぁ、どっかのタイミングで仕事に空きができる時がくるだろうし、そこを狙ってちょっと話でもするかね」

「りこたん、おでかけなの?」

「らしいぜ、後で仕事場に遊びに行こうな、志穂」

「え〜、あそびにいってもおこられないの〜?」

「怒られるかもしれないけど、でも、たぶん平気だろ。姐さんも仕事ばっかじゃ疲れるからな、息抜きだ」

「それなら、いく〜」

「どうだ、幸村も行くか?」

「いえ、あたしは、お邪魔になっても悪いので、遠慮します。あ、それはそうと、三木くん、一つ聞きたいんですけど、いいですか?」

「ん? なんだ、聞きたいことなんてあるのか? 俺に分かる範囲のことでよければ、何でも聞いてくれ」

「えぇと、聞きたいことというか、確認したいことなんですけれど」

「あぁ、どっちでも答えるぜ。どうかしたのか?」

「あの、三木くん、最近誰かに恨まれるようなことをしませんでしたか?」

「誰かに恨まれるって、…、どういう意味だ? 穏やかじゃないな」

「どうもこうも、そのままの意味です」

「いやぁ…、最近は近年まれに見るほど大人しくしているはずだし、誰かから恨まれるっていうのはちょっと思いつかないんだけど……」

「そうですか…、それじゃあ、誰か一人とかではなく、不特定多数の誰かには?」

「不特定多数っていっちゃうと、もっと思い当たるところはないな……。特に誰かとけんかしたってことはないし、どこかの集団と抗争になったってこともない。ごくごく平和なもんだ、俺の周囲の状況は」

「それじゃあ、恨みを買うようなことは特にしてないんですか?」

「まぁ、俺としてはそのつもり。もちろん、俺の知らないところで俺に恨みを持っている人間がいないとは限らないけど。俺も昔はいろいろあったわけだし、未だに俺を恨んでるやつだっているかもしれない。っていうかさ、なんで急にそんなことを?」

「いえ、あの、さっき、うちのクラスの応援席の後ろを通っていく二年の男子が三木くんの話をしてるのが聞こえてきましたから」

「恨みを買ってると思うってことは、いい内容だったわけではないんだな?」

「少し聞こえた程度なので、詳しい内容までは分かりませんでしたけど、おそらく残念ながら……。あまり好意的な口調ではなかったかと」

「うぇ〜…、俺、別に何もやってないんだけど、なんでそういう感じになってるんだよ」

「それは残念ながらあたしにも……。もしかしたらそういう事情は、風紀の紀子さんは知ってらっしゃるかもしれませんが、実際に本人から聞いてみないことには……」

「そりゃそうだわな、姐さんだって神様じゃない。知らないことだって当然いろいろあるだろうさ」

「すいません、あたしがもう少し詳しく話を聞いていればよかったんですけれど……」

「いいっていいって、そのこと教えてもらっただけでも、俺にとってはかなり助かってるんだからさ。何しろ俺は、そういう話になってるってことすら知らなかったんだからな」

「そういってもらえると助かります。あたしも、ちょっと耳に入ったくらいなので、ぜんぜん詳しいことは言えなくてすいません」

「すまないことなんてないんだって。しっかし、それにしても、いったい俺が何したっていうんだろうな……」

「そう、ですよね。恨みを買うとか妬まれるっていうのは、あまりうれしいことじゃないんですから」

「個人的に恨まれてるだけだったら、正直別にたいしたことじゃないんだよな。そいつと話つければいいだけなんだからさ。でももし不特定多数に恨まれてるとなると、たぶんどうにもならないぜ」

「そうですよね…、まず誰が三木くんを心良く思っていないかも分からないし、話を付けるとしても誰と話をすればいいか分からないですし」

「一人でたくさんの人に恨まれるっていうのは、今まで一度もないかもしれないなぁ……。いつも恨まれるのは一蓮托生だったからさ」

「一人っていうのは、どんなことでも心細いものですよね、分かります。でも安心してください、誰が三木くんのことを恨んでるとしても、クラスのみんなは三木くんの味方ですからね」

「そういってくれると、すげぇ助かる」

「しんぱいしないで! ゆっきぃのいちのこぶんのあたしが、まもるからね!」

「志穂、静かにしてたかと思ったけど、どうした急に」

「ゆっきぃのてきをどうやってやっつけるかかんがえてたの!」

「そうか、それは心強いな。それで、具体的にはどうやって?」

「あのね、むかいあわせで立ってね、おなかをバーン! ってするの。そしたらね、ピューンってとんでったのをおいかけてってね、おなかをバーン! ってするの」

「お前はすごいお腹狙いだな。とにかくお腹狙いなんだな。殺しにかかってるのか?」

「たぶん、それくらいしたらうごかなくなるとおもうの! そしたらゆっきぃ、しんぱいなくなる?」

「うん、そこまでやったらたぶんそいつ、永久に動かなくなっちゃってると思うから、お前を警察に突き出さないといけないっていう新しい心配事に襲われると思う」

「そうなの? にゃ〜、むずかしいねぇ」

「やっつけるのは、基本なしだ」

「それじゃあ、どうするの?」

「とりあえずまずは調査だな。今自分の置かれてる状況を知らないとどうしようもないし、動くに動けん」

「三木くんは部活にも委員会にも入ってないですし、もし恨みを買うとしたら学年の人くらいですよね。それにクラスのみんながぜんぜんその話を知らないってことは、男子の間でのことなのかもしれません。女子もその話に含まれているとすると、少しくらいはうわさが流れるものですから」

「となると、最悪学年の男子全員から恨みを買ってる可能性もあるってことだよな。俺は、そんな大層なことをした覚えは無いんだが」

「まぁ、恨みっていうのは、たいてい知らないところでされているものですから……」

「それはまったくフォローになってないぜ、幸村……」

他人から恨まれるのには、正直他の人よりは慣れている方だとは思う。それであっても、別に好き好んで人から恨まれたいと思っている人種ではないわけであって、出来ることならば万人と仲良く穏便に過ごすことを望んでいるつもりだ。

「志穂は、大人しくしててくれよ」

「ゆっきぃがそういうなら、そうする〜」

穏便に事を収めるには、俺はいったいどう動いたらいいだろうか。クラスの応援席に腰を下ろしたところで、流れるような自然な動きで膝に座ってきた志穂の頭をポンポンと撫でてやりながら、俺はぼんやりとそんなことを考えていた。

まぁ、これまでの経験則から言って、こういう問題が穏便に片付いたことなんて数えるほどしか無いんだけどな。

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