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Prism Hearts  作者: 霧原真
第十五章
180/222

脚を縛ってみたものの

「それで、二人三脚ってどうやって練習したらいいんだ? 昨日も行ったかもしれないけど、俺は未だかつて二人三脚の練習っていうのをしたことがないんだが」

そして俺の右足と幸村の左足をたすきみたいなものでしっかりと結びつけ、それからすっくと立ち上がり肩を組んでみてから、俺たちは一つの問題にぶち当たった。いや、ぶち当たったというのは正しくない。その問題と対面することになるというのは、実のところ昨日の段階から分かっていたことなのだから。

「奇遇ですね、三木君。昨日も言ったかもしれないんですが、実はわたしも二人三脚の練習っていうものをしたことがないんです。それもこれも、今まで運動会ですとか体育祭ですとかで、二人三脚に参加したことがないからなんですけれども」

そう、朝に集まって張り切って練習をしようなんて言って、実際にそうしてみたわけなのだが、如何せん俺と幸村は二人三脚というものについて決定的に無知だった。そもそも、仮に練習するとして、どうやって練習したらいいかがさっぱり分からないのだ。というか、完全に今さらなのだが、二人三脚って練習でなんとかなる要素とかあるのか?

「確か、そんなことを言ってた記憶がある。そうか、幸村も分からないのか…、こんな時間に集まったっていうのに、練習法が分からないなんて困ったな」

「知っていそうな人に聞いてみるっていうのが一番だとは思うんですが、でも時間が時間ですからね。体育の先生もまだいないんじゃないですか?」

「まぁ、まだ七時前だからなぁ。あっ、姐さんに聞いてみるのはどうだ? 姐さんは大抵のことは知ってるし、きっと二人三脚の練習についてもなんか知ってるんじゃね?」

「の、紀子さんの朝の修練の邪魔をするのは、よくないですよ、三木君。せっかく集中しているところなんですから、水を差すようなことはしない方がいいです、やっぱり」

「そうか? 別にちょっと聞きに行くだけだし、邪魔するってことにはならないと思うけど」

「いえ、きっと紀子さんのことですから、ちゃんと出来ているか心配だと言って校庭までついてきてしまいますし、付きっきりで練習のコーチをし始めちゃいます。そうしたら、もう朝の修練どころではなくなってしまいますよ、きっと」

「あ~…、そう言われると、確かにそうかも。それだったら、姐さんには聞くべきじゃないっぽいな……。となると、もう自分たちで考えるか?」

「それしか、ないですね。だいじょうぶ、二人ならきっといいアイデアが出るはずです」

「まぁ、練習初日だからな、いろいろ試行錯誤していく段階だろ、まだ。そうとなったら、頭絞っていろいろ考えてみるとすっか」

「それがいいです、えぇ、そうするのがいいんです。…、せっかく二人きりになれたんですし…、初日からさっそく誰かが邪魔に入るなんてごめんですよ……」

「しかし、こうして誰かと足を縛るなんて初めてのことだけど、意外と密着体勢なんだな、二人三脚って。小学生とかのときなら別に気にならないかもしれないけど、高校生にもなって男女ペアでやるようなもんじゃねぇよな。幸村もそう思わないか?」

「ぃ、いえ、あの、別にこれはこれで、そうおかしな状況でもないんじゃないでしょうか?」

「そうか? ぶっちゃけた話、幸村だってそんなにうれしくはないだろ。むさい男とこうも密着するなんて、出来ることならご免こうむるって感じだよなぁ」

「わたしは、そこまでイヤということはありませんけど…、三木君はやっぱりイヤですか? あたしみたいな面白味のないのと密着姿勢っていうのは、やっぱり」

「いや、そんなことはないけどな。俺は別に女の子と密着姿勢になることに嫌悪感を示すようなタイプじゃない、っていうかむしろかわいい女の子とこういう状況なのはけっこううれしい感じだから、ぶっちゃけうれしい。まぁ、うちのクラスはかなりかわいいどころが揃ってるから、誰と組むとなっても損はないんだけどさ。あっ、これは姐さんと霧子にはないしょな」

「紀子さんに言わないでっていうのははなんとなく分かりますけど、霧子さんにもないしょ、なんですか?」

「そうそう、実は霧子もあぁ見えて嫉妬深いところがあってな、おにいちゃんを他の女に取られたみたいに思うことがあったりなかったり。まぁ、嫉妬っていうか、単に不安になるだけなんだろうけどな」

「へぇ、意外です。霧子さんって、そういうことは絶対言わないイメージだったんですけど……」

「もしかして、失望?」

「いえ、失望なんてしませんよ。ただ、少し新発見な気分です。学校では、あまりそういう素振りは見せないので」

「霧子は、学校ではかなりがんばってしっかり者の皮をかぶろうとしてるんだけど、実は基本的なところでダメっ娘なんだよ。それに、かなりおねえちゃんっ娘だしおにいちゃんっ娘だし、なんつぅか、生粋の甘えん坊で根っからの妹体質なんだろうな。まぁ、新学年始まってから二ヶ月も経ってるし、みんな気づいてることだと思うけど」

「だから、今みたいな話を聞かせちゃうと三木君が自分以外に目移りしていると思って心配になっちゃうってことですか?」

「平たく言うと、そうなんだろうな。最近はそこまでじゃないけど、昔はすごかったんだぜ。ずっと俺にべったりだったのはさ、きっと俺に他のやつが近づかないようにするためなんだったんだよ。事実、小学生の頃とか、俺の友だちはみんな霧子に遠慮している感じだったしさ」

「あぁ…、たしかに、霧子さん、小学生のころとかは本当に三木君にべったりでしたからね。でもそれは、三木君にも原因があると思いますよ、やっぱり」

「俺にも原因が? えっ、どういう?」

「たとえば、ですね…、霧子さんって、昔からかわいいじゃないですか、ものすごく。それこそ、同性の目から見てもかわいいなって素直に思うくらい。そういう子って、やっぱり目につくんですよ、どうしても」

「あぁ、それは分かる。霧子って、やけに目立つんだよな、昔から。今は背も無駄に高いからよけいだけどさ。だから小学生の頃とかけっこう苛められてたりしてさ、大変だったんだぜ。今となっては、霧子のことが気になってるけど、ちょっかいを出していじめるっていうことでしかそれを表現することが出来なかったて分かるんだけど、その頃はそれが分からなくてなぁ……」

「だから三木君、いつも霧子さんのボディーガードみたいになってましたもの。そうやってどんなときでも絶対に護ってくれる相手って、女の子としてはうれしいものなんですよ。それってつまり、自分のことをいつでも一番に思ってくれるってことなんですから。ナイト様とお姫様、三木君と霧子さんにぴったりじゃないですか」

「幸村、けっこう恥ずかしいことを平気で言うな。別にいいんだけど」

「でも、そういうところ、みんなけっこううらやましかったんですよ。ほら、三木君ってかっこいいですし、勉強もスポーツも出来たじゃないですか。だからなんていうか、こう、みんなのあこがれみたいな、そういう感じで」

「かっこよくてスポーツ万能、頭脳明晰なみんなの憧れは、俺じゃなくて広太だろ。その証拠にあいつ、なんかかなり頻繁に女子から告白されてたっぽいぜ。むかつくよな、俺を差し置いてそんなんなんだぜ」

「あぁ、庄司君は、本当になんでも出来ましたからね。でも、三木君だってみんなに人気があったんですよ?」

「俺が人気? 女子からの人気ってこと? はぁん…、そのわりには、告白とかされたことないけど?」

「告白されないのは、霧子さんがいつもいっしょにいたからですよ。三木君が護ってくれるお姫様は霧子さんだけだって、みんな分かってたんです。それに、霧子さんと比べられちゃうって思うと、すっごく勇気がいるんですよ」

「まじ? ってことは俺が女の子から告白されることがなかったのって、霧子のせいなの? 俺の何かが根本的にいけないとかでなく?」

「霧子さんも、けっこうあの頃は依存欲が目に見えるように出てましたから、みんな腰が引けてましたよ。まぁ、今はそこまでじゃないように思えますけどね。…、でも今は、もう独占欲のところまでいっちゃってるんですねぇ……」

「う~ん、それは、霧子も大人になって自分の感情を抑えるすべを学んだってことなんじゃないか? 負のオーラを封じ込める結界みたいなのをさ」

「そういうことではなくてですね、今は三木君に他の方が近づいても何もないということです。その証拠に、紀子さんも志穂さんも去年からずっとお友だちですし、今年に入ってから芽依さんともいっしょにいるようになってるじゃないですか」

「…、そう言われると、そうかもしれないな。霧子は昔から友だち少なかったけど、そういえば女子の友だちは本当にいなかったんだよ。どいつも俺とのつながりで男子の友だちばっかりで。女子の友だちが少なかったのは、もしかして俺に女子が近づかないようにするために警戒してやってたとか?」

「そこまで露骨なものかどうかは、分からないですけど。でも、三木君が言うように霧子さんが嫉妬とかしてしまうタイプなら、そうじゃないと言いきることも出来ませんよね」

「なるほど、確かにその通りだ。でもさ、普通は年を重ねるごとに他人への依存って弱まるものじゃねぇの? おにいちゃんへの依存とか、少しずつウザがる感じに変わっていくものだと思うんだけど?」

「そう、ですね。普通はそういうものだと思います。わたしも、昔は兄たちがかわいがってくれるのはそれなりにうれしかったですけど、今はもう、かなりウザいです」

「…、仮にそうだとしても、お兄さんにはそれを言わないでおいてやってくれな。幸村は賢い子だから、それがどういう意味か分かると思うけど」

「えぇ、大丈夫ですよ。兄たちがそれなりに満足するようにかわいがられてあげることが、妹としてのそれなりの義務のようなものだと思っていますから」

「それなら、いいんだけどな。うん、おにいちゃんっていうのは、妹が思ってる以上に妹のことを大事に思ってるんだからな。…、それでな、妹のおにいちゃんへの依存っていうのは、年々弱まるものだと思うんだけど、霧子のそれはどうなってるの、ってことが俺は聞きたいんだよ」

「霧子さんのことですか?」

「そう、霧子は、いつまでも俺に依存してると思うんだよ。いや、別におにいちゃんとしてはそれがうれしいし、いつまでもそうしてほしいと思うんだけどな。でもさ、おにいちゃんへの依存から脱するっていうのは、一つの成長だとも思うんだよ。霧子にいつまでも依存してほしいのは確かなんだけど、でも同時におにいちゃんとしては妹に一人立ちしてほしいとも思うんだ。これって複雑な兄心だと思うんだけど、分かってくれるか、幸村」

「う~ん、分かりはしますけどねぇ……。でも、霧子さんはお兄さんだからっていうだけで三木君に甘えているわけではないと思うんですけど……」

「? それは、どういう意味だ? 霧子が俺に甘えて依存してくるのに、妹以外の理由があるのか?」

「…、わたしは、ですね、詳しいことは分からないですね、やっぱり、はい。なんといいますか、霧子さんのことは霧子さんにしか分からないと思います」

「やっぱそうかぁ…、分からないよなぁ、霧子以外には。うん、まぁ、別にいいんだ、俺としては。霧子が俺に依存してるっていうのは、俺としてもイヤなことじゃないし、別にいいんだよな」

「それならそれで、いいんじゃないですかね。せっかく二人とも自覚がないんですし、分からなくても問題ありませんって。ほら、霧子さんにとっても三木君にとっても、今の認識状態で大事ないわけなんですから」

「うん、やっぱりそうだよな。さて、それじゃあ朝練で何するか考えようぜ」

「えぇ、そうしましょう」

「…、あっ、最後に一つだけ、いいか?」

「はい、いくつでもいいですけど?」

「一つだけ、な。朝練するんだから。もしかしてさ、幸村の家ってさ、このあたりだったりするか? というか、この辺の学区域だったりするか?」

「学区域的には、このあたりです。岸川三中の学区域ですし、この高校が一番近い高校ですよ」

「おぉ、幸村、三中だったのか。知らなかったなぁ……」

「三木君も三中ですよね、知ってますよ。三木君はとっても有名でしたからね」

「小学校は?」

「岸川小学校です」

「うぉわ、小学校までいっしょだ! なんだこれ、全然知らなかった!!」

「小学校のときも三木君は有名でしたからね、知ってましたよ。わたしのことは、覚えてなかった、ですよね?」

「あ~、そうだな、覚えてなかったっていうか、どこかで接点があったかどうかが思い出せない。悪いな、幸村…、あの頃の俺の人間関係は、ごく一部を除いてかなり浅く広くだったんだ……」

「いえ、あの、いいんですよ、三木君。気にしないでください、わたしのことなんて。知っているって言っても、三木君は一般的に有名だったんですから、当然です」

「ほんとにごめんな、幸村……」

「いえ、もう、そんな…、ほ、ほら! 二人三脚しましょう!」

「あぁ…、でもきっと思い出すからな……!」

「だ、だから、そんな、印象的なイベントとかはなかったんですってば!」

どうやら幸村と小学校から今までずっと同じ学校に通っていたらしいということが判明したわけなのだが、しかしながら俺はその事実を認識していなかったというか、そもそも幸村のことをまったく覚えていなかった。

もちろん、同じ学校に通っていたからといって相手のことを絶対に知っているわけではないと思う。だが、幸村は俺のことをそれなり以上に認識していたらしいのだ。これはもう、幸村もあぁ言っているものの、なんらかあったに違いないのである。

とりあえず思いだすために、霧子にでも話を聞いてみるのがいいのではないだろうか。そうだ、今朝も起こしに行くわけだし、ついでに霧子に聞いて、…、あれ?

俺は、今日、もう学校にいるわけなのだが、霧子のことをどうするつもりなんだ?

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