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Prism Hearts  作者: 霧原真
第十四章
173/222

兄貴と姐御と舎弟と先生

「兄貴にまたお会いすることが出来て、俺、超感激です!!」

瀬戸悠平。高校一年生15歳。特徴、頑強。

中学の頃は無数にいた舎弟の中で、こいつは広太の次の次の次くらいにかわいがっていた男だった。そもそもは俺の首を狙って隣の町からうちの中学校に越境入学してきたくらいに俺を目の敵にしていたはずなのだが、一度完膚なきまでにボコッてやったら意外とあっさり掌を返して俺に尻尾を振った過去がある。

最初は寝首をかくつもりなのかと思っていたが、いつからか俺に心酔したとかわけのわからんことをのたまい始めてしまった可哀そうな男だ。まぁ、下級生に慕われるのは悪い気はしないわけで、中学のころはかなり下級生の中でも特に目にかけてかわいがってやったりした。やはり面倒なやつほどかわいいものなのだ。

「一年半ぶりだな、悠平。俺がいなくても、学校はしっかり締めてたか? ふざけた奴に調子乗らせたりしなかったか?」

俺の中学時代は、基本的に荒れてはいなかった。悪い友だちがいて学校を締めていて喧嘩上等ではあったが、決して荒れていたわけではない。学校には真面目に通っていたし、授業には毎回しっかり出席していたし、学校行事にもきっちり参加していたりと、どちらかというと模範的な学生として学校生活を送っていたといって過言ではないだろう。

そしてそのような生活を、当然自分の下についてくる舎弟たちにもやらせていたわけだから、うちの中学校にはいわゆる模範的な不良といわれるような学生は一人たりともいなかったと言っていい。表面上はしごく規律立った、問題などどこにもないような中学校だったわけであり、校内風紀のモデル校に選ばれそうだったとかなんとか聞いたことがある。

「当然ッス! 兄貴がいなくなっても、兄貴のソウルは俺たちが継いでるッスから、一年生の調子乗ってるのは、春先できっちりケジメつけさせてるッス!」

まぁ、俺の中学時代はどうでもいいのだ。とりあえずこいつは俺の元舎弟で、言ってしまえば犬みたいなもんなのである。

しかし、俺は中学校を卒業すると同時に霧子のお願いによって不良のリーダーを辞めた。卒業生の女子たち以上に号泣する舎弟たちには、きっちりと別れを告げてきたわけで、もし俺に会いたくなったら不良を卒業してからにしろという最後の命令もしてきているのだ。ということは、こいつもう不良活動してないのか?

「悠平、お前、不良やめたのか?」

「うス、やめたッス。っていうか、俺バカなんで、兄貴と同じガッコいこうと思ったら不良やってる場合じゃなかったッス。去年は一年間、マジ超勉強漬けの日々でしたッス」

「そうだよな、お前、バカだったのにな、よく今ここにいるよな。信じられねぇけど、まぁ、でもお前ここにいるし、勉強すげぇがんばったんだろうな」

「また兄貴の舎弟するためには、こうするしかなかったッス。他のやつらは、やっぱバカなんでここには入れなかったッスけど、あいつらの心はもらってきたッス。安心してください、まだ兄貴の指パッチンで百人は動くッス。連絡網も、きっちり更新されてるッスから」

「小学校じゃねぇんだから、連絡網でつながるなよ」

「だいじょぶッス、兄貴には、ご迷惑かからんようにやってるッスから」

「まぁ、勝手にしてくれ」

「ッス、勝手にするッス! それにしても、兄貴、もう丸二年くらい喧嘩してないはずなのに、さびつかないッスね、さすがッス!」

「お前も、不良やめたのに頑丈だな、相変わらず」

「そんなことねぇッス! 兄貴のローリングソバットきっちり顎先にいただいて、脳ゆさぶられて膝がくがくッスから!」

「ウソつけよ」

「ウソじゃねぇッス。兄貴のダイナマイトパチキ喰らったあとにソバットもらってたら、間違いなく死んでたッス。さすが兄貴、一発一発に死の気配漂うッス!」

「あぁ、パチキか、ソバットの前はパチキだったなぁ、忘れてたわ」

「ダイナマイトパチキ、ローリングソバット、スピンキック、シャイニング・ウィザードの兄貴四連コンボで九割くらいの相手は半死半生ッス」

「あ~、やってたなぁ、そんなこと。思い出すと意外と恥ずかしいし、シャイニング・ウィザードで顔面に膝突きさすとズボン汚れるんだよなぁ。バカだな、中学の頃の俺、洗濯の手間考えろよ」

「そんなことねぇッス、かっけぇッス! それにしてもこの学校、兄貴が締めてねぇのにしっかりしてて感動ッス。兄貴がこの学校選んだの、分かる気がするッス」

「いや、別に俺がこの学校選んだのはお前が思ってるような理由じゃないと思うけどな」

「…、三木、少し、聞いてもいいか?」

「んぁ? あぁ、ごめん、姐さん、話し込んじまった」

「いや、それはいいのだ。旧友と再会したのならば、積もる話もあるだろうからな」

「姐さんにも紹介するよ、こいつ、瀬戸悠平、俺の元舎弟で、バカだ」

「うス、瀬戸悠平ッス! 兄貴の二番目の舎弟ッス! 尊敬する人は兄貴、好きな人は兄貴、好きな食べ物は兄貴のつくってくれたたまご焼き、好きな音はひそかに録音した兄貴の叱咤激励音源ッス!」

「そ、そうか、よろしく頼む。私は風間紀子、二年で三木とは去年から同じクラスだ」

「風間紀子、先輩、お名前知ってるッス。風紀委員のすげぇ人ッスね。お会いできて光栄ッス。っていうか、ぶっちゃけると中学のときから知ってるッス。岸川三中の風間紀子は有名ッスから、ご高名うかがってるッス」

「君は、三木と同じ中学校の出身だということだが」

「うス、片瀬中からきたッス!」

「そうか、片瀬中は去年大変だったそうだが、大丈夫だったか?」

「うス、問題ないッス。兄貴の威光に傷つけるわけにはいかねぇんで、みんな必死でがんばってたッス。そんで夏前には治まったッス」

「そうだったか、それはよかった」

「悠平、なにその話?」

「あぁ、えっと…、兄貴が卒業なさったんで、片瀬はちょろいと思われたみてぇでして、春先から周りの中学に総攻撃かけられたりしたんス。でもご心配なく、中学のことは中学の中できっちり片付けたッス」

「そうだったのか…、大変だったな、悠平」

「問題ないッス! すっげぇ人が卒業しちまうと、どうしても起こっちまうことッスから!」

「まぁ、無事ならそれでいいんだけどな。それよりお前、なんで家政部なんて入ってんだよ。いや、入ること自体はお前の好きにすることだから鎌わねぇんだけど、お前料理とか興味なかっただろ」

「料理には興味なかったッスけど、兄貴の生きざまには超興味あったッス。兄貴のやってることを真似してれば、きっと兄貴みてぇなすっげぇ男になれると思って、まずは基本が大事と思って入部させてもらったッス」

「俺みたいになっても、別にいいことないと思うけどなぁ……」

「兄貴みたいな立派な漢になるのが、俺の目標ッス! この学校にきたのも、また兄貴の舎弟になることもあるッスけど、兄貴の背中を追いたかったっていうのが、ぶっちゃけでっけぇッス」

「うん、まぁ、お前の選択に俺は口を出す気はない。それで、料理はどうだ。今もまだ興味ないか?」

「そんなことないッス、最近、なんか料理も面白いッス。自分の手でうまいもんが出来ると、意外とうれしいッス」

「おぉ、そうか、それならいいんだけどな。ゆり先生、こいつ、迷惑かけてませんか?」

「迷惑はかかってないですよ~。瀬戸ちゃんは毎回きちんと参加してくれるいい子ちゃんですから~、先生的にもやる気のある子は大歓迎です~。それとですね~、瀬戸ちゃんが入部にきたときのことなのですけど~」

「先生! それは兄貴にはいわねぇ約束ッス!」

「? そうでしたか~」

「そうッス! それに、俺はまだまだなんで、まだぜんぜんまだまだッス!」

「そうですね~、瀬戸ちゃんはまだまだなので~、もう少し修行が必要ですかね~」

「うス! ご指導、よろしくお願いするッス!」

「あっ、おい、悠平、戻る前にそこに座れ」

「? ッス、座るッス。先生、兄貴の御言葉があるので、調理台に戻るのは少しだけ待ってほしいッス」

「もぅ、仕方ないですねぇ~、今日だけですよ~」

「ゆり先生、すいません、とっても重要なことなんです。お願いします」

「三木ちゃんに免じて~、許します~」

「ありがとうございます、先生。それじゃあな、悠平、お前には一つ、どうしても聞いておかないといけねぇことがある。事と次第によっては、如何にかつての舎弟であったとしてもそれ相応の対処をしなくちゃならないかもしれないから、心して俺の質問に答えろ」

「うス、ご指導お願いします、兄貴!」

「悠平、お前、今まで霧子のこと、知ってるか?」

「霧子って、霧子姐さんのことッスか? もちろん知ってるッス! 兄貴の一番大事な人ッスから、俺の中でも兄貴と家族の次に大事ッス!」

「あぁ、そうか、知ってはいるのか。…、まぁ、当然か、霧子は中学のときも四六時中俺といっしょにいたからな」

「うス、やっぱりいい女はいい漢に寄ってくるものなんスね。霧子姐さん、美人だし、兄貴と超お似合いッス。っていうか、霧子姐さんは舎弟連中みんなの憧れみたいなもんッスから、兄貴の下についてるので知らないやつはいねぇッス」

「霧子の知らないところで霧子が有名になっちまってるな。あいつも大変だな、いろいろ……」

「でも安心してくださいッス。霧子姐さんに手ぇ出したら兄貴に殺されるって全員分かってるッスから、自分らは絶対手ぇ出したりしないッス。兄貴のために死ぬのは本望ッスけど、兄貴を怒らせて死ぬのは恥ッス」

「ってことは、お前、霧子に手を出してはいないんだな、絶対だな」

「もちろんッス! あっ、でも前に校内で霧子姐さんが困ってるのをお見かけしたんで、お助けしたことはあるッス。そのときに、勇気を出してメル友にしていただいたッス!」

「だからお前、霧子のメアド知ってたんだな。もぅ、どこの馬の骨が霧子に手ぇ出したのか不安になっただろ。でもそうか、そういうことならそこまで心配ないな」

「うス! むしろ自分は、兄貴とメル友になりたいッス! 霧子姐さんにメアド聞いたのも、ぶっちゃけそのためッス!」

「お前、ほんとに俺のこと好きだな、軽く引くわ」

「光栄ッス!」

「別にそれは光栄じゃねぇだろ。…、悠平、もしもな、霧子と俺の両方から告白されたとして、お前はどっちと」

「兄貴ッス!!」

「即答されても困る!? 俺は、もしかしたらこいつ悩むくらいはするかも、くらいの考えで聞いたのに、斜め上を行くなよ」

「あっ、でも、兄貴とは恋人よりも、舎弟でいたいッス……」

「安心しろ、俺は男を恋人にしない」

「安心したッス!」

「ところで悠平、お前、どうして霧子のことを霧子ちゃんと呼んでいる」

「急に姐さんとお呼びしたら、きっとびっくりなさると思ったので、失礼を承知で霧子ちゃんとお呼びしたッス。もし兄貴のお気に触ったのなら、変えさせてもらうッス」

「いや、霧子はお前のことが比較的気に入ってるみたいだからな、今まで通りに程良く友人でいろ」

「うス、了解ッス、兄貴」

「三木ちゃん、お話は終わったですか~? 終わったようですね~。それでは、瀬戸ちゃん~、自分の調理台に、大急ぎで戻るですよ~」

「うス、了解ッス! それじゃあ兄貴! お帰りのときは、オトモするんで、ぜひ一声かけてください! 飛んでいくッス!」

「いや、部活しろよ」

「分かりました! 部活します!」

そして悠平は、俺に深々と最敬礼をとると、大急ぎで自分の調理台へとすっ飛んで行くのだった。今まで俺に何の連絡もしてこなかったからにはきっと元気に不良をしてるもんだと思っていたが、まさかあいつこの学校で一般人に戻っていたとはな。

っていうか、あいつのことだから同じ高校に入れたんなら喜び勇んで即日報告に来ると思っていたが、どういう心境の変化だろうか。…、まぁ、あいつにも何か思うところがあったんだろう、言いたきゃ言うだろうし深くは考えないようにしよう。

「…、うるさくてごめんな、姐さん」

「いや、元気があっていいではないか。覇気もあるしやる気もある、礼儀正しくきびきびと動く。いい後輩がいるようだな、お前には」

「あ~、まぁ、そうだな、元気は有り余ってるだろうな、きっと」

「いい人間関係は、須らくいい人間をつくるものだ。三木の人間としての基礎には、ああいうものとの関係が、きっとあるのだろうな」

「俺の一番根っこの部分は、霧子との人間関係だぜ、姐さん」

「あぁ、そうか、だから三木には兄貴分としてのあり方が染みついているのだろうな。だからこそ、下につく者も出てくるのだろう」

「確かに、俺って基本はおにいちゃんだよな」

「ゎ、私は、妹という柄ではないがな」

「え~、別に姐さんが妹でもかわいいと思うけど」

「ば、馬鹿者! そういうことは、思ったとしても口にするんじゃない! 恥ずかしいだろう……」

姐さんはボッと顔を真っ赤に染めると、俺のこめかみに向かって殺人的な角度で物凄い速度の右ストレートを繰り出し、俺はそれを首を振って回避する。そうやっててれ隠しとかしちゃうところが、俺はかわいいと思うのだが。

だからこそ、姐さんがやめろということもやりたくなってしまうのである。つまり俺は、姐さんのことが大好きなんだと思う。いや、もちろん一番大好きなのは霧子と晴子さんなんだけど。

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