3-3. マッサージの可能性と店開業の決意
「はぁ…なんか、すっごいスッキリした…♡」
雷魔法を使った肩のマッサージが終わると、彼女はうっとりした表情で肩を回した。
「これ、肩だけじゃなくて全身やってもらえたりする?」
「え?」
「だって、すごく気持ちよかったんだもん! 肩だけじゃなくて、腰とか背中もお願いしたいな~」
俺は少し考えた。ここまで来たら、試してみるのも悪くない。
「まあ、別にいいですけど…」
「やった! あ、そういえば、2階に住んでるんだよね? じゃあ、ベッドでやってよ」
「ベッドで?」
「だって、座ってるとやりにくいでしょ? うつ伏せになってたほうが、絶対気持ちいいよ」
理屈は分かる。が、さすがにいきなりベッドでというのは少し躊躇する。
「大丈夫、大丈夫! 気にしないで♪」
彼女の勢いに押され、俺は結局2階へ案内することにした。
◆
「それじゃ、失礼しますね」
「はーい♪」
彼女はベッドにうつ伏せになり、俺は背中に手を置いた。
まずは肩と同じように、軽く雷魔法を帯びさせながら、背中を押していく。
ビリ…ッ
「あっ…♡ うん、やっぱりいい感じ~」
「痛くないですか?」
「ぜーんぜん♪ もっと強くてもいいかも!」
言われた通り、少し強めに圧をかける。
ビリビリ…
「あぁ…♡ すごい…なんか、全身がじわ~ってほぐれてく…♡」
俺の手のひらから伝わるのは、筋肉の緊張が徐々に解けていく感触。雷魔法が微細な刺激を与え、血行を促進しているのかもしれない。
「…そういえば、この町にマッサージ店ってあるんですか?」
「ん~? あるよ?」
「え、そうなんですか?」
「うん、でも…そこより絶対こっちのほうが気持ちいい…♡」
彼女はとろんとした表情で呟いた。
「そっちのマッサージも悪くはないけど、やっぱり普通の手もみでしょ? こんなビリビリ~って気持ちよくなるやつはなかったよ…♡」
(つまり、俺のほうが圧倒的に上手いってことか…)
「……もしかして、俺のほうが上手いってことですか?」
「うん、間違いなく!」
彼女は迷いなく即答した。
「今までいろんな方法で肩こりを解消しようとしてたけど、こんなに気持ちよくなったのは初めてだよ~♡」
(マジか…)
思いがけない評価を受け、俺はふと考え込んだ。
(俺の才能…戦闘では役に立たない。でも、これなら…?)
自分の魔法の才能を活かせる場は、戦場ではなく、人々の疲れを癒す場所なのかもしれない。
「……ちょっと、試しにやってみるか」
「え?」
「マッサージ店、開業してみようかなって」
ぽつりと呟いた俺の言葉に、彼女はぱっと顔を上げ、にっこりと笑った。
「それ、絶対いいと思う! 絶対、流行るよ♪」
俺はそんな彼女の反応を見ながら、ふと気づいた。
──彼女の息遣いが、さっきよりも微かに熱を帯びている。
──顔はまだほてりが残っていて、目は潤んでいる。
──そして、俺を見つめる視線が、どこか誘うような甘さを帯びている。
「ねぇ…」
柔らかい声が、俺の耳元に届く。
それが何を意味するのか、考えるまでもなかった。
──このマッサージには、思った以上の効果があるらしい。