1-1. 特別な召喚儀式と勇者候補
1-1. 特別な召喚儀式と勇者候補
暗闇の中で、意識が浮かんでは沈む感覚に襲われる。
ふわりとした浮遊感の後、一瞬、全身を貫くような鋭い光が走った。
「──成功しました!」
誰かの声が響く。それと同時に、眩い光が視界を覆い、思わず目を細めた。
(なんだ…? 俺は……)
思考がうまくまとまらない。最後に覚えているのは、オフィスの明かりの下、山積みの資料とにらめっこしていたこと。徹夜の疲れで意識が遠のき──気づけば、ここにいた。
視界が徐々に開けてくる。目の前には、巨大な魔法陣が淡く光を放っていた。円形に刻まれた複雑な紋様が、まだ揺らめくように残っている。周囲には、見慣れない衣装をまとった男たちが並んでいた。中央に立つ壮年の男は、金の装飾が施された豪奢な衣服を身にまとっている。威厳のある面持ち──王の風格を持つその人物は、俺を見据えていた。
「おお…! ついに、新たなる勇者が──!」
王が感慨深げに言葉を紡ぐ。それを聞いた周囲の男たちも、静かな興奮を滲ませていた。どうやら、彼らは俺を「勇者」として召喚したらしい。
(勇者召喚…? まさか異世界転移ってやつか?)
この状況を考えれば、それ以外に説明がつかない。
魔法陣、異国風の装束、そして「勇者」という呼称──。これは、俺がよく知る物語の世界に似ていた。
しかし、そう簡単に現実を受け入れられるわけもなく、俺は軽く拳を握り、手の感触を確かめた。違和感はない。夢ではなさそうだ。
「勇者殿、まずはご無事な姿を見られたこと、喜ばしく思います」
そう言ったのは、王の隣に控えていた白髪の老人だった。細身の体に長い杖を持ち、その佇まいからして、賢者か魔法使いの類だろう。
「…俺は、どうしてここに?」
「あなたは、この国を救うために選ばれし勇者。我らの召喚術によって、この地へ招かれました」
(やっぱりそうか…)
俺は無言のまま周囲を見渡した。荘厳な石造りの広間、天井は高く、壁には美しく繊細な文様が刻まれている。空気は張り詰め、場違いなほど静寂に包まれていた。
「召喚の成功、誠に喜ばしいことでございます」
「しかも今回は、『レアな魔力の持ち主』を呼び寄せる術式を用いたのです」
口々にそう話す貴族らしき男たちの顔には、期待が満ちていた。彼らの視線が、俺に向けられる。その中には、まるで研究対象を見るかのような興味深げな眼差しもあった。
(レアな魔力…?)
召喚術の詳細はわからないが、どうやら「特別な何か」を持つ者が選ばれる仕組みらしい。俺が選ばれた理由は…?
「まずは、魔力の測定を行いましょう」
賢者が言葉を紡ぐ。俺の運命を決定づける瞬間が、迫っていた──。