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Prism Hearts  作者: 霧原真
第十一章
146/222

放課後の時間の過ごし方

「そンじゃあ、これでみんな決まりッスね」

「そうね、まぁ、これでいちおうぜんぶ枠が埋まりはしたわね。みんながやる気満々になってくれたから、こういう細かいことに時間がかからなくてよかったわ。滝本さんと高見さんはご苦労さま、席に戻っていいわよ」

「はい、それでは席に戻ります」

「はぁ…、なんとか無事に終わったッス……」

「滝本さん、議長お疲れ様。あなたはこういうの得意だと思ってたけど、やっぱり得意だったわね。自分でも気づいてない能力っていうのは、やっぱりあるものよね」

「いや、もうこういうのはごめんッス。慣れないことして、なんか肩こっちゃったッスから……」

「最初はなんでもそんなものよ。これから慣れていけばいいってだけなんだからね」

「はぁ、そんなもんスかね……?」

「ドラムだって、最初は変に力が入ってるから変なところが疲れたりしたでしょ? でも今は、けっこう疲れるべくして疲れてる。何事もそんな感じなのよ」

「そのたとえ、よく分かンねッス」

「あれ? 分からなかった? まぁ、いいわ、とにかく、慣れないことを慣れないからってなんでも敬遠してちゃダメってことよ。自分がどんな能力に秀でてるかなんて、試してみないと分からないんだからね」

「なるほどぉ…、さすが綾ちゃん、言うことの端々が先生っぽいッス!」

「うん、まぁ、あたしは頭の先から足の先まで純然たる教師だから端々と言わず発言の全体が先生っぽいんだけどね。というか、先生っぽいってどういうこと? みんな、あたしのこと先生と思ってないの? ねぇ、みんな、どうして目を反らすの? あたし、みんなの友だちじゃないわよ? 先生なのよ?」

「先輩は~、そういう細かいことにかかずらってるから、いつまでも小者なのですよ~。もっと先生のように~、泰然とすべてを受け入れる度量を、持つべきなのではないでしょうか~」

「ちょ、ちょっと! ゆり、やめなさい! あたしのことを小者なんて言うのはやめなさい! 生徒が誤解するじゃない、あたしは小者じゃないわ!」

「そうやって~、小者って言葉に過剰反応するあたり、小者ですよね~。でもだいじょ~ぶ、です。先生はそんな先輩も大好きですよ~。先輩はいつまでも~、イジりがいのある小動物系小者でいてくださいね~」

「み、認めないわ! あたしはあんたにバカにされるような人間じゃないもの! そんなこと、みんなに聞いてみればすぐにはっきりするわ! 滝本さん! 戻ってらっしゃい! 緊急議会を招集するわ! 議長はあなたよ!」

「え~、勘弁してほしいッス。やっと役目を終えて、ホッと一息ついてるとこなんスよ?」

「お黙り! 先生があらぬ小者疑惑をかけられてピンチなんだから、助けてちょうだい!」

「先生、よろしいですか」

「なにかしら、風間さん。発言を許可します」

「はい、六時限目のロングホームルームは間もなく終了しますが、帰りのホームルームはどうなさるのでしょうか。私は放課後すぐに風紀委員会の会合に出席しなくてはならないので、出来ましたら時間通りに終わらせていただけると助かるのですが」

「あぁ、用事があるのね、そういう人はムリに参加しなくていいわ、用事を優先しなさい。放課後少しだったら暇で、あたしの危機に馳せ参じる気概のある人だけ残ってくれればいいわ」

「先生…、一つよろしいですか……?」

「はい、栗田さん。風邪じゃないならマスクしない! っていうのは、もういいわ。なにかしら?」

「いえ…、これは喉を守るために…、必要なことなので……。理事長先生にも…、許可をいただいています……。で、ですね…、私たちのバンドは…、次のライブに向けて…、練習時間を可能な限り…、確保しなくてはならないのです……。ですので…、ドラムを取られては…、困ります……」

「美波、ムリに長くしゃべろうとするな。言いたいことは分かっているから、わたしが代わりにしゃべる」

「すいません…、広海……。それでは…、代わりにお願いします……。先生…、広海の話を…、聞いてください……」

「いいでしょう、聞きます。千原さん、手短にチャキチャキとお願いしますよ」

「はい。先生、わたしたちのバンドは来週末に月例ライブを控えています。ですので、可能な限り練習をする時間を取りたいと思っています。また、滝本はまだドラムを始めたばかりで、特に練習を必要としています。確かに滝本は器用でなんとなく叩くことができているのですが、しかしそれでもメンバーと音を合わせるとなるといま一つなところがあるので、出来る限り練習をしなくてはならないのです。さらに今度のライブでは、滝本のソロパートが入る曲があるため、その練習をする必要もあります。つまり、わたしたちには時間がないのです。貴重な時間を、お願いですから奪わないでいただけませんか?」

「なるほど…、千原さんはけっこう物申す性質なのね……。そういうことなら分かったわ、滝本さんを拘束するのはやめましょう。あなたたちのバンドは人気あるっていうし、そういう生徒の可能性を潰すようなことはしたくないものね」

「御理解いただき、ありがとうございます、先生」

「本当に…、ありがとうございます……。先生方のチケットは…、最前列の関係者席に…、とっておきます……」

「えっ、ほんとに? やった、ラッキー。あなたたちの月例ライブのチケット、なかなか手に入らなくてプラチナチケット化してるっていうし、ほんと役得だわ」

「先輩は~、そういうところが教師になりきれてないっていうか、お子様気分が抜けないっていうか~、総じて言うと、小者ですねぇ~」

「ちょっとゆり! 小者っていわないでって言ってるじゃないの! 帰りのホームルームの連絡は特にないわ! そんなことよりも、このあと先生が小者ではないってことを証明する大事な緊急議会を招集するから、用事がない子はみんな残ってね! それじゃ、解散!」

「「さようなら~」」

「…、あれ? みんな帰っちゃうの? みんなそんなに忙しいの? ちょっと…、十人くらい残ってくれても…、いや、五人、ふ、二人でも一人でもいいから…、みんな、先生のことなんてどうでもいいの!?」

「先輩、みんながいなくなっても、先生がいるですよ~。先生はいつだって、先輩の味方ですから~」

「ゅ、ゆり…、やっぱりあたしには…、あんたしかいないのよ……」

「はいはい~、そうやっためんどうくさいことをするからみんなに愛想を尽かされるですよ~」

「ぅ~、別に、みんな忙しかっただけだもん……」

「はいはい~、そうですね~」

というわけで、そんな感じに茶番って感じで、今日の学校は終了したのだった。新学年が始まって二ヶ月くらい経った今だから分かるけど、あの場面はあぁするのが正しい。綾先生には少しかわいそうなことをしている気がしないでもないが、まぁ、そこらへんのフォローをするあたりまでも含めてゆり先生の演出なのだから心配するべきことではない。

まぁ、今日のところは本当に用事があるから帰るのだが、仮に用事がなかったとしてもあそこは帰るべきところだ。なんというか、お決まりというかお約束というか、鉄板ネタ的にあそこはみんなで一斉に帰るっていう感じになっているのである。

「そういえば幸久君、今日はうちに来てご飯つくってくれるんだよね?」

そして俺と霧子は、どこに寄り道するでもなくまっすぐに家路を急ぐのであった。今日は晴子さんが大学の用事で遅い帰りらしいので、天方家の分まで含めて晩飯を用意するという決めごとになっている。しかしだからといって天方家にまっすぐ向かうかと言えば、そういうわけではない。とりあえず俺は家で待機している広太とかりんさんをピックアップしてから向かわなくてはならないわけであり、おそらく天方家の玄関のところでいったん別れることになる。

だが、別れると言っても家同士は徒歩で五分も離れていないのだからそれは大した問題ではない。ここでの問題は、むしろ霧子ではなく家で待っているかりんさんにある。今日は天方家に料理をつくりに行く日であり、そして同時にかりんさんを初めて晴子さんの前に差し出す日でもある、ということを忘れてはならない。

そして、晴子さんに紹介するということは霧子と雪美さんにも紹介するということであり、つまりうちと天方家の家族ぐるみの関わり合いの中にかりんさんを参入させるということである。今までこういうことはなかったからどんな化学反応が起こるのかはまったく分からないが、まぁ、とにかくわずかにでも前に進むと決めたのだからもう迷っている場合ではないのだ。

というか、晴子さんからどんなリアクションが返ってくるのかまったく予測がつかないのが、特に怖い。まぁ、とりあえず一も二もなく怒るんだろうが、どの程度の深さの怒りが飛んでくるかが分からない。それが分からないと、心の対策の立てようがないのだ。こういうときは、とにかく過去最悪のものを想定しておけばいいのだろうか。…、過去最悪のものは、あまり想定したくないな……。

「ん? あぁ、そうそう。霧子は晩飯、何が食べたい」

まぁ、細かいことを考えていてもしょうがないわけだし、とりあえず後で飯でもつくりながら考えるとするか。今は、保留にしておくことにしよう。

「えと、あたしはなんでもいいよ。幸久君のつくってくれるご飯は、みんなおいしいからどれでも」

「そういう『食べたいものはおいしいもの』みたいなのさ、なんかグルメっぽくね? うまいもんつくってみろよ、みたいな感じ?」

「にゅぅ、そういうつもりじゃないんけど……」

「まぁ、分かってるって。しかし、なんでもいいか……、まったく参考にならない意見だよな、それって。これがいいとかあれがいいとか、もっと具体的な意見出してくれればいいのに」

「そんなこといわれても、すぐに思いつかないもん」

「だと思ったぜ。とりあえず、晩飯はうまいものだ。それだけは間違いないから心配すんな」

「にゅん、わかったよ。幸久君、がんばってね!」

「おぉ、任せろ。晴子さんいないけど、俺だってやればできるんだってこと見せつけてやるぜ」

「あたしは今日も、おねえちゃんがいてもいなくても何にも出来ないってことを見せることになっちゃうね……。幸久君のお手伝いは、してもたぶんいつも通り役に立たないだろうから……」

「あんま気にしなくていいぞ霧子。それになにも、キッチンに立つだけがお手伝いじゃない。皿の用意とかテーブルのセッティングなんかも、いちおう晩飯の手伝いだと思うしな。いつも広太も、料理できないからそういうことの手伝いしてくれるし」

「そっかぁ、広太君もそうやってお手伝いしてるんだね

。お掃除とかお洗濯とか、他の家事もいろいろやってるのにえらいなぁ……」

「まぁ、広太はそれが仕事みたいに思ってるとこあるからな……。別に俺と分担してもいいと思うんだけど、学校から帰るといつも全部終わってるから分担もなにもないんだよ。いっしょに暮らしてるんだから、協力し合うのが筋ってもんだろうに、どうして全部やっちゃうかなぁ…、空気読めよ」

「幸久君、いない人の悪口はダメだよ」

「悪口じゃねぇって、思ったことを言っただけだ」

「にゅぅ、ヘリクツだもん」

「きっと、広太が優秀すぎるのがいけないんだろうな。あいつは、ほんとに料理以外だったらなんでもできるからな。料理が苦手なのも、せめてなにか一つくらいは出来ないようにしないと、って神様が必死になった結果なのかもしれないし」

「広太君はお勉強も全教科できるし、すごいよね。にゅ、広太君は、高校行かなくてよかったのかな?」

「…、いいんだよ、あいつは。まぁ、行きたくなったら言うだろ。あいつの学力なら編入試験に苦労するなんてこともないだろうし、俺は別に心配してねぇよ」

「そっか…、幸久君が心配してないことを、あたしが心配するのも変だよね。うん、あたしも心配しないことにする」

「とりあえず、今は広太じゃなくて今晩の晩飯をなににするかだよな。晴子さんは肉っぽいのがいいって言ってたし、肉を使うのは確定だ。ん~…、まぁ、肉料理中心に付け合わせを二品くらいだろうな」

「にゅ、幸久君、がんばってね」

「任せとけ、おいしいもんつくってやるからな。霧子は楽しみに待っててくれればいいぞ」

「うん、あたし、待ってるのは得意だよ」

「そうか、それは頼もしい限りだな」

とりあえず、いろいろやらなくちゃいけないことはあるわけだが、今は晩飯の仕度のことを考えることにしようと思う。少なくとも、晩飯に何をつくるかということで悩むだけだったら、誰に何の影響も与えはしないだろうからな。というか、最近俺の周りで発生する問題が徐々に重いものになってきている気がするんだけど、気のせいだろうか?

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