7年前の出来事
夕食後オレはランプを片手に城庭の見回りに出ると7年前に火事があったあの丘にやってきた。朝に見た時から何か気にかかっていたのだ。
下の草は生え変わっているが周りの木々は何本か焼跡が残ったままだ。
(まてよ。そもそも何故こんな場所で火事が起こったんだ?)
(火事が起こった日オレは何してたんだっけ?)
そのとき頭の中で小さい頃のディーアが泣き叫ぶ姿がフラッシュバックした。
(あの日オレとディーアはここにいたんじゃないか?)
次に頭の中で視界が回転する映像と背中が何かにぶつかって止まり地面が近づく場面が見えた。
(そうだ、確かあのときは・・吹っ飛ばされて木に激突して・・それで・・)
(今にも途切れそうな意識の中、見上げると辺りが火に包まれていた!)
(オレはやはりあの時ここに居たんだ。でも何が起こったんだろう?)
記憶の断片を頼りに他の記憶を呼び覚ましていく。それは朝起きたら忘れてしまっている夢の内容をたまたま思い出した一場面を頼りに思い起こすやり方に似ていた。
(暴走した力・・・炎・・・ルーア様・・・あなたを助ける・・・お願い・・・)
(・・!! あのときはディーアの力が暴走して近くにいたオレを吹き飛ばして辺りを炎で包んだんだ。それをルーア様が止めてくれて・・)
ジャリ!という地面を踏む音とオレの背中に何かが当たった感触がほぼ同時にした。
「ウゴカナイデ。ココデナニヲシテイルノ?」
(油断した!まさか真後ろまで接近に気づかないとは!・・でもこの声は・・・ディーア?)
「あ、あの頭だけ振り返ってもいいかな?ディーア?」
「ユイゴンナラキイテアゲルワ」
恐る恐る振り返るとそれは確かにディーアだが目が金色に光っている。
背中には彼女の手がピッタリと突きつけられており、今にもオレの体を貫かんとしていた。
(あ、コレ死んだ)
――DEAD END――
「で、いつまで死んだふりしてるの?」
「ごめん。目が本気だったから逃げられないと思って。それにこっちからは攻撃できないし。」
「クスクス、ジントくん。アナタどこかあの人に似ているわ。」
そこでオレは違和感に気づいた。
「まさか・・・ルーア様?」
「そうよ。驚かせてごめんなさい。でもこんなに近くまで来てるのに気づかないなんて。ちょっと油断しすぎじゃない?団長に油断するなって教わらなかった?」
・・言われてました。
「すいません。。いや!それよりもルーア様、これは一体どういうことなんです?」
「そうね。アナタは7年前のこと、どこまで思い出したの?」
「えーと、確かディーアの力が暴走してオレを吹っ飛ばして、辺りを炎で包んで、それをルーア様が止めてくれたということまでです。」
「1回目のことは?」
「1回目?」
「そう。本当に何も覚えてないのね。いいわ、教えてあげる。少し長い話になるわよ。」
(お茶とお茶菓子が欲しいところだ)
―――7年前―――
いつものようにあの丘を駆け回っていた二人。
綺麗な花でも見つけたのか彼女が立ち止まり、そしてこちらを振り向く。
でぃーあちゃん
(ねえ、じんとはずっとわたしといっしょにいてくれる?」
彼女は眩しいくらいの笑顔と無邪気さでそう問いかける。
じんとくん
「もちろん、おれはおまえのないとだからな。」
「ほんとう?うれしい。」
「じゃあ、わたしのないとさまにはくんしょうをあげましょう」
ディーアがオレの胸ポケットに一輪の花を差し込む
「ありたがくちょうだいいたします。おうじょさま。」
「あなたにえいえんのちゅうせいを。」
「ちゅーせいってなに?チューするの?じんとのえっち。」
「ち、ちがうよ。ちゅうせいっていうのは・・・」
オレが話しかけたその時ディーアがその場でうずくまった。
「だから、ちがうんだ・・。??ディーアだいじょうぶ?」
ディーアがさっきまでとは違い苦し気な表情を浮かべていることに気づいた。
「なんだかきゅうにねつっぽくなってきたの。」
「そういえばなんかかおがあかいぞ。しろにもどったほうがいいな。あるける?」
「あ、あつい、、、からだが、、、あああ」
見ると彼女を包むオーラ?みたいなものが赤く渦巻いている。
「ディーア!」
ジントが近づいて触れようとした瞬間
「あああああああああ!」
ジントは体の前面全体に衝撃を受け吹っ飛んだ。次の瞬間には木にぶつかり今度は背中に大きな衝撃を受け、
「ごふっ!!」息が止まるのと血を吐くのが同時に訪れた。
遠のいていく意識を必死で保ちながらディーアの方に目を向けると
彼女を中心に炎が広がってきている。
(ディーアを助けないと、、、でも、動けない、、、)
今にも途切れそうな意識の中
(もし、このままオレがここで死んだらディーアを悲しませてしまう)
(オレはディーアと一緒にいるってさっき約束したばかりじゃないか)
(この結末は受け入れられない!)
ジントの右手の甲が光り、模様が浮かび上がった。その右手を持ち上げながら詠唱する。
「「立ち止まり振り返ってごらん。キミの歩いた道筋を。その結果としての今を。もう気づいた筈だ、ここはキミが来るべき場所ではないと。さあ今こそ砂時計を逆さに返しもう一度同じ朝を迎えよう。 今再びの朝」」
最後の力を振り絞り彼はこと切れる寸前に詠唱を終えた。同時に力は発動し世界は再び動き出す。