3-2. 快感の再現と肩こりマッサージ
翌朝、家の扉を叩く音がした。
(……誰だ?)
まだ町の知り合いはほとんどいない。何かの勧誘か、それとも昨日の女の子が文句を言いに来たのか──
扉を開けると、そこには昨日の彼女が立っていた。
「あ…おはようございます!」
予想外に明るい笑顔。抗議しに来たわけではなさそうだ。
「えっと…どうかしました?」
「昨日のことなんですけど…」
彼女は少し頬を赤らめながら、もじもじと足元に視線を落とした。そして、意を決したように顔を上げる。
「もう一回、やってもらえませんか?」
「……え?」
俺は一瞬、何の話かわからなかった。
「ほら、昨日…肩にビリビリってきたやつです!」
(……まさか)
「えっと…痛くなかったですか?」
「最初はびっくりしたけど、なんか…気持ちよくて」
「気持ちよくて?」
「うん、肩がふわ~って軽くなって…もう一回試してみたくて」
(いやいや、そんなわけ……いや、待てよ)
確かに、電気を使ったマッサージ器みたいなものは俺の世界にもあった。低周波治療器とか、整体の電気刺激療法とか。もしかすると、俺の雷魔法も似たような効果を生んでいるのか?
「……まあ、いいですけど。でも、本当に大丈夫ですか?」
「うん! ぜひお願いします!」
彼女の期待に満ちた瞳に圧され、俺はしぶしぶ家の中に招き入れた。
◆
「じゃあ、肩に軽く触れますね」
「お願いします♪」
彼女は俺の前に座り、俺は後ろから肩にそっと手を置く。指先に微弱な魔力を込めると──
ビリッ…
「あっ…♡」
(……ん?)
思った以上に色っぽい声が出た。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん…っ、これこれ、この感じ…!」
彼女の肩がふっと緩む。心なしか、呼吸も深くなっているように見えた。
「もっと強くしてもいいですか?」
「うん、もうちょっとだけ…」
少し魔力を込める。バチッ…と微弱な電流が流れると──
「あっ…ん♡」
(いや、待て待て待て)
「大丈夫ですよね? 痛くないですよね?」
「うん…すごく気持ちいい…♡」
彼女はとろけるような表情を浮かべながら、肩をくいっと前後に動かした。
「……それじゃあ、肩を少し揉みますね」
「うん、お願い…♡」
言われるがままに、俺は肩を指圧する。雷魔法を帯びた指先がじんわりと刺激を与えると──
「っ…んんっ♡」
彼女の声が甘く震えた。肩が徐々にほぐれていくのが、俺の指先にも伝わる。
「はぁ…なんか…今までで一番気持ちいいかも…」
「そ、そうですか…」
(いや、なんかやばい雰囲気になってないか?)
彼女はうっとりとした表情で俺に身を預けていた。
──雷魔法。微弱すぎて戦闘には使えないと思っていたが、まさかこんな形で効果を発揮するとは。
しかし、この時の俺はまだ気づいていなかった。
これが、俺の人生を大きく変える転機になるということを──。