さよならと好きな人の薬指
「もう先輩飲み過ぎです……」
「だってあんたの送別会よ。そりゃめいいっぱい盛り上げて、楽しい雰囲気で送り出したいじゃないの……うぇ〜」
「吐かないでくださいよ」
転職のため退職する私のため先輩が企画してくれた送別会。
それが終わりデロデロに泥酔した先輩を担ぎながら駅へと向かっている。
なんで私が……一応この会の主役だよな……と思いながらも先輩を見捨てずにしっかりと担ぐ私のなんて健気なことか。
そんな軽い自己陶酔にも似た賛美をしつつも、ある疑問が鎌首もたげていた。
「なんでそんな飲んだんですか、ほんと」
先輩は言ってしまえば自己管理がしっかりしてる人だ。仕事にしろプライベートにしろ、自分のキャパ以上のタスクは抱え込まない。
ましてや他人に迷惑をかける姿なんて見たことがない。
そんなしっかりとした先輩がなぜ……?
「だってさぁ、もう来月からいなくなっちゃうんでしょ」
「だからってそんな飲むことないでしょ」
私がいなくなることと先輩が浴びるように酒を飲むことの因果関係が分からず……これだから酔っぱらいは……と前後不覚になるまで飲んだ先輩に内心毒づく。
「寂しいんだー!!! 私はー!!!」
「ちょっ、先輩うるさいですって……!」
唐突に叫び出した先輩に、こいつここで置きざらしにしてやろうか……と真剣に検討し始めると、
「辞めないでよ」
真剣な声音で先輩はぼそりと言った。
「辞めますよ」
「なんでさ……」
そう言いながら私の肩口に頬を寄せる。
そのままスリスリと甘えるように私に擦り付けた。
やめてほしい……本当に……。
手に入らないから苦しいのだ。
欲しいものが既に誰かのものになってるから苦しいのだ。
私の想いは叶わないのにずっと傍で思い続けるなんて、そんな悲劇に浸るような乙女みたいな恋、少女漫画の中だけで十分。
苦しいから、離れるのだ。
「先輩……」
「ん?」
「結婚おめでとうございます」
「それ、いま関係なくない……?」
「ありますよ。おおありです」
たとえ別れを惜しまれようと、たとえ私のことをどう思っていたとしても……私にはもう関係ないことだ。
だけど最後に、こうして少しの間先輩を独り占めするのだけは許して欲しい。
誰に許しをこいているのかは自分でも分からない。
でもそう願わずにはいられなかった。
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