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Prism Hearts  作者: 霧原真
第九章
111/222

強さっていうものは

「おぉ、ほんとにあった……」

「あったでしょ~?」

「にゅ…、路地にあったにしては、けっこうおっきなところだね」

「まぁ、他の所に比べたら別に大きくない、っていうか、むしろ小さいくらいかもしれないけどな」

志穂がひとっ走りして斥候してくれたおかげで、俺と霧子はある程度落ち付いた心持ちで教会への道を進むことができた。やっぱり、この先に目指しているものが確かにあるっていう安心を持って進むことができるとまったく焦ったりしないな。

まぁ、志穂が見つけてきたものが本当に俺たちの目指しているものだったっていう確証はなにもなかったわけで、ある意味では少なからず不安に思う気持ちはあったんだけどな。

「じゃあ、入ってみるか。俺はこういうところの良し悪しみたいなのはよく分からないんだけど、まぁ、そのへんは霧子が判定してくれるんだろうしな。志穂、俺たちはのんびり見てればいいぞ」

「なかに、なにがあるの?」

「何がある、ってわけじゃないんだよなぁ。霧子は別に中身が大切だからここにきたわけじゃないんだ。この建物が見たかったんだよ」

「? じゃあ、このなかにはなにもいないの?」

「ん~、教会の中には、神様がいるんだろうから何もいないってわけじゃないだろうけど…、まぁ、入ってみれば分かるんじゃね?」

「かみさまいるの?」

「いる、と思う。俺は神様って見たことないからよく分からないけど、たぶんいるんだと思う」

「かみさまって、どんなの? じんじゃにいるのとおなじ?」

「神社の神様は、日本の神様だからな…、同じかどうかは……。っていうか、日本には八百万の神様がいるって言ってな、ほぼ無限の神様がいろんなものの中にいるって言われてるんだ。だからそもそも、日本中の神社にはそれぞれいろんな神様が祀られてるんだ」

「かみさま、そんなにいっぱいいるの! すごい!」

「でな、今ここにある教会っていうのは、ヨーロッパの方に強い力を持ってるキリスト教の神社みたいなもんだ。ここには、キリスト教の神様がいるんだな」

「きりすときょう?」

「え~、全部説明するの? キリスト教のこと、一から十まで全部説明しないとダメなのか?」

「じゃあ、10だけ」

「世界各地に教会があってな、キリスト教を信じてる人はそこに行ってお祈りするんだ。分かったか?」

「ん~…、よくわかんない!」

「だろうな、最終的結論だけ話されても、何にも分からないに決まってるよな。それは分かってたよ。とか言ってるうちに霧子が一人で中に行っちゃったよ」

「ゆっきぃ~、よくわかんないよ~」

「あぁ、もう、つまりな、キリスト教っていうのは、神様が一人いて、その神様を信じましょ~、って宗教なの、大ざっぱに言うと。分かった?」

「かみさま、いっぱいいるのにひとりしかいないの~? …、どっち?」

「日本の宗教の人はいっぱいいると思ってるし、キリスト教の人は一人しかいないと思ってるの。考え方が違うんだよ。俺は果物はりんごが一番好きだけど、志穂はスイカが一番好きだろ? それと似たようなもんだって」

「え~、へんなの~」

「宗教っていうのは、外から見たら少なからず変に見えるものなんだよ。でもそれ、信じてる人の前で言っちゃダメだからな、約束」

「? は~い?」

「戦争になっちゃうからな、戦争」

「みんなとあたしがたたかうの? かつよ!」

「どうしてそんなに無駄に自信満々なの!? 負けるよ! っていうか負けろよ! 一回負けてこいよ、お前は!」

「でもししょ~が、あたしのでしはぜったいまけちゃいけない、っていってた」

「もう、お前は俺が倒す! 今じゃないけど、いつか絶対に倒すからな!」

「え~…、ゆっきぃにはかてないよ~。まけちゃうよ~」

「ここでひくの!? 戦争になっても勝つって言ったお前が、どうして俺に勝つのは無理みたいなこと言っちゃうの!? 俺はどれだけ強いの!?」

「ゆっきぃならきっと、みんなにかてるよ!」

「誰にも勝てないよ! 俺なんて! きっとお前にも負けるよ! あっ、いや、お前には、勝つ!!」

「ゆっきぃにはまけちゃうよ~……」

「も~! 変なとこで弱気になっちゃうんだから~!」

「あっ、あと、ししょ~にもかてないかも~」

「…、とにかく、戦争禁止! もしそういうことになっちゃたら、まぁ、友だちのよしみで少しくらいなら手を貸してやってもいいけど、でも絶対にダメ!」

「ゆっきぃがおてつだいしてくれたら、せかいせ~ふくできるよ! ね~、やろうよ、ゆっきぃ~」

「なんでそんな、近所のコンビニ行くから付き合って、みたいなノリで世界征服しようとしてるの!? 俺は世界征服なんてしなくていいよ! 王の力はお前を孤独にするよ!?」

「おうさまはゆっきぃね。でね~、あたしはたいちょ~で~、りこたんはだいじんで~、きりりんとメイメイはメイドさんで~、こうたんはしつじ~で~」

「支配した後のことまで考えてるぞ、こいつ!? しかも自分のことはさりげなく隊長にしているし、意外と計算高いな、お前!? っていうか、王女様は? 俺に奥さんいないの?」

「せかいじゅうのおんなのこが、みんなゆっきぃのおよめさんだよ! おうさまだからね!」

「ぉ、王は王でも…、とんだ鬼畜王だぁあああああああああああああああああああ!!?? そんなこと、しねぇよ!? そんなことしたらあっという間にクーデターで王権打倒されちゃうわ!!」

「でも、ゆっきぃのことはたいちょ~のあたしがまもるから、へいき!!」

「隊長は守ってくれるかもしれないけど、軍隊が守ってくれないだろ……。あ~、ダメだ、やっぱりダメだ。やっぱり戦争なんてしちゃダメだわ~」

「やるまえからあきらめちゃうの!?」

「そもそも戦争なんて、起こそうと考えることすらおこがましいわ!? そういうのは、人型決戦兵器とか超合金スーパーロボットの開発でもしない限り、考えるべきじゃないことなんだよ!!」

「じゃあ、それができたらせんそうだね! だれがつくってくれるかなぁ~」

「戦争したいのか、お前!? 俺はしたくないぞ! 絶対したくないからな、戦争なんて!!」

「え~、でもあたしとししょ~とみゅうみゅうだけだとたいへんだよ、かてるけど。ゆっきぃもおてつだいしてくれないと~。ゆっきぃがね、後ろからドカーンってビーム撃ってくれないと」

「三人で世界を相手取って戦争しようなんてバカだよ!? 死んでしまえ! 死んでから後悔しろ!! っていうか、俺はそんなロボットには乗らない! 絶対乗らない!」

「? ゆっきぃはロボット乗らないよ? ロボットはね~、メイメイにあげる~」

「? ロボット乗らないのに、ビームなんて撃てるわけないだろ?」

「ゆっきぃは、ロボット乗らないでもビーム撃てるでしょ? こう、てから、ビーーーーー!! って」

「出ない!? 出ないよ!? 手からビームなんて出ないよ!! そんなこと出来ない!!」

「ゆっきぃってば、じょうだんばっかり~。できるでしょ~、それくらい~」

「冗談ばっかりなのはそっちだろ!? 普通の人間は手からビームなんて出ません!!」

「ゆっきぃは、とくべつなにんげんだよ!」

「うれしくない!? そんな特別、全然うれしくない!?」

「でも、ゆっきぃってなんだかとくべつってかんじ~」

「特別って、どこらへんがだよ。言っとくけど、俺の手からはビームも毒霧も出ないからな」

「にゃ~、あたしじゃうまくいえないんだけど~、なんかもやもや~ってしてる。なかからそとに、もやもや~って」

「もやもやって、どういう意味だよ。中から何か出てんのかよ、俺」

「うん、なんだかわからないけど、なにかでてるかんじ、する~。オーラ、みたいな、もやもやが?」

「うん、お前自身まったく何も分からないで話してるってことだけはよく分かった。出てるオーラが見えるって、お前何者だよ。サイヤ人かなにかなのか」

「ん~、オーラじゃないかも…、でも、なんだかつよそうなかんじはするもん。わからないけど、ぴりぴりするかんじ~」

「俺からピリピリする何かが出てるのか……? 無意識で空気中に何を放出してるんだ、俺の身体は……」

「だからね、ゆっきぃはボスだとおもうの」

「ボス? 俺はなにも従えてないけど?」

「にゃ~、でも~、ボスってかんじなの~。ゆっきぃはつよいかんじなんだもん」

「俺が強いんだったら、うちの学園の生徒は大体強いことになっちゃうだろうが。俺なんて雑魚だよ、雑魚。もし強いとしてもボスじゃない、中ボスくらいが限界だ」

そもそもからして、志穂が強いのだ。そんな常識外れに強い志穂に、お前は強いぞ! なんて言われても、なんのこっちゃとなるに決まっている。俺が志穂よりも強いなんてありえないのだ。だってもしそうなってしまったら、志穂唯一の優位点である「学園で三指に入るほどの強さ」というポイントが損なわれてしまうではないか。

ちなみに、学園最強の三人というのは、志穂が三番くらいらしく、その上には剣道部の部長と風紀委員会最強がいる、らしい。そういうランキングを誰が作っているのかはよく分からないが、もっぱらそういう評判になっているのだ。つまり、志穂に勝てるということは学園の天辺が射程圏内に入るという意味であり、文字通り学園のボスとして君臨することも不可能でない、という意味なのだ。そして、俺は志穂に勝てないのでそんなことはできないのである。

「っていうか、前から少し聞きたかったんだけど、お前はどうして俺がそんなに強いと思ってるわけ? だって俺、きっとお前にあっという間に負けるぜ? そんなやつが、強いはずないだろ?」

「そんなことないよ~、ゆっきぃつよいもん。もやもやがすごいもん。ほかのひとには、そんなにかんじたことないもん」

「またもやもやか。なにがそんなにもやもやしてるんだっつぅの」

「にゃ~…、だからぁ、なにかいるかんじっていうか、えと、けはい、っていうんだったかなぁ…、なにかかんじるんだもん」

「気配? 俺の中に、何かいるっていうのか? それこそありえないって話だろ。俺の中に何がいるっていうんだ。俺は俺だ」

「ゆっきぃはゆっきぃだよね、うん。でも、ゆっきぃ、なにかがいるんだよ~。だからつよいの」

「何かいるって、気味悪い言い方するなよな。お前が行ってるのは、守護霊みたいな何か、って感じなのか?」

「ん~、そうじゃないんだけど…、そうかも?」

「じゃああれだ、きっと俺の親父とお袋だ。俺がちっちゃいときに死んじゃったからさ、俺のこと心配で見てくれてるんだよ。きっとそうだよ」

「え~、そうなのかなぁ……? でも、あんまりゆっきぃとにてないよ?」

「似てるかどうかは分からないな…、俺はどっちの顔も全然覚えてないし、写真も全然残ってないから見たこともないんだよな」

「にゃ~、わかんないよ~。よくわかんないけど、でもゆっきぃといっしょにだれかいるのだもん。だからゆっきぃはつよいんだもん、たぶん!」

「じゃあ、そういうことにしとくよ。志穂の行ってることは信じがたいけど、でもそれがほんとじゃないって証拠もないしな。疑ってばっかりじゃダメだもんな。志穂がそう言うからには、きっと何かいるんだよな」

「うん、そうだよ~。ゆっきぃはつよいんだから、ね! いちばんつよいんだから!」

「いや、一番かどうかは、どうだろうな……。まぁ、志穂より強いってことで、三番くらいにしといてくれ」

「え~、いちばんっていっちゃえばいいのに~。ししょ~がね、そういうのはいったもんがちだって、いってたよ」

「まぁ、俺は出来ればそういうことは言いたくないんだけどな」

確かに志穂がそういう他人の強さを見極める眼力みたいなものを持っている、ということは認めた方がいいことかもしれないが、でもだからって俺が言われたとおりに強いなんて認めることはできない。俺が強いなんて、そんなことはないのだ。

強さというのは、修練と鍛錬によって磨かれるものなのであって、俺のように何もしていない人間が身につけているはずがないのだ。もしかしたらそこらへんの木端の不良くらいにだったら勝てるかもしれないけど、でも本格的に積み重ねている人には敵うべくもない。

志穂だって、確かにあんなほえほえだけど、昔から道場に通っているというし、才能やそもそもの身体能力も相まってその強さは半端なものではない。俺なんかが対抗できるかといえば、無難に無理と言わざるを得ないのだ。

しかしそうだというのに、志穂は頑なに俺が強いと主張しているのだ。どうしてかは、何度かこうして問うているもののよく分からないままだ。何がどうなって、志穂の中でそういう意識が生じてしまっているのかはよく分からないが、でも執拗にそう言い続けるということはきっと何かが引っかかっているのだろう。今日言っていたところで考えると、あのなんだか見えるという「もやもや」だろう。

「まぁ、なんでもいいや。とりあえず、霧子のこと追いかけるぞ」

「あっ、うん!」

俺が強いなんて、そんなことあるものか。

俺は小市民でいい。変な力なんて、別にいらないんだから。

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