新国王就任演説
「遅い!喝つつつ!!!」
やっぱり怒られた。
英雄ヤギウ。御年75歳だがとりあえず口はまだ達者だ。
先々代のディナル王と共に王国を建国した立役者。その後ゼクタ王と共に王国の基盤づくりに尽力。
全盛期は魔族の大群を一撃でぶっ飛ばしたって話だが、さすがに少し盛っているよね。
でも師匠が強いのは確かで今でも本気でやって勝てるかはわからない、あなどれない爺さんだ。
「明日の警備体制じゃが、ワシは王城内でムルタさまと姫様の傍に控え城内外の警備指揮を執る。ジント、お前は民衆の集まる広場で怪しい者の取り締まりをせい」
ちなみにオレはどこかの部隊に所属しているわけではなくヤギウ師匠の直属部下として動いている。
「お任せください師匠。まあ王都は広いので治安があまり良くないところもありますけど他に比べたら平和ですからそんなに心配ないでしょう。もし怪しい奴がいたらすぐに捕まえてやりますよ。」
「ジントよ。」
「?」
「大切なものを守りたいと思うのであれば油断するでない。油断は隙に繋がる。敵がいつも自分の想像の範囲内で動いてくれるとは限らぬ。
それにーー敵は外だけにおるものでもないのじゃ。」
「まさか。」
ジントは明日何かが起こるとも、王城内に敵がいるとも思えなかった。
けれどもそういえば最近誰かに見られているような視線を感じることを思い出し
「油断しないように警戒します。」と口にした。
翌日――正午前――
広場では特に混乱もなく多くの民衆が集まって新国王の登壇を待っている。
オレは民衆の中に紛れ新国王の登場を待つことにした。
(!?)
(まただ、どこからか見られている!)
オレはあたりを見回した。するとこちらへ向かってくるケンと目が合った。
「おーい、ジーン!」
「何だよ、ケンか、脅かすなよ。お前もここで演説聞くのか?」
「ああ、僕たちは文官だからね。警備は軍に任せて新国王の就任演説を記録するのさ。」
「ん?僕たち?」
「ジ~ン~ニ~イ~~ アタシのこと無視するなんていい度胸じゃない。」
「ごめん。ヒカリ。小さくて見えなかったんだ。」
「何ですってえ~?」
そのとき広場に面した城壁上部に設けられた公演場にムルタ新国王とディーアが姿を現した。少し後ろにサハリ司祭が控えている。サハリ司祭はこの王国の国教であるオーリアス教の司祭で王城の一角に教会もある。司祭の奥にヤギウ師匠とガリオラの姿も見える。
ここからは見えないがルリ姉もディーアの近くにいるはずだ。
「我が王国民よ。」
ムルタ新国王の演説が始まった。
「先の我が兄、ゼクタ王の急な崩御に皆心を痛めていることと思う。
ゼクタ王は父ディナル王とともにこの王国を築き、ルーア妃とともに隣国メルサリスとの関係を深め、王国の安定を築いた偉大な王であった。
その功績はこの王国史に永遠に刻まれるであろう。
本来であれば次の国王には2人のお子であるディーア王女が相応しい。
しかし王女はまだ成人されておらず今すぐに国王になられるのはご負担が大きい。
そこで私は王女が成人されるまでの間、国王に就任することを決意した。
任期わずかの国王ではあるがゼクタ王の弟としてこの王国を平和と繁栄へと導いて見せよう!
今ここにオルメン王国第3代国王に就任することを宣言する!!」
ムルタ新国王万歳!!民衆の歓声が上がっている。
「良い演説だったね。」ケンが話しかけてきた。
「ああ、そうだな。なんて言うか決意が伝わってきた。」
「ううん、それだけじゃないよ。この国への思いと家族への思いがこもってた。
アタシにはそう思えたな。」
「ああ、本当にそうだな。」オレはヒカリの頭をナデナデしてあげた。
「ちょっと、アンタ何すんのよ~~!子ども扱いしないで!!」
バキッ!!(痛)ヒカリ、なかなか良いグーパンチだ。。。
その後、国王就任の教会での儀式の警備を終えシャワーを浴びて部屋に戻るとベッドに横たわった。
(疲れたが、何も起こらなくて良かった。今日の選択は正しかったということだろう。)
ところでオレには不思議な力があると思っている。
思っているというのは自分にはその力を使った記憶がないからだ。
でも今日はもう眠いからその話はまたの機会にしよう。