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Prism Hearts  作者: 霧原真
第十六章
190/222

走順を考えよう

「にゅ、これで全員、タイム計れたかな? ふぇ…、やっぱり、みんな走るの速いんだね……」

放課後にわざわざ校庭に集まっている俺達、二年七組のクラス対抗リレー参加選手一同は、とりあえず50メートル走のタイム計測を行ない、現段階で有する走力の具体化を図ったりしていた。ちなみに計測をしたのは参加選手でもないのに校庭に来ている霧子であり、その反射神経を鑑みるに――スタートの合図とともにボタンを押し、ゴールの瞬間を見計らってボタンを再度押すだけなのだが、志穂ほどの速度を出されてしまうとどうしようもなくなってしまったりするから困りものである――、どこまで正確なタイムを計ることが出来たとは思えない。

まぁ、そもそも霧子がこの場にいるのは計測係としてでも補助係としてでもなく、ただの見学としているだけなのであって、あまり重荷を背負わせるつもりはないのだが。それに、今は別に大会のタイム計測というわけじゃないわけだし、一秒未満のタイムを競うような場ではないのだ、細かいことはそこまで気にしないでいいんじゃないかと思う。

「やはり、タイムとしては皆藤さんが一番速いようですわね。まぁ、そのこと自体は、走る前から分かっていたことなのですが」

けっきょく、ここではリレーの走る順を決めるだけなんだから、各々がどれくらいの走力を持っているかが分かればいいのだ。それならば大まかに何秒台、くらいの記録があれば何の問題もないのである。

そして結果といえばもちろん志穂がぶっちぎりで速いわけであって、俺を含めた三人と比較してもだいたい一秒強は速い。これは、走った距離がたったの50メートルでしかないことを考えれば脅威的な結果と言わざるを得ないだろう。ちなみに言っておくが、俺は並の男子に毛が生えた程度には走ることが出来るわけであって、特別他の三人のタイムが遅いということはないのだが。

「そりゃ、志穂より速く走れるやつがクラスにいるんだったら、志穂が出る予定になってる競技を全部まるごと交代してくれって感じだな。っていうか、タイムだけ見ると俺が二番目なのか。なんとなくメイの方が早いような気がしてたけど、俺も意外と捨てたもんじゃないな」

「それじゃ~、ゆっきぃがアンカー?」

「なんで俺がアンカーなんだよ。っていうか、スピードだけど決めるなんて言ってないだろうが。リレーの順番は、これからタイムを参考にしながら全員の話し合いで決めていくんだ。俺は絶対にタイムが速い順にアンカーから並べていくなんて安直な方法は取らないからな」

「それじゃ~、どうやってきめるの~? つよいじゅん? あっ、でも、つよいじゅんでも、やっぱりゆっきぃがアンカーだね」

「強い順でリレーの順番決めるとか、意味分かんねぇことするわけねぇだろ、何言ってるんだよ、お前は。っていうか、なんで強い順で俺が志穂より先に来てるんだよ、おかしいだろ、それは。どう考えても志穂の方が俺よりも強いに決まってるじゃねぇか。男としてはこういうことはあんまり言いたくないんだけど、客観的に見てそれは間違いないだろ。…、いや、強い順なんてしないんだけどな?」

「でもゆっきぃ、あたしよりつよいのに~。どうしてゆっきぃ、あたしよりもよわいなんてウソつくの? もしかして、ゆっきぃがつよいのって、ないしょ?」

「ん~? なんでお前はそうまでして、俺のことを自分よりも強い位置に置きたがってるんだ? 俺はちょっと喧嘩をしてたことがあるくらいの一般的番長で、地元じゃ負け知らずかもしれないけど、お前みたいに人外の力は持ってないんだぞ? それに今はもう不良ですらないから、喧嘩だって絶対にしないんだ」

「でも、ゆっきぃはつよいよね?」

「ダメだな、埒があかない。よし、それじゃあ聞くけどな、俺のどの辺がお前よりも強いっていうんだ。是非それを教えてくれ、志穂。木元とメイは、俺が志穂から話を聞いてる間は休憩しててくれな」

「三木さん、走る順は三木さんが考えて決めてくださって結構ですので、わたくしはこれで失礼してもよろしくて?」

「ん? なんだ、用事あったか?」

「いえ、そういうわけではありませんが、今日は少し部活動に顔を出そうかと思いまして。帰宅時間があまり遅くなってしまいますと家の者を心配させますので、行くならば早めにそうした方がいいと、ふと思いつきましたの」

「なんだ、初めから行こうと思ってたわけじゃなくて、急にそういう気分になったってことか。まぁ、そういう気分になるときもあるよな、たまには。おっけ、分かった、とりあえずタイムも取らせてもらったし、後は俺達で決めとくことにするわ。悪かったな、急に付き合ってもらっちまって」

「いいえ、三木さんの方から声をかけていただいて、わたくしとしてもうれしかったですわ。また声をかけてくださってもよろしいですわよ」

「あぁ、分かった、今度は用事がなくても声かけることにするわ。そんじゃ、また明日な、部活がんばれよ」

「えぇ、それでは失礼しますわ」

「あっ、そうだ。木元って何部だっけか?」

「わたくしの部活、ですの? 室内楽部ですわ、ご存じなかったかしら?」

「室内楽部? それって何する部活だ? やっぱり音楽する部活なのか?」

「えぇ、そうですわ、音楽をする部活動に相違ありません。ですが三木さん、『やはり』とおっしゃるからには、ご存じだったのではありませんか?」

「いや、なんとなく、木元は音楽の部活に入ってるような気がしてたんだ。軽音のやつらとよく話をしてるだろ、休み時間とかに」

「軽音の方といいますと、栗田さんや千原さんのことかしら? そうですわね、そのお二人とは、よくお話をしているかもしれませんわ、音楽の話に限らず、いろいろなお話を」

「へぇ、部活つながりとかではないのか?」

「栗田さんと千原さんとは、一年生のときにクラスが同じでしたから。なにかと仲良くさせていただいていますのよ」

「あぁ、そうだったのか。俺は、誰が何組から来たとかあんまり覚えてないから、ピンと来てなかったわ」

「三木さんと天方さんと皆藤さんと風間さんは、たしか同じクラスからだったかしら? 仲が良くていらっしゃるから、そうかと思うのですが、よろしくて?」

「あと、斎藤と茅場もそうだな。まぁ、斎藤はいつも休み時間は寝てるし、放課後はすぐに帰っちまうしであんまり話したことないけどな。茅場も、基本的には体育会系部活の連中といっしょにいて、そこまで絡んだことはない。まぁ、クラスが同じっていうのは一つ親密になるためのきっかけかもしれないけど、だからといってみんながみんな親友ってわけじゃないからな」

「そういえば、斎藤さんはそうですわね。いつも休み時間には机に突っ伏していらっしゃいますし、昼休みには学食に行くでも購買に行くでもなく、どこへともなく行ってしまいますし。あまり周囲と友好的な関係を築こうとしていらっしゃらないように思われますわ」

「まぁ、そういうやつもいるっちゃいるんだよな。人間関係に対して閉鎖的っていうか、ぶっちゃけていうと絡みづらいんだろうな」

「あら、そのようなことを言ってしまいますの?」

「事実そう感じてるわけだしな、別にウソをついてそんなこと言うわけじゃない。実際にあんまり絡まないまま一年過ごして、二年になってもそんなに絡めてないんだからそう言わざるを得ないだろ」

「ゆっきぃなにいってるの~、やぁちゃんはねぇ、とってもいいこなんだよ。あたし、よくおはなしするからしってるんだもん」

「…、そのやぁちゃんっていうのは、斎藤のことなのか、志穂? 斎藤の名前はたしか、ゆあ、だったか。どこがどうなってそうなったのかは分かるような分からないようなだけど、少なくとも俺のあだ名つけの発想の範疇にはないネーミングだな」

「やぁちゃんはねぇ、あたしのおはなしをいっぱいきいてくれるんだよ。ゆっきぃみたいにじゃましないし、やぁちゃんとはすっごくおともだちなの」

「…、お前の言い分だけ聞いてると、俺がお前の話の腰を折りまくる最悪に嫌なやつみたいに聞こえるけど、実際はそんなことないだろ。基本的には、だいたいお前が意味不明なことを言ってて、俺がそれに良識的な突っ込みを入れてって構図だからな。まぁ、お前がそれを分かってくれる日は永久に来ないだろうけどさ」

「あたしがおはなししてるとねぇ、やぁちゃんはいつもつくえにあたまをくっつけてね、ずっとうんうんってきいてくれるんだよ~。ゆっきぃみたいにあたしにパンチしたりしないんだからね」

「…、寝てないか、斎藤? 無視されてるんじゃないか、それって? なぁ、無視されてるんだよな、それは? 俺の感覚が間違ってたりするのか? あと、俺はお前にパンチして話の腰を折るなんてすげぇことは、悪いけど一度たりともやったことはねぇよ。っていうか、むしろよくパンチしてるのはお前の方じゃないか? たまにモロに入って俺が悶絶したりしてるだろ」

「え~、そんなことないよぉ、ゆっきぃはつよいんだから~」

「いや、確か先週も、一回そういうことがあったように思うんだ。それは俺の記憶違いとかじゃないんだわ、間違いなくな」

「え~? ゆっきぃのことやっつけるなんて、あたしにはできないよ~」

「どうしてそんな変なところで謙虚になっちゃうんだろうなぁ、お前は。いつも俺がやられる側なんだから、そこでそういう言葉が出てくるのはおかしいんだよ。まったくお前はな、そういうところがなってないっていつも言ってるだろ、どうなってるんだ、実際のとこ」

『幸久くん、しほちゃんにはいつも厳しすぎ。あたしとかきりちゃんには甘いのに、どうしてしほちゃんには優しく出来ないの? しほちゃんのことが大好きすぎて素直に気持ちを表せないの?』

「おっ、メイ、どうした、久しぶりに会話参加したな」

『ケイタイ、きりちゃんに預けてたから』

「おぉ、そうだったのか。まったく、相変わらずメイはケイタイ以外の方法で言葉を発しようとしないんだから。困ったもんだな、そう簡単にコミュニケーションも取れやしないぜ」

『いろいろあっていろいろだから、ケイタイはやっぱりいる。いろいろ問題があるの』

「まったく分からんが、分かったことにしよう。それと、別に俺は志穂のことが大好きすぎるわけじゃなくて、志穂のことをしつける人間として然るべき態度を取ろうと気をつけてるだけだ。」

「それではみなさん、わたくしはこれで失礼いたしますわ。また明日、教室で」

「っと、また明日な、木元」

「ゆあゆあ、またね~」

「…、さて、木元が帰っちまったわけなんだが、どうしたもんだ?」

『走順、決める?』

「走順か、それは比較的簡単に決めるだろ」

「にゅ、幸久君、走る順番、もう決められるの? さっきは戦略とか駆け引きとかがあって難しいって言ってたのに?」

「まぁ、一部分は今すぐにでも決定出来るってだけで、全部が決められるわけじゃない。まぁ、他に案がないなら、ほぼこれで決まりって言うことになるかもしれないけどさ」

「一部分?」

「とりあえず、志穂はアンカーだ。バトンを次の走者に渡すっていうのは、こいつにはあまりに難しすぎる作業だからな。渡されて走ってゴールするだけでいいアンカー以外は考えられない」

「ほぇ、あたしアンカー?」

「なんだ、不服か? 俺としては、お前がバトンゾーンに特攻して何人か轢殺するのを防止するっていう意味合いもあるんだけど?」

「アンカーって、なにすればいいの?」

「…、走ればいいと思うよ?」

「そっかぁ、はしるのなら、できる~」

「そうか、できるか、頼んだぞ。それで、必然的に三番手は志穂にバトンを渡さないといけないわけだから、そこは俺だ。志穂にとってはバトンを受け取るっていうのもなかなか難しいからな、きっと月並みな方法は取れない。ということはきっと何らか危険が伴い、俺がやるしかない。あとは木元とメイのどっちがスターターかだけど、これは単純に平の短距離走が速い方だ。スタートはよーいドンなんだから、速いに越したことはない」

『それじゃ、あたし→木元さん→幸久くん→しほちゃんの順番?』

「そうだな、今のところそれが有力じゃないか? もちろんこれで決まりってことはないんだけどさ」

「あたしは、いいと思うなぁ。幸久君の言ってることで間違ってそうなことはないし」

『いいと思う。木元さんには渡されるよりも渡す方がやりやすそうだし』

「にゃ~、よくわかんない~」

「そうか、それじゃその走順で話を進めていいだろ。木元には明日また言っておくわ。そんじゃ、今日のところはこれで解散ってことで」

「それじゃぁ、着替えてこないとだね。幸久君は、この後はまっすぐに帰るの?」

「いや、俺はちょっと行くところがあってな。悪いけど霧子、今日は一人で帰ってくれ。悪いな、本当に大事な用事なんだ」

「にゅぅ、そっかぁ…、ねぇ、それってあたしはついていっちゃダメな用事?」

「あぁ、ついてきちゃダメだ。とってもプライベートな用事だからな、先方に迷惑かけることにもなりかねないんだ」

「それなら、にゅん、今日は一人で帰るね?」

「明日はまたいっしょに帰ってやるから、そんなさみしそうな顔すんな。志穂とメイも、気をつけて帰れよ」

『うん、そうする』

「は~い、あたし、きをつけるよ~」

「よし、いい返事だ。それじゃ、また明日な!」

よし、これで今日の学校での用事は終わりだ。時間は、もうじき四時になるか。晴子さんとの約束も四時くらいだし、時間ちょうどに着くっていうのはちょっと難しいか?

いや、それであっても、全力を尽くして可能な限り早く着くことが出来るようにするのが弟子たる俺の使命にして宿命、つまりは義務なのである。パッパと着替えてダッシュで向かわなくては! 晴子さんの待つサザンクロスへと!

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