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Prism Hearts  作者: 霧原真
第九章
101/222

駅に着いてもかしましく

「ようやく着いたか……。あぁ~、電車長いな、やっぱ……。まぁ、分かってたことだけど」

そして俺たちは、ちょうど午後一時を回ったころ、当の目的地である駅へとたどり着いたのだった。電車からいの一番に飛び出していった志穂に続いてホームへと降り立った俺は、頭の上で手を組んでクッ、と座りっぱなしで凝ってしまった背筋を伸ばす。

陽差しはポカポカと暖かく、なんとなくこの地も俺たちのことを歓迎してくれているような気分だ。この旅行の間もずっと、こんな風にいい天気が続いてくれればいいなぁ。

「まったくだな。しかし、長く乗っていたからこそちょうどいい時間に昼食を済ますことができたのだ、悪いことばかりではないだろう」

「でも、みんなといっぱいおしゃべりできて楽しかったよ。幸久君も楽しそうだったよね」

そしてそれに続いて姐さん、霧子、メイの三人もホームへと続々と降り立っていく。長時間電車に乗っていたが調子悪そうにしているやつはいないし、ホッと一安心といったところだろうか。去年は、心構えが足りなかったからか、霧子が少し調子悪そうにしてたし、少し心配だったのだが、よかったよかった。最初から体調悪くなってたりしたら、せっかくの楽しい旅行にも暗雲立ちこめるというものだ。

「まぁ、俺はずっと志穂と遊んでたんだけどな」

『そういえば、あたし、ご飯のとき以外幸久くんとあんまりおしゃべりできなかった』

「確かにそうだな。三木は皆藤と遊んでばかりだった。何人もで旅行に来ているのに、一人とばかり遊んでいるというのはあまり感心しないな。…、い、いや、決して私の相手をしなかったからこのようなことを言っているわけではないぞ、勘違いするな」

「いや、俺だってずっと志穂とばっかり遊んでるのもどうかなぁ、とは思ってたんだ。でもまぁ、なんつぅか結局ずっと志穂と遊んじゃったんだよな。悪かったとは思ってる。でもさ、別に三人とも混ざってきてくれても全然よかったんだぜ? っていうか、みんなはみんなでずっとおしゃべりしてたじゃん。俺にも絡んでくれよ」

「私たちは、三木と皆藤がずっと遊んでいたからずっとしゃべっていたのだ。なぁ、持田」

『幸久くんがかまってくれないから、みんなですねてた。いじけてたの』

「め、メイちゃん…、その言い方は変だよ……」

「そ、そうだ、私は拗ねてなどいない。そ、そもそも、どうして私が拗ねなくてはならないというのだ。それにいじけてなどいない。私は天方と持田としゃべるのはとても楽しかったし、とても有意義な時間だったと思っているぞ」

「そ、そうだよ、メイちゃん。メイちゃんとおしゃべりするのもすっごい楽しかったよ。幸久君とおしゃべりするよりも楽しかったよ」

「そうだぞ、持田。三木などと遊ぶよりも、遥かにずっと楽しかった。三木とは一年のときからの付き合いだが、先ほどの時間よりも楽しかったことは一度もなかったぞ」

「姐さん、そこまで言うことはない。っていうか、そんなに俺といっしょにいて楽しくなかったってアピールするのはやめて…、心が砕けるから……」

「み、三木は、自分勝手な男だ。気が向いたときだけこちらを向き、それ以外のときは見向きもしない。そうやってこちらに気を持たせて、何人もの女子を手玉に取る悪い男だ」

「りこちゃん…、さすがにそこまで言うことはないよ……。幸久君にも、いいところ、いっぱいあるよ」

「たまに思うんだけど、姐さんは、俺のこと嫌いなの? たまに言うこと厳しすぎるよね……? 俺だって、けっこうがんばって生きてるんだぜ……?」

「じ、事実だ。お前は将来、きっと女に刺されて死ぬ」

「なにそれ予言!? 怖いこと言わないで、姐さん!!」

「三木、お前は異性に対する立ち居振る舞いが玉虫色過ぎる。いつか刺される、絶対だ」

「それは、あの、姐さんが刺すんですか……?」

「わ、私はそのようなことはしない! そのような法に反するようなこと、出来るはずがないだろう!」

「…、それって、俺を刺すのが法に反してなかったら実行することも辞さないっていう……?」

「ち、違うぞ、そういうことではない! 邪推をするんじゃない! 私がお前を刺して、どうするというのだ。というか、私は刃物など使わない!」

「拳でくるの!? 殴殺するの!? 怖い!?」

「きょ、距離を取るな! 刃物を使わないというのは、ただ主義主張の話だ! つまり、わ、私はお前のことなど、なんとも思っていないが、そうでないものが将来現れたならば、そうなるとも限らない、というだけだ。お前は、ただでさえ誤解させるようなことを平気で口走るのだから、気をつけねばいけない、ということを言っている」

「誤解させるようなことなんて言わないって。俺はいつだって公明正大、ウソも誤魔化しもそんなには言わないぜ」

「…、そういうまっすぐすぎるところが、誤解させると言っているのだ……!!」

「…、姐さん、怒ってる……?」

「怒ってなどいない! 私はお前のことを心配してだな……!!」

そんなこと言われても、どう見ても怒ってるか、あるいはいら立っているようにしか見えないわけで。うぅ…、こう強い語調で異性に物を言われると晴子さんのことを思い出してしまうから、どうしても萎縮してしまう……。なんか、口答えしちゃいけないような気がしてくるんだよな…、どうしてか……。そう考えると、晴子さんの調教の成果っていうのは凄まじいものがあるよな。ここまで俺の無意識を縛ってくるんだから、並大抵のものじゃないと断言できるだろう。

しかし姐さんはどうしてそんなに怖いことを言ってくるのだろうか。女に刺されるなんて、そんなのは何人もの女の人を弄ぶような男が言われるようなことであって、俺には当てはまらないではないか。現に俺には彼女の一人もいたことがないし、そもそも俺にもてあそばれている女の子なんて一人もいない。俺なんて、女に刺されることからは最も遠い男の一人といっても過言ではないではないか。…、それは流石に言いすぎかもしれないが、でも、俺が女に刺されるなんて、そんなことあるまいて。

もし本当に刺されるようなことがあるとすれば、それはきっと、俺に対して何らか我慢の限界を迎えた晴子さんのいら立ちによるだろう。ぶっちゃけ、それなら俺が完全に悪いに決まってるんだから、特に後悔はない。というか、晴子さんに刺されるなら、それは師匠からの愛の鞭の延長のようなものである可能性が高いわけで、口答えすることすら間違っているのだ。そもそもそんなことをされる時点で俺が悪いのだから、晴子さんを責めるなんてありえないのである。

「り、りこちゃん…、落ち着いて、ね……?」

「ぁ、あぁ…、すまない。とにかく、お前は少し己の行動を立ち返ってみるべきだ。分かったな、三木」

「わ、わかった。とりあえずよく分からないけど、いろいろ気をつけてみる」

「でも、しぃちゃんはいっしょに遊んでいて楽しいもん、しょうがないよ。あたしたちもしぃちゃんみたいに楽しい子になれば、もっと幸久君が遊んでくれるのかなぁ……」

『しほちゃんみたいになるのは、大変。全然計算してないから』

「っていうか、なんだよ。ちょっと俺が志穂と遊んだだけでそんなこと言うなよ。俺は、霧子とだってメイとだって姐さんとだっていつも遊んでるだろ。今日はたまたまそれが志穂の番だったってだけだ」

むぅ、いったいどうしたというのだろうか。今日に限って、みんなやけに絡むじゃないか。確かに俺は電車の中で志穂との遊び――しりとりに始まり、あっち向いてほい、叩いてかぶってじゃんけんポン等々を経て弁当を食った後は以心伝心ゲーム(相手が今なにを考えているかを推理して当てるという不毛極まりない遊び)に興じていたりした――にのみ集中していたかもしれないが、しかしそれは、確かに俺が悪いのかもしれないけど、別に他の人とそうしていたことだって以前になかったわけではなく、そのときはなにも言わなかったじゃないか。今回だけ。どうしてそんな意地悪を言うんだい。

「霧子とは常日頃遊んでるし、姐さんには風紀の用事がないときは付き合わせてもらってるし、メイとは学校にいる間はけっこうつるんでるじゃん。そのときはなにも言わないのに、どうして今回だけはそんなこと言うの」

『幸久くん、しほちゃんといちゃいちゃしてた』

「してないよ!? さっきの状況を見て、どこからそんな言葉を引っ張り出してきたの!?」

「いや、確かにそうだな。私たちが入り込みづらい感じは、間違いなく出していた。それが具体的にどのような行動によって感じさせられていたのかは言うことができないが、しかし確かにそう感じた。故に私たちはこのように口を出しているのだ。いつも私たちに対しているときとは、何かが違う」

「違くないよ!? ほぼだいたい同じ感じに接してた、っていうかむしろ雑だよ! 志穂の扱いなんて、霧子の扱いに比べれば10倍くらい雑だよ!!」

「そして私の扱いは、皆藤の10倍雑だろう。つまり、私の扱いは、天方の扱いの100倍雑だろう」

「そんなことないよね!? 俺、姐さんのことすっげぇ大事に思ってるよ!? 霧子の100倍も雑に扱ってないよ!?」

「そうやって、無理に言葉を重ねると、誤魔化している感じがより強まって、とても信用ならない」

「俺は、なにも誤魔化してないよ! 俺を信じてくれよ、姐さん!」

「お前の言う『信じろ』という言葉。お前が言うと、どうしてかそうしようという気が起きない。そうか、これが人を信じられないという感情か……」

「姐さんの中で、俺の評価が地に落ちてる!? 俺はこんなに姐さんのことが大好きなのに…、どうして信じてくれないの!?」

「そ…、そのようなことを言われても私は騙されないぞ……!! そうやって、言葉巧みに人を騙すのがお前のやり口なのは、もうとっくに分かっている!! 気やすく、好きとかいうんじゃない!!」

「えっ…、あっ、ご、ごめんなさい……」

「異性に対して、そうやって安い言葉をかけるのは、止めるんだ」

「き、気をつけます……」

なんか、怒られちまった……。これから口をきくときは気をつけなくては……。

「…、じゃあ、俺はどうすればよろしいでしょうか……? 何がいけなかったのかはいまだによく分かっていないんですが、なんとか、なんでもいいから挽回のチャンスを与えてはくれませんか?」

何がいけないのかは分からない。でもなにかがいけないらしい。それなら何とかして何かするしかない。でも何をすればいい? 分からないならば聞くしかない。教えてくれるかは分からないけど、ここは勇気を持って聞いてみるべきなのだ。

「まずは、なにがいけなかったのかを理解することが先決だと思うが? なんでもかんでも、人から聞けばいいというものではない。自分のよくないところは自分で気づかなくてはまったく身にならない。つまり、今までの己を省みて、なにがいけないかを理解するんだ」

「…、がんばります……」

それが分からないから聞いてみたのだが、しかしどうやら今回姐さんは俺にそれを教えてくれる気はないらしい。他人に聞いてばかりではなく少しは自分の頭を使え、という意見にはまったくもって同感なのだが、しかし自分が言われるとこれほど辛いこともないな。考えても分からないから聞いてるのに、考えろって切り捨てられるのはけっこうキツい。これから志穂に同じこと言うの、控えるようにした方がいいかもしれない。

とりあえず、今までの自分について少し考え直してみるか。そうしたら姐さんが言ってることも分かるかもしれないし、何か俺自身も見落としている俺の欠陥みたいなものも見つかるかもしれない。というか、見つけられないと姐さんに顔向けできないから、とにかく何かしら見つけられるようにがんばることにしよう。

「それで三木、私たちはこの後はどうしたらいい。確か去年は歩いて直接旅館まで向かう、ということはなかったように思うが」

「あぁ、えっと、去年と同じで車回してくれることになってるから。駅前のロータリーまで出れば、たぶん見つかると思う」

「そうか、それではそこに向かうことにしよう。いくらこちらが客とはいえ、迎えに車を回してくれた人を待たせてしまうわけにはいかないからな」

「りこたん、でんしゃのつぎは、くるま?」

「あぁ、そうらしい。去年も乗っただろう、白のミニバンだ。覚えていないか?」

「ん~、あんまおぼえてない~」

「メイちゃん、車酔ったりしない?」

『平気。乗り物酔いはしないから』

「そっか、よかったよ。気持ち悪くなっちゃう人は、ちょっと乗っただけでもダメっていうから」

『きりちゃんは平気?』

「うん、平気だよ。あんまり長い時間乗ってるとダメなんだけど、少しの間だったら全然へっちゃら」

「霧子は、車の中に三時間以上拘束されるとダメなんだよな。小学校のバス遠足とか悲惨だったの、よく覚えてるぞ。顔、真っ青にしてさ、うわ言みたいにきもちわるいきもちわるいって呻いてるんだ。あれは、傍から見てるだけでも心が折れそうだった」

「にゅ…、それは、ないしょだよ、幸久君……」

「そうだっけ? あ~、ごめん、じゃあ、聞かなかったことにしてくれ」

「車酔いは体質のようなものだ、仕方があるまい。まぁ、それが分かっているのならば無理をすることもないだろうし、しっかり気をつけていれば問題あるまい」

「車だけダメなんだよ。飛行機は乗ったことないから分かんないけど、他はみんな平気」

「そうか、それならば車だけ避けていれば問題ないのだな。よかったな、天方」

「うん、これで電車にも乗れなかったら、遠くにいけなくなっちゃうもん」

「霧子は、いろんなものがピンポイントでダメだからなぁ……。乗り物は車だけダメだし、フルーツはブドウだけダメだし…、っと、あれか。あの車だな、たぶん。去年見たのと同じやつだ」

そして俺たちは、駅の構内から一歩を踏み出し、ようやく真の意味で目的地へと到着したのだった。向こうのロータリーの入口あたりに、どうやら俺たちがこれから乗るであろうミニバンが停車しているのが見える。

時間的には、こちらが指定した到着時間から五分とずれていないから、おそらくそこまで待たせたりはしていないだろう。さて、これでこの旅行、いろいろ考えたりするのはおしまいだ。あとはもう右から左からやってくる接客をただ受けているだけでいい。何も考えずにゆっくりすることができる時間の、なんと喜ばしいことか。今回の旅行でも、おそらくそれを存分に満喫することになるだろう。

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