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Prism Hearts  作者: 霧原真
第九章
109/222

これからどこ行こう?

「しっかし、いい天気だな、無駄に……」

動き回りやすい軽めの服に着替えて、俺は四人と合流して旅館を出た。この旅館は市街地から少し離れたところにあるので、もしそちらに行ってみようというなら、さっき車で走ってきた道を逆向きに少し歩かなくてはならない。

「で、外に出るって言ってたけど、どこに行くんだ? ちょっと、湖の方に行くにしては全員軽装備過ぎると思うんだけど」

俺が出掛けるために軽装に着替えたのと同じように、みんなの着ている服もさっきとは少し違うモノだった。

「私は、少し市街の方に出ようと思っている。家族への土産物を先に調達してしまった方が、あとで焦らなくて済むだろうからな。湖の方にはまた後で、一度旅館に戻ってから仕切り直して行くつもりだ」

「あたしは、さっき車で見た教会に行ってみようかなぁ……。すごいきれいだったし、ゆっくり見たいかも。湖は、えと、どうしよう…、明日でもいいかな」

「あたしはみずうみいく! いってきます! ゆっきぃもいっしょにいこ!」

『あたしもしほちゃんについてく。どんなところかちょっと見てみたい』

「ってことは、二人ずつで二手に分かれる感じなのか? 志穂は、みんなといっしょに行動しなくて大丈夫なのか?」

「そういうことになるだろうな。なに、皆藤は持田といっしょに行動するんだ。問題はないだろう」

「俺は心配だなぁ……。だって俺は霧子をさっきの教会まで連れてってやるって約束だし、志穂といっしょに動くことはできないじゃん」

「? ゆっきぃも、いっしょにくればいいのに」

「いや、だから、俺は霧子を教会まで連れてってやるの。体は一つしかないし、二つに分かれることはできないんだから、お前とはいっしょに行けないの」

「ゆっきぃなら、ふたつくらいならなれるよ」

「どうしてそんなわけのわからんことを堂々と自信を持って言うことができるのか、俺にはまったく分からないんだが。俺は、プラナリアじゃないんだから二つには別れられないんだよ。真ん中から二つに切っても、二人分の俺が再生されるわけじゃないの」

「え~、そうなんだ~…、そうだったんだ~……」

「頼むから、そんなとこで変にがっかりしないでくれよ……。お前は俺に何を期待してるんだ……」

『じゃあ、幸久くんはきりちゃんとのりちゃんといっしょに行くの?』

「あぁ、そうだな。うん、そういうことになるかな。っていうか、どうせあとでみんなで行くんだし、二人こそ今はこっちといっしょに動けばいいんじゃね? そうすれば志穂も俺の目の届くとこに置いておけるし、無駄に心配する必要もない」

「え~、でもみずうみいきたい~」

「だから、行かないとは言ってないだろ。ただ、今はとりあえず街の方に行って、それからあとで、飯を食った後にでもみんなでいっしょに湖に行けばいいじゃん、ってことだよ」

「や~! すぐいきたい~! ゆっきぃもいっしょにいこ~よ~」

「俺は、霧子といっしょに教会に行く約束なの。無茶なこと言うんじゃないの」

「ゆ、幸久君…、あたしは一人でも平気だよ。だからしぃちゃんといっしょに行ってあげてよ」

「ダメだ、霧子は俺が教会に連れていく約束だろ。っていうか、どうせ霧子は道に迷うだろ。こういう慣れない土地で一人にしたら、あっという間に道に迷うだろ」

「にゅ…、ま、迷わないもん……」

「霧子は困ったときに人に聞けないんだもんなぁ……。迷ったら、どこにそれがあるかいまいち分からないまま動いちゃうんだもんなぁ……。むしろ率先して、攻めの姿勢で迷いに行くからなぁ……」

「にゅ…、む、昔のことだもん……」

「ウソ吐け、中三の修学旅行で京都行ったとき、霧子が班からはぐれてどっか行ったとき、俺が死ぬ思いで探しまわったの覚えてないとは言わせないぞ。あのときは、三時間くらいずっと全力疾走で探し続けたんだからな」

「あ、あのときは…、がんばって帰らないとって思って……」

「そういうときは、はぐれたことに気づいたらそこから動かないで、って言っただろ。どうしてそこでがんばっちゃうんだ、って話だよ。いつもはそんなに攻めの姿勢じゃないってのに、ピンチになったときだけは変に攻めるんだよな、お前……」

「にゅ…、ごめんなさい……」

「だから今日も、俺が霧子を教会まで無事に送り届ける、これは決定。京都と違ってナンパみたいなことはされないと思うけど、迷われたら大変だからな」

「…、はぁい……」

「あのときはたいへんだったからぁ……。俺がなんとか見つけ出したときは、別の中学のやつにナンパされてたんだからな。広太に止められなかったら俺、そいつのこと再起不能にするところだったぜ……」

「あ、あれは、ナンパされてたんじゃなくて、あたしが困ってたから声をかけてくれただけで……」

「世間一般ではそういうのをナンパっていうんだ。まぁ、修学旅行に行った先で地元の中学のやつをボコったら、たぶん大軍勢が押し寄せるだろうからな。あのときばかりは広太が止めてくれて助かった」

「で、でも、幸久君、その人たちのことぶってたよ……? だ、だいじょぶだったかな…、幸久君が本気でぶったらすごい痛いし……」

「えっ? 本気でなんか殴ってないって。めっちゃ手加減したって、たぶん。まぁ、俺が殴ったやつは霧子の手を握ろうとしてたし、うっかり力がこもりすぎてたとしてもおかしくはないけどな」

「う、動かなくなってたよね? 助けてくれたのはうれしかったけど…、でも、動かなくなってたよね?」

「平気だって、そいつを一発で動かなくしたおかげで、他のやつらもみんなビビって逃げてっただろ? あれは最小限の被害で済ませるために必要なことだったんだよ」

「にゅぅ…、あぁいうことは、もうしないって約束してたのに……」

「いくら霧子との約束でも、どうしてもそれをする必要があるなら俺はする。殴らなきゃいけないときは殴る。拳を振るうべきときに振るえないで、大事な人が傷つくのは嫌だからな」

「幸久君、かっこいいっぽく言っても、暴力はダメなんだよ。りこちゃんも言ってあげてよ」

「いや、私は三木の考えに賛成だな」

「え~…、そんなこと言わないで、暴力はダメって言ってよ~……」

「もちろん、暴力はいけないことだ。力を暴れさせてはいけないというのは、それこそ天方の言うとおりに違いない。しかし、力を振るうこと自体が全て悪というわけではあるまい。誰かを守るために振るわれる力を、私は暴力だとは思わない。確かに力を振るっているのだから暴力ではないか、と言われてしまえばそうなのかもしれないが、私は違うと思っているんだ」

「や~、姐さんはやっぱりいいこと言うな。さすがだぜ!」

「現に私も、風紀に所属することで力を振るわざるを得ない場面に遭遇することもないことではない。そういうときにやむを得ず力を行使することもある。私としてももちろん、そのようなことをせずに場を収めることができるに越したことはないと思っているが、そうすることでよりよく事態を収束することができることもある。それも一つの事実だ」

「霧子、これで分かったな…、男にはな、やらなきゃいけないとき、っていうのがあるんだ……。どうしても拳を振るわなきゃいけないときっていうのが、あるものなんだ……!」

「にゅぅ…、分からないもん……」

「ふぅ、まったく…、霧子もたいがい強情だな。志穂も分かってくれるよな。人間、拳骨で解決するしかないときだってある、よな?」

「『いけんのちがいも、たいりつもあらそいも、たいていのことはこぶしでかたがつく』って、ししょ~がいってたよ、ゆっきぃ。そういうこと、だよね!」

「いや…、同意しづらいな……。俺は流石にそこまでは言ってないんだけどな。だって、その言い草だと何でも拳骨で解決すればいいじゃん、みたいな投げやりな感じが漂ってくるが、俺はそんなこと言おうとしてない」

「それでゆっきぃ、『たいりつ』ってなぁに?」

「そういう、常識のある人なら普通に知っていて然るべきな基礎的なワードの意味を俺に尋ねないでくれ。どうやって応えたものか、若干分からなくなっちゃうから」

「ひとことでいうと?」

「…、喧嘩すること、じゃね……? 確かにお前、口げんかも拳骨で解決しようとするからな、たまに。軽く言い合いしてるだけで、急に手が出たりするから油断ならねぇよな、お前」

「え~、でもゆっきぃ、いつもよけるし」

「がんばってるんだよ!? いつもめっちゃがんばってよけてるんだよ!?」

「じゃあ、みずうみいこ、ゆっきぃ」

「話を流さないで!? 今、けっこう大事な話してるところだからね!? っていうか、俺は霧子といっしょに行くからお前とはいけないって、今言ったところだよ!?」

「ゆっきぃといっしょにい~く~の~! いっしょじゃなきゃ、や~!!」

「駄々こねるんじゃないの。湖には、あとでいっしょに行ってやるから」

「いまいきたい~!」

「わがままな娘だよ! こいつは!」

『しほちゃん、幸久君はどうしてもきりちゃんといっしょに行っちゃうんだよ。諦めた方がいいよ』

「え~、でも~……」

『幸久君、今からきりちゃんといっしょにお出かけしたとして、どれくらいで戻ってくるつもり? 一時間くらい? それとも二時間くらい?』

「そうだな…、時間的に昼飯食ってから戻ってくることになるだろうから、二時間くらいかな。二人も、もし別行動するんなら自分たちでなんとか飯を食ってもらうことになるからな」

『しほちゃん、幸久くんといっしょに行かないとお昼ごはん食べられないんだって』

「ほぇ? ゆっきぃといっしょじゃないと、おひるぬきなの? おなかぺこぺこになっちゃうの?」

『そうみたい。幸久くんといっしょに行った方がいいんじゃない? あたし、お腹ぺこぺこになっちゃうの、ちょっとイヤかも』

「うゅ~…、あたしも、おなかぺこぺこはヤだな~……。でも、あたしみずうみいきたいもん」

『でも、確かにすぐに行くっていうのは無理みたいだけど、幸久くん、今日はなにがあっても後で絶対に行かないってわけじゃないと思うの。だから、お昼ごはんを幸久くんたちといっしょに食べてから、それから行くのがいいよ』

「にゃ~…、すぐいっていっぱいあそぼうとおもったのにぃ……」

『だいじょうぶ、湖は逃げない』

どうやら、まだ少し不満はあるようだが、しかし志穂はメイの説得に応じてくれそうな雰囲気である。まぁ、志穂が少しくらいのわがままを言うのは、いわば仕様のようなものであり、ある意味でどうしようもないことなのかもしれないが。

志穂はどうしても自分が思ったことに一直線になってしまうところがあるので、今みたいなことになるのはよくあることなのだ。遊ぶことや楽しいことが真っ先に目に入ってそれ以外のことが視界から抜けおちてしまうなんて、やっぱるまだまだ子どもっぽいところが抜けきらないな、こいつは。

まったく、どうせ腹が減ったと真っ先に、そして一番騒ぐのは志穂だというのに、仕方ないやつだ。

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