2-2. すべての属性を操るがやはり役立たず
特にやることもない日々が続いた。
朝起きて飯を食い、魔導書を読む。そして、家の一階で魔法を試す──そんな繰り返し。
「…まあ、これはこれで楽しいけどな」
広い店のスペースは、魔法の練習場として最適だった。誰にも見られずに試せるし、多少の失敗をしても問題ない。
俺は研究職として仕事をしてきたからか、未知のものを試すことにワクワクする性分らしい。
魔法の詠唱、魔力の流し方、エネルギーの制御。少しずつ理解しながら試行錯誤を重ねた。
◆
「…火よ」
指先に意識を集中させると、ぽっと小さな炎が灯った。まるでロウソクの火のような微弱なもの。
「水よ」
今度は、指先からちょろちょろと水が流れた。コップ一杯にも満たない量だ。
「雷…!」
バチッ──!
静電気程度の微弱な火花が散る。痛みはない。むしろ、ちょっとくすぐったい程度。
「…やっぱり弱いな」
何度試しても、どの魔法も威力が低すぎる。攻撃どころか、日常生活でもほとんど役に立たないレベルだった。
けれど──。
「……できる、んだよな」
すべての属性の魔法を使えた。
火、水、風、土、雷、氷、光、闇、回復、そして素材を軟化・硬化させる魔法まで。
これは、普通じゃない。
「…やっぱり俺、レアだったんだな」
賢者は「ランク1」と言ったが、魔力の制御自体は抜群に良い。だからこそ、微弱な魔力でも無駄なく使えているのかもしれない。
◆
一通りの魔法を試し終えたころ、俺はふと魔法屋の店主の言葉を思い出した。
──「魔力が低いと攻撃魔法は難しい。しかし、それだけで魔法が使えないと決めつけるのは早いぞ」
確かに、魔力が低くても魔法は使える。ただ、使い道がわからないだけだ。
俺は店主に相談してみることにした。
◆
「──何!? 全属性!?」
魔法屋に行き、これまでの成果を話すと、店主は目を見開いた。
「ま、まあ威力は低いんですけどね」
「それでも驚きだ…普通、魔法の適性は2~3系統に限られる。最高ランクの賢者でも5系統が限界なのに…」
店主は唸るように言った。
「だが…その威力では、戦闘はもちろん、日常でも使い道に困るな」
「…やっぱり、そうですよね」
「しかし、何か活かせる道があるはずだ」
そう言われても、今のところ思い当たるものはない。
微弱な魔法を持ち、すべての属性を扱えるが、使い道がない──。
俺は異世界に召喚されたというのに、ここでも“役立たず”のままだった。