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Prism Hearts  作者: 霧原真
第十三章
164/222

素面の酒飲みとマンガ家

「ところで都ちん、話は変わるんだけどね、この紙袋を観てください」

「? あぁ、そういえばそれ、やよちゃん、最初から持ってたわね。どうしたのよ、近所の本屋さんの紙袋なんて持ってきて。なにか面白い本でも買ってきたのかしら?」

「うん、けっこうおもしろいものが売ってたんだよねぇ。だからこう、ついうっかり買っちゃったのだ」

「やよちゃんの面白いものって…、エロ本?」

「都ちん、この大きさの紙袋には雑誌は入らないよ」

「いや、エロマンガの単行本だったら普通に入るじゃない。大きさ的には、だいたいそれくらいよ」

「へぇ、そうなんだ。おねえさん、エッチなマンガはあんまり読まないから知らなかったよ。おねえさんは基本的にリアル派だから。っていうか、都ちんはマンガの方がいいってことなんだね。やっぱりマンガ好きはエッチなのもマンガがいいんだね」

「ちょっと待って、やよちゃん、そういう話にあたしを巻きこもうとしないでちょうだい。あたしはただ一般的で常識的な知識としてエッチなマンガのサイズがそれくらいだっていうことを示しただけで、それ以上の意図をもって発言したつもりはないわ。困るのよ、そういう男子中学生がするような会話にあたしを巻きこまないで」

「え~、そうなの? 猥談しようよ、都ちん。女同士なんだから恥ずかしくないもん」

「あたしとやよちゃんは確かに女同士かもしれないけど、でもこの空間には庄司くんも三木くんもいるじゃない。エロを糧に生きてるやよちゃんと違ってあたしは猥談なんてそもそもしたくないんだから、なおさらお断りだわ」

「なんだよ~、お酒飲んだらエロの権化のくせに~。このむっつり都ちんめ~」

「お酒飲んでるときの話はしないでっていってるでしょ! 前後不覚なんだから自分の発言に責任持てないわ!」

「いや、まぁ、別に都ちん、お酒飲んでも猥談しないけどね」

「あっ、そうなの? それならいいんだけど。…、そんなことより、やよちゃん、早く話を進めましょうよ。その本屋さんの紙袋の中身がどうかしたの? いったい何が面白いっていうの?」

「うん? あぁ、この紙袋の話? あ~、うん、まぁ、面白いっていえば面白いけど…、都ちんの猥談の方が面白いかなぁ……。うん、やっぱり都ちんの猥談の方が面白いよ、間違いない」

「いや、あたしは猥談なんてしないっていってるじゃない。どうしてやよちゃん、そんなにあたしに猥談させようとするのよ」

「なんでって、そりゃあたしが猥談好きだからに決まってるじゃない。自分でこんな持ってきといてなんだけど、でもあたしは猥談の方が好きなんだよ」

「やよちゃんが猥談好きなのは知ってるわよ」

「うん、知られてるの知ってる。ところで話は戻るけど、ここに楽しい紙袋があってね」

「…、やよちゃん、その紙袋の話がしたいなら、素直にその紙袋の話だけをしてくれてかまわないのよ? 別にどうしても間に猥談挟まないといけないルールなんてないんだから、ストレートに取り上げたい話題を出してくれていいんだからね?」

「う~ん、でもやっぱり、あたしのキャラ的にそういうあたりはなぞっといた方がいいかと思ってね」

「別にそんなこと気にしないでもいいじゃない。それに、あたしはやよちゃんのこと猥談キャラだとは思ってないわ。むしろ分かりやすい酒飲みキャラよ」

「あっ、じゃあ話のつなぎ目で一口ずつお酒飲んだ方がいいかな? その方がいい?」

「やよちゃん、あなたいつからそんな細かいことを気にする娘になっちゃったのよ。キャラとかどうでもいいじゃない、そんなこと気にしながら生きてたら窮屈でしょうがないわ。それに、話の節目ごとにキャラに沿った何かをしないといけないなんて決まりごとはないんだから、やよちゃんはいつもどおりにしてればいいの。というか、そしたらあたしは何キャラで、話の節目ごとに何をすればいいのよ」

「ん~、都ちんは発狂係だから、節目ごとに叫び声をあげればいいと思うよ」

「いやよ、そんなの。どこからどうみても、どこに出しても恥ずかしくない狂人じゃない。あたしは絶対にそんなことしないわよ、絶対にね」

「それは、『絶対に押すなよ』的な……」

「フリじゃないわよ、やよちゃん」

「うん、分かってるよ。でね、この紙袋なんだけどさ」

「あぁ、ごめんなさい、せっかくやよちゃんが本筋に話を戻して紙袋に触れようとしてたのに邪魔しちゃって。さぁ、やよちゃん、話してくれていいのよ。あたしは聞く準備万端なんだからね」

「ありがと、都ちん。さぁ、それじゃあ、問題です! この紙袋の中には何が入ってるでしょう! ヒントは、面白いものです!」

「う~ん…、やよちゃんのおもしろいもの……? あたしの推理が正しければ…、エロ本……?」

「都ちん、落ち着いて、話がループしてるよ。エロ本じゃないです」

「エロ本じゃないとすると…、ダメだわ、もうお手上げよ。やよちゃんが近所の本屋さんで買ってくる、やよちゃんにとって楽しいもので、エロ本以外のものって言われても、全然分からないもの」

「そっか…、都ちんは、あたしのことを混じりッ気なしの純然たるエロキャラだと認識してるってことだね。そこまではっきり言われると、いっそすがすがしいよ」

「せめてもう少しヒントをくれるか、もう答えを教えてちょうだい。今のままじゃ絶対に答えにはたどりつけないもの」

「も~、しょうがないなぁ……。えっと、じゃあヒントね。この袋の中身は、マンガです」

「分かったわ! エロマンガね!」

「都ちんは、どうしても話をループさせたいんだね。でもあたし、天丼はやっても一回の話で一度までだと思うんだ。都ちんは、かなり天丼好きってことかぁ」

「天丼よりも、むしろ親子丼の方が好きよ?」

「そうなんだ…、親子丼の方が好きって、都ちんはエロいなぁ」

「えっ? 親子丼ってエロいの? まぁ、たしかにたまごとじが半熟だとドロドロで若干エロくないとも言えないうかもしれないけど…、そんなに?」

「とりあえず、袋の中身はエロマンガじゃないよ。おまけでヒントもう一つ出すと、このマンガは都ちんにもかなり身近なマンガです」

「あたしに身近ってことは、あたしの好きな作家さんってこと? でも、あたしの好きな作家さんの中でやよちゃんも好きそうってなると、あんまりいないと思うんだけど…、ほら、あたし、けっこう趣味がニッチだから」

「いやぁ、都ちんに身近だって言ったけど、でも都ちんが好きかどうかはわからないなぁ……。まぁ、たぶん好きなんじゃないかとは思ってるけど、むしろキライかもしれないし、分かんないね」

「もう、やよちゃん、そんな曖昧なヒントじゃ分かるものも分からないわよ。っていうか、せめてそれがどんなジャンルの作品かとかくらい教えてくれてもいいじゃない。あたしもそこそこマンガは読むけど、それだけじゃ分からないもの」

「あれ、都ちん、マンガ読むの? 買いに行ってるとこ全然見たことないんだけど。それとも、昔はかなり読んでたのよ的な昔取った杵柄ってやつ?」

「なに言ってるのよ、やよちゃん、あたしの部屋来たことあるでしょ。いっぱいマンガ、あったでしょ? あたしは外に買いに行かないで、気になったマンガはみんなネットで注文しちゃうから、本屋さん行かないのよ」

「あ~、うん、あったね。美少年と美少年がわっしゃいわっしょいしてるマンガがたくさん」

「待って! それはあくまでごく少数! 実際は全体の一割にも満たないものを、『たくさん』とか弁を弄してあたかも全てがそうであるかのように言わないで! というか、どうしてやよちゃんはそれを知ってるの! なんか気恥かしいから見えないところに隠したはずなのに!!」

「? 女同士なんだから、エロ本がないかどうか探りいれるのは当然だよ? まぁ、そういう本は、その過程でうっかり見つけてしまった副産物的なアレで、今では後悔してます。でも、都ちんもそういうことに興味があるお年頃ってことだよね」

「そんなフォローのされ方うれしくない! フォローするくらいなら、なにも見なかったことにしてほしかった! というか、あれはただの資料だから、別にあたしが好きってわけじゃないのよ!!」

「え~、でもページのところどころに恥ずかしい乙女の痕跡があってですね」

「あ~っ!! なんなの、やよちゃん!! いったいあたしをどうしたいっていうの!!」

「どうもしないよ、都ちん。ただあたしが言いたいのは、あたしもそういうの嫌いじゃないってことだけだよ。でも個人的にはショタ×ショタよりは、むしろどちらか片方が大人である方が好ましいよ。より一層言うなら、受けが成人男子であることが好ましいよ」

「…、まぁ、そういうのに対する需要もあるとは思うわ。でも、あたしはショタはショタと絡むべきだと思うの。少年と少年の、友情にも似た想い合いが、あるふとした瞬間に恋愛へと昇華する姿が、美だと思うのよ、あたしは」

「都ちん、資料なんてウソじゃん。そういうのガッツリ好きなんじゃん」

「…、好きよ! 好きです! ショタ好き変態腐女子です! いいじゃない、好きなんだから!」

「うん、いいと思うよ、趣味は人それぞれだからね。ところで、都ちんは、ショタとショタが絡むとき、少年の局部は大きい方がいいの? それとも少年なりに幼い方がいいの?」

「やめて、やよちゃん! こんなパブリックスペースで自分の性癖を暴露し合うなんて、イヤよ! っていうか、けっきょく下ネタに行っちゃってるじゃない! 下ネタはイヤだって言ったのに!!」

「すべての道はローマに通ず、といいますよ、都ちん。つまり、すべての話題は下ネタに通ず、と」

「そんな格言じみた言葉で誤魔化そうとしないでちょうだい、やよちゃん。もう下ネタはやめましょう。ほら、そんなことより、やよちゃんの持ってるその紙袋。紙袋の話をしましょ? 下ネタなんて非生産的極まりないわ」

「あたしはね、少年の局部は不釣り合いなくらい大きくていいと思うの。その方が受け側を征服する感じが強くなるし、受け側の戸惑いがかわいいと思うんだよ」

「やよちゃん、おっさん的なエロにしか興味がないのかと思ってたけど、でも意外と淑女的ね……、やよちゃん…、恐ろしい娘……。いや、そうじゃなくて、もう下ネタはやめましょうよ、やよちゃん」

「下ネタはしようと思ってするものじゃないよ、都ちん。下ネタはいつだって春に吹きすさぶ一陣の風のように、唐突にやってくるものなんだよ。そしてそれは嵐となっていつまででも」

「確かにやよちゃんは一年中頭が春だけど、でもだからって四六時中下ネタで会話を成立させなくたっていいじゃない!」

「え~、都ちんだって変態ショタコン腐女子のくせに、人のこと頭が春とか言えないと思うんだけど」

「そ、それは…、あ、あたしは変態かもしれないけど、でも慎み深い変態だわ! 淑女としてのあるべき姿から外れるようなことはしたりしないもの!」

「なんだよ~、あたしだってただライトな猥談してるだけだもん。こんなのジャブだよ、ジャブ」

「やよちゃんは剛腕だから、ジャブが重いのよ……」

「それは都ちんが弱すぎるんだって。っていうか、都ちんだって変態強度高いはずなのにファイティングポーズ取らないのがいけないんじゃん。戦う前から降参なんて、それこそ変態淑女の名折れだよ」

「淑女たるもの、公共の場でパンピーに迷惑をかけるものではないわ、やよちゃん。最近はそういうのも少しずつ市民権を得つつあるみたいだけど、でもやっぱり密やかにあるべきなのよ、淑女は」

「むぅ、それは一理あるけどさ……」

「だからやよちゃん、淑女としてともに淑やかにありましょうよ。ほら、やよちゃんの大好きな報道ステーションが始まったわよ」

「あっ、ほんとだ、見よっと」

「そうそう、それでいいのよ。そういう話がどうしてもしたいっていうなら、また今度余裕ができたときに付き合ってあげるから、今は大人しくしていましょう」

「ところで、弥生様」

「ん?あぁ、ひろ、今までどこにいたのさ」

「部屋の中に潜んでおりました。お二人のお話の邪魔をしてはいけないと思い、静かにしていたのです」

「ふ~ん、ぜんぜん気配しなかった。ひろはすごいなぁ……。んで、なんだい、ひろ。何か聞きたいことでもあるのかな?」

「はい、もし可能であるならば教えていただきたいのですが、けっきょく弥生様が持っていらっしゃる紙袋には、なにが入っているのでしょうか?」

「…、そうよ、忘れるところだったわ。やよちゃん、いったいその紙袋、何が入ってるのよ」

「えっ? あぁ、まぁ…、こういうのはノリと勢いで見せるから面白いんであって、今こんな空気の中で出してもそんなに面白くないと思うよ?」

「いいわよ、そんなの。それよりも、こんなに中途半端な状態でなし崩しにされるほうがいやだわ。もうつまらなくてもいいから見せてちょうだい」

「う~ん…、まぁ、別に見せるのはいいけどさ…、はい、開けていいよ、都ちん」

「それでいいのよ、それで。っていうか、最初からそうしてればさっきまでの下ネタの流れはいらなかったんじゃないかしら……。ん? あれ、これ……」

「これは、先生の新刊、ですね。確か、今日が発売日だったのではないかと記憶しています」

「そうだよ~、今日は偶然本屋さんで都ちんの新刊見つけたから買ってきてさ、せっかくだから都ちんに見せちゃおうと思ったのさ」

「…、たしかに、これは、テンション上がってるところに勢いで見せないと駄目ね、うん。主に、あたしの心が駄目ね……」

「とりあえず都ちん、サインください」

「うん、まぁ、それはいいんだけど…、あぁ、これは修正作業が行き届かなかった回が収録されている巻じゃない…、あそこのパースだけでも、なんとかして修正しとけばよかった……」

「…、よし、これで晩飯完成、か……」

「幸久様、お風呂を上がりました」

「…、んぁっ!? あぁ、かりんさん、お風呂もう出たんだ…、早かったね」

「あの、幸久様、リビングの方がだいぶにぎやかですが、どうかなさったのですか?」

「あ~…、いや、俺もよく分からないんだ。集中して料理してたから、ぜんぜん周りの音とか聞こえなくて」

「そうだったのですか、それでは、何があったか弥生さんに聞いてみることにします」

「いや、まぁ、別にろくなことじゃないと思うけどね……」

とりあえず、集中力と料理力を放出して弥生さんたちの晩飯を一気に仕上げた俺は、お風呂上りでほかほかのかりんさんからかけられた一言によって意識を取り戻したのだった。だが、意識を現実に返してはみたのだが、しかし思った以上にリビングの状況は混迷としていて、今さら入り込んでいくのはムリだと思うことに躊躇はなかった。

まぁ、話に割り込んでいくのはムリだろうから、晩飯をぶっ込んで話を一時中断させてしまうことにしよう。それくらいしか、今の俺に出来ることはないだろうからな。

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