3.14159……
「谷崎くん、ちょっとアソコがむずむずしちゃって。家、入ってもいいかな?」
今日はとても天気が悪かった。雨粒は上着の中身をはっきり透かしていた。
いや、たとえ雨に頼らずとも、透かして見ることは容易だった。あの人は昔からそうだった。自意識という監獄に囚われていない。籠の外の鳥と同じだ。つまり、白いニットに一切の躊躇なく、黒のブラという組み合わせができるのだ!
原点にして頂点!エロスの極みなり!これほど背徳感に苛まれたことはない。視線のやり場に困ったことこの上ない。胸を見れば変態そのもの。目を合わせる勇気はない。じゃあ、首元を見ればいいじゃないかと、そうもいかない。目線が3.14のメロンに釘刺しにされてしまうのだ。
いやいやいや、それでいい。こんな天気、そんな格好、全て相手の思惑通り。そうに違いない。きっとそうだ。男に魅せるための配色に違いない。白に滲んだ肌色に対をなす黒。おまけに言ってくれたじゃないか。むずむずしていると。
物思いに耽ること5秒ほど。
「谷崎くん?」
「あ、あ、ああ、どうぞ?お構いなく」
「え、いいの?こんなにビチョ濡れなのに。ガチで、ありがと!」
「タオル持ってこよっか?」
「うん。お願いしたいな。あと、急に凸って太々しいとは思うんだけど、シャワーも貸してくれる?あと出来れば、上着も一枚でいいから貸してほしいなあ」
脳内会議続行。選択肢は二つある。
一つ、上着を貸す。想い人が自分の男物のシャツを着てるときほど、犯罪じゃない犯罪臭はない。
二つ、上着を貸さない。こうなれば、想い人はシャワー後もずっと裸になるからだ。
三つ、シャワー中に、いやなんでもない。
「あるよ!もちろん、サイズ合ってないし、男のやつしかないけど、それでいいなら」
「何でもいいよ!それに谷崎くんの服だったら、着てる間ずっと谷崎君を感じられるから。ううん!何でもないから!今のは忘れて!」
「はーい忘れた!いや、何のこと?」
「ほんと、いい子」
ポタポタとザーザー。ぴちぴちとゴシゴシ。そんな音が、ドア一枚とすりガラス一枚の向こうから。ドア一枚くらいは越えていいとして(いやよくない)、越えたとしよう。そしたら、見えるものは絶景だ。肌色のシルエット、艶かしいボディライン、バストのボリューム。どんな趣向品でも敵わない。三代欲求の一角。
僕は扉を越えた。一枚分だ。
普段の妄想よりも何倍も華奢で、その割に確かな質量が胸に宿っている。少し弛んで下に傾いている。
僕はタオルを置いて、洗面室から去ろうとした。
ガラス戸が引かれて、秘密の園が開放された。
見えたのは絶景だった。
胸は服の上から見るよりもふっくらと大きくて、タプタプしてた。動くたびに縦横無尽に小刻みに振動している。安産型、だろうか。それとも、骨格ウェーブ、と形容したほうがいいだろうか。とにかく、肋骨から骨盤までがくびれて、緩やかな曲線になっていて、お尻が1番デカい。いや、胸かも。
下から上へ、上から下へ視点が右往左往する中、乳首の辺りを眺めてたら、屈んだ彼女と目があった。
「谷崎くん!タオル持ってきてくれてありがと!」
彼女は赤い頬をそのままに、タオルで身体を拭き始めた。内側から外側へ、外側から内側へ、タオルが水滴を拭き取っていく。その後、タオルを頭に巻いてお団子にした。
「上着持ってきてくれた?ないならこのままでいいよ。全部貸してもらうのも悪いしさ」
「じゃあ、じゃあ、いや、あ、寒いでしょ、こ、これ着なよ」
僕は咄嗟にワイシャツのボタンを外して、彼女に手渡しした。彼女は、しばらく固まったのち服を受け取って自らを覆った。彼女は首を傾け、両手を広げて微笑んだ。
「ボタン、つけてくれる?男の子のボタンって、女の子のと逆だからさ」
確信犯だ。彼女の顔から首元、胸元のあたりまでがほんのり赤く染まっている。シャワーだけのせいじゃない。恥じらいのせいだ。それと、性欲のせいだ。
そうだ、彼女は僕が欲しいんだ。
そして、僕は彼女が欲しいんだ。




