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Prism Hearts  作者: 霧原真
第十二章
151/222

リビングで説明をば

「というわけなんです、分かってくれましたか?」

「…、にゅ、よく分かんなかったかも」

「おかあさんも、よくわからなかったわ~」

「あれ? 分からなかった?」

かりんさんとのことは俺自身いまだに消化し切れていないことだったが、しかし説明すると決めたからには全力で理解を得ることができるようにがんばろうと決めていた。しかし、事はそうそううまく運ばないというか、残念ながら俺の説明では霧子と雪美さんの理解を得ることは出来ないようだった。やっぱり、自分が完全には理解できていないことを他人に説明するというのは、とても難しいことなのだと思う。

だがしかし、だからといって『ムリでした』と諦めてしまうわけにもいかないわけであり、俺はもう一度の説明責任を有しているのだ。いや、もう一度などと言わず、霧子と雪美さんが分かってくれるまでは何度でも説明しなくてはならないだろう。まぁ、これも俺に課せられた業の振り戻しだと思うことにしよう。因果応報、全てはつながっているのだ、ということにする。

「とりあえず、幸久君が今、二見さんと広太君と、三人でいっしょに住んでるってことは分かったよ」

「あぁ、それしか分からなかったか」

「幸久様、今の説明では細かい説明を省きすぎてしまっていて、まったく伝わらないのではないかと存じます」

「よ、よし、じゃあ、もう一回な。もう一回説明するから、よく聞くんだぞ、霧子」

「にゅん、がんばるよ」

「だからな、まず、かりんさんは三枝さんじゃないんだよ。かりんさんは二見かりんで、三枝弓子じゃないの。分かる?」

「えと、それは、なんとなく。でもどうしてそんなことしてたの? それが分からないんだけど」

「…、それは、俺もよく分からん」

「あの、それはですね、あの旅館の従業員の方々に私が二見の家の人間であるという先入観を持っていただきたくなかったのです。あくまでも一人の普通の家の人間として働かせていただくことになっていたのです。それでなくては社会勉強にならない、とおじい様がおっしゃいましたので」

「ということだそうだ、分かったかね、霧子君」

「にゅん、分かったよ」

「よし、先に進むぞ。それでだな、二見の家っていうのは、霧子も聞いたことくらいはあると思うけど、フタミグループの二見さんなんだってよ。つまり、大金持ちの二見さん家のかりんさんなんだ」

「えと、そんなお金持ちの家の人が、どうしてわざわざあの旅館で働いてたの?」

「それは、あれだよ、社会勉強だよ。霧子だって中学生のときに職業体験やっただろ、あれみたいなもんだよ」

「そう、なの……?」

「ねぇねぇ、おかあさんも、一つ聞いてい~ぃ?」

「なんですか、雪美さん、何でも答えますよ」

「かりんちゃんゎ、おいくつ?」

「は、二十歳です、雪美様」

「はたちってことは…、晴子ちゃんよりも一つ下なのね~。そうなのね~」

それは、今聞かないといけないことでしょうか、雪美さん。…、まぁ、別にいいか。

「…、それでだな、えっと、なんだっけ……。あっ、そうだ、かりんさんはお金持ちの家のお嬢さんなの。で、うちも、昔は金持ちだったんだよ。それで、金持ち同士だったから、じいさんたちが偶然仲が良かったんだよ。なんつぅか、似た者同士だったんだってさ、うちのじいさんとかりんさんのじい様は。で、だな、二人のじいさんは仲が良すぎて、自分たちの孫が男と女だったら結婚させちゃおうぜ、みたいな感じでまだ生まれてもいない孫を許嫁にしちゃったんだって。だから、俺とかりんさんは、一応許嫁関係らしい。分かるか、霧子?」

「にゅぅ…、幸久君、許嫁って、法律的に平気なの?」

「え? 法律? しらねぇよ、そんなこと。まぁ、でも、別に問題ないと思うぜ、法的には。だって、昔に結婚の約束をしたって言うだけで法的拘束力もないだろうし、結婚しなかったとしても両家の関係にひびが入るかもしれないけど、警察が出張ってきて逮捕ってこともないと思うぜ。」

「じゃ、じゃぁ、幸久君は、二見さんと今すぐに結婚しちゃうってわけじゃないの……?」

「そう、だな…、今のところは、俺自身どうしたもんか分かってないから、結婚はしない。まぁ、結婚するつもりでこっちに来たかりんさんには悪いけど、でも一応保留って感じだ。っていうかさ、昔とは違って三木の家もかなり力を失ってるわけだし、二見の家とはどうしたって釣り合わないからさ、かりんさんのご両親はけっこう反対っていうか、まぁ、けっこうじゃなくてマジで反対らしいんだけど、ほぼ家出同然でこっち来ちゃったんだって、かりんさん。だからさ、そんな状態で結婚してもダメだと思うんだよ、俺は」

「にゅ、幸久君は、二見さんと結婚するのはイヤじゃないの?」

「ん~…、イヤかどうかって聞かれても、俺はまだかりんさんのことを全然知らないし、少なくとも今の状態じゃ結婚なんてムリだ、と、思う。なんつぅか、気持ちの折り合いがつかないっていうか、そういうものなんだな、って受け入れることはまだ出来ないっていうか…、えっと、つまり、保留だ。まだなにも決められない」

「保留…、にゅぅ……」

「というわけで、俺の状況は分かったか?」

「分かった、気はする、かも」

「そうか、それならいいんだよ。とりあえず、これからかりんさんは、いつまでか分からないけど、うちで暮らすことになるからさ、霧子も仲良くしてあげてね。比較的年近いんだからさ」

「にゅ、えと…、はい……」

「腰引けてるぞ、霧子、しっかりしろ。雪美さんも、いろいろお世話になることもあると思うんで、よろしくお願いします」

「おかあさんは、ぜんぜんいいわよ~。でも幸久くんも大変ねぇ、いろんなことがあって」

「はは、まぁ、なんというか、前世でなにか悪いことでもしたんでしょう。そうでもないと、こんなにしばしばトラブルに見舞われる説明がつきませんし」

「色男も、いろいろ大変よねぇ。モテモテも考え物ね」

「とりあえず、俺がどうするべきなのかは分からないですけど、みんな丸く収まるようにがんばってみますよ。まぁ、そんなことできないかもしれないですけど、とりあえず考えてみます」

「うふふ、そうやってみんなのために~、っていうことができるのって、幸久くんのいいところだとおかあさんは思うなぁ。でもねぇ、いつでもそれが正解ってわけじゃないと、おかあさんは思うの。でもね、幸久くんはとってもいい子だから、きっといろいろ考えて、いっちばんいいのがなんなのか見つけられると思うわ」

「えっと、まぁ、とりあえず、がんばります」

「あっ、幸久くん、霧子ちゃんのこともわすれちゃダメだからね?」

「? えと、はい、それは、だいじょぶだと思います。俺が霧子のことを忘れるなんて、ないですよ」

「幸久くんがそういうなら、きっとだいじょぶよね~。おかあさんの言いたいこと、ちゃぁんとわかってくれたと思うわ」

「それだといいんですけど、もしかしたらちょっと分かってないかもしれないです」

「だいじょぶよぉ、幸久くんはいい子だから、分かってくれてるはずだもん」

「いやぁ…、どうですかねぇ……。あっ、霧子、ちょっとかりんさんが話あるみたいなんだけど、聞いてあげてな」

「ぉ、お話って、なぁに……? あたしも、聞かないといけない話……?」

「霧子に話があるって言っただろ。霧子も聞かないといけないんじゃなくて、霧子が聞かないといけないんだよ。とんちんかんなこと言ってるんじゃないの」

「にゅ…、ゆ、幸久君、怖いからいっしょに聞いてくれる、よね……?」

「いや、俺はちょっと、晩飯の仕度のために冷蔵庫のチェックするからいっしょにはムリだ。っていうか、だいじょぶだって、別に取って食われるわけでもあるまいし。ったく、なににビビってるんだ、こいつは」

「霧子ちゃん、がんばってぇ」

「ぉ、おかあさんまでぇ……」

「ゅ、幸久様、私はお話などありません……!」

「いや、あるでしょ。なに言ってるの、かりんさん。さっき自分で言ってたじゃん、霧子のことも昔からビデオで見てきたって。ってことは、かりんさんは霧子のことだって好きなはずなんだよ。それだったら、直接かりんさんの口からよろしくの一言くらいあった方がいいと思う。なんつぅか、まずは友だちからでしょ、やっぱ」

「で、ですが、それは私が霧子ちゃんのことを一方的にビデオで見ていて知っているというだけで…、霧子ちゃんは急にそんなことを言われても困ってしまわれます……! ですから、私はこれからゆっくり霧子ちゃんとお友だちになっていければいいと思って……!」

「そんな遠回り、何年かかると思ってるの! 霧子はそんじょそこらのヘタレじゃないんだよ! 俺の許嫁なんて設定のかりんさんと仲良くなるとかいう高難易度の試練、一朝一夕じゃ乗り越えられないんだからね! だからここは、とりあえずかりんさんがぶっちゃけていくのが一番いいんだよ! そうじゃないとずっと辛いままだよ、かりんさん!」

「で、ですが…、そのようなこと…、出来ません……」

「なんで出来ないの。俺にはやったでしょ、まさにそれを。しかも『友だちになってください』なんかよりも数段難易度高いはずの『私があなたの許嫁です』をやってのけたでしょ。それと同じだよ、かりんさん。せっかく霧子が目の前にいるってのに、このチャンスをふいにするつもりなの?」

「そ、それは…、そうですが……」

「だいじょぶだって、俺もついてるからさ。正直に話して、お友だちになってくださいって言えばいいだけなんだから」

「…、幸久様の、おっしゃる通りです。分かりました、もう一度、勇気を出そうと思います。ですが、あの、がんばるために、幸久様のお力を分けてください」

「力を分けるって、何すればいいの?」

「手を、握ってください……。そうすれば、幸久様を感じられます……」

「それでいいんなら、いいよ。…、どう? これで、勇気出た?」

「はい、これで勇気百倍です。それでは幸久様、行って参ります」

「うん、がんばってね、かりんさん」

「にゅぅ…、幸久君……」

「霧子は話を聞くだけなんだからしゃっきりしなさい。これからかりんさんがすっげぇ大事な話するんだから、霧子も真面目に聞きなさいよ」

「にゅん…、幸久君、きびしいよぉ……」

「霧子ちゃん、しっかりぃ~」

「雪美様、お茶はご満足いただけましたでしょうか」

「広太くんのいれてくれるお茶はとってもおいしいから、もう一杯だけもらおうかしら。いれてくれる?」

「はい、喜んで」

「さて、俺は冷蔵庫のチェックでもするか。とりあえず、広太は俺の代わりにかりんさんと霧子を見守っててくれ。きっと俺は少し意識を集中することになるだろうから、二人の様子を見守ってることができなくなる」

「承りました。お二方の様子は、私が間違いなく見守らせていただきます。介入の必要はありますでしょうか」

「いや、別にそんなことしなくていい。っていうか、かりんさんなら何かと上手くやると思うし、それはいらない心配だ。それになんだかんだって霧子もこの話はパニくらずに聞けると思うし、とりあえずちょっと様子見してろ」

「はい、了解いたしました、幸久様。それではお二方の様子をよく見て、必要があるように感じられましたら幸久様の指示を仰ぐことにさせていただいます」

「あぁ、そうしてくれ。でも出来るだけかりんさんと霧子のやるがままに任せるんだぞ。そうした方が、きっとすぐに友だちになれるだろうからな」

「そう、ですね。霧子様は感動屋でいらっしゃいますから、かりんさまのお話を聞かれればすぐにお友だちになられるよう心をお決めになることでしょう」

「まぁ、そういうことだ。霧子博士の俺が平気って言ってるんだ、問題なんて起こるわけないだろ」

「おっしゃる通りにございます、幸久様。そのご慧眼にはいつもながら感服するばかりです」

「別に、ただ付き合いが長いだけだ」

「そういえば、幸久様、一つお伺いしたいことがございます、よろしいでしょうか」

「? なんだ、言ってみろ」

「はい、先ほど、幸久様はかりん様が霧子様のことを好いていらっしゃるとおっしゃいましたが、しかしかりん様はご自分でそのことをおっしゃっていません。どうして幸久様はそのことを、あのように確固たる確信を持って見抜かれたのでしょうか」

「? そんなの、霧子がかわいいからに決まってるだろ。逆に聞くけど、それ以外に何か理由があるとでも?」

「いえ、まさか、幸久様がそうおっしゃるのですから、それはもう、それが正しい答えなのでございましょう。私は、納得をもってそれを受け入れようと思います」

「まぁ、当然の流れだな」

霧子はかわいい。この場合、すべてはそれで説明がつくのである。霧子のかわいさの前では、性別など些細な差でしかないのだから。

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