3-1. 雷魔法の練習と女の子の反応
才能がないと分かっていても、魔法のことばかり考えてしまう。
他にやることがないというのもあるが、それ以上に、この世界に召喚されてから魔法を使えること自体が新鮮だった。
「…ちょっとは、コントロールできるようになったか?」
俺は指先に意識を集中させる。
ビリッ──
軽い刺激が指の先に走る。微弱な雷魔法。静電気のようなものだ。
さらに魔力を込めると、パチッと少し強めの電気が弾けた。といっても、せいぜいドアノブを触ったときに感じる程度。これを攻撃に使うのは、さすがに無理がある。
「うーん…やっぱり役に立たないよな」
静電気を自在に操れたとして、いったい何に使えばいいのか。
俺は深いため息をつきながら、街へと出た。
◆
魔法の練習を続けながら、大通りを歩く。
市場には活気があり、行き交う人々が元気な声を上げていた。屋台では焼きたてのパンや串焼きの肉が売られ、漂う香ばしい匂いが食欲を刺激する。
(こういうところは、現代の商店街と変わらないな)
指先に魔力を込めつつ、何となく景色を眺めていると──。
向こうから一人の女性が歩いてきた。
(あの子、近所の…)
何度かすれ違ったことのある女の子だ。年齢は20代半ばくらいだろうか。柔らかそうな髪を後ろで軽くまとめ、大きな瞳が印象的な美人だった。そして、何より──。
(……胸、大きいな)
俺も男だ。胸が大きい女の子は好きだ。
とはいえ、話したことはほとんどない。ただ、たまに顔を合わせると、軽く挨拶をする程度の関係だ。
「こんにちは」
「……あ、どうも」
彼女が微笑みながら通り過ぎていく。俺も軽く会釈しながら、そのまま歩こうとした──が、ふと気になって振り返った。
(肩に…ゴミ?)
彼女の肩に、小さな埃のようなものが付いていた。
「すみません、ちょっと」
自然と手が伸びた。彼女の肩にそっと触れ、ゴミを払う。
その瞬間──。
「ひゃっ…!」
小さな悲鳴。
俺は一瞬何が起こったのかわからず、彼女を見た。
彼女は肩を押さえ、少し驚いたように俺を見上げていた。
(……あ)
静電気が走った。
「ご、ごめん! ちょっと静電気が…」
「あ…いえ、大丈夫です…びっくりしましたけど…」
彼女は苦笑いしながら、肩をさすっている。
(完全に俺の雷魔法のせいだな…)
電撃といっても、本当に軽い刺激だ。ドアノブに触れたときにバチッとくる程度のもの。とはいえ、いきなり人に帯電させるのは、さすがに申し訳ない。
「本当にごめん、それじゃあ…」
俺はそれ以上何も言わず、その場を立ち去った。
◆
(……使い道がないどころか、むしろ邪魔かもしれないな)
魔法が使えても、役に立たなければ意味がない。
それどころか、人に迷惑をかけることもある。
「……はぁ」
俺はため息をつきながら、家へと戻ることにした。