始まり
40年後――
新国歴55年
1人の少女が1枚の写真を見つめている。
その中では若い父と母が笑顔で映り、周りの人々から祝福されていた。
写真の中の人々は、みな笑顔だ。
だが少女はその写真を見つめながら涙していた。
「お母さま、どこへ行ってしまったの。。。」
オレはドアがきちんと閉まっていなかったためか隙間からディーアが写真を見ながら泣いているのが見えてしまった。
彼女はディーア。先代のゼクタ王とルーア妃の一人娘だ。
一月前に先代のセクタ王が長年の無理がたたって亡くなっており、ルーア妃は7年前に突然姿を消してしまっていた。何故かルーア妃が姿を消した後には部屋に金色の宝石の付いたネックレスが残されていた。
ディーアはこのネックレスを片時も離さず身に着けている。
赤色の髪に少し赤みがかった澄んだ瞳。
美男美女だった先代王夫婦の娘だけあってまだ14歳だがかなりの美少女だ。
(今はそっとしておこう。)
音を立てないようにドアをそっと閉め、足音を立てないように歩き出す。
(!?)
その時後ろから視線を感じて振り返った。が、そこに人の気配はなかった。
(気のせいか。)
このところ何度か誰かに見られているような気がするときがあった。
(疲れてるのかな。)
ジントは再び歩き出す。
オレは小さいころにヤギウ師匠に拾われてこの城に来た。
どうも精霊と人間のハーフらしくオレが物心つく前に両親が死んだ後どこからも引き取って貰えなかったらしい。
ジント=アルアロス それがオレの名前。アルアロスは生みの親の苗字だったようだがジントというのは師匠が付けてくれた名前だ。割と気に入っている。
年齢はディーアより1つ上の15歳。ちなみにディーアと呼び捨てにしているのは小さいころから兄妹のように育ってきたからで、もちろん人前ではディーア王女と呼ぶ。前に一回人がいる前で呼び捨てにして師匠にぶん殴られた。
(あれは痛かったなあ。まああの程度で済んで良かったのだろう。)
「こんなところでナニしてんだジン、さぼりか。」
気さくに声をかけてきたこいつはケンシー=ナダ なんとあの兵士Aと妖精族の母親との間に生まれたハーフだ。年が同じこととオレと同じくヤギウ師匠のもとで修練していることもあってコイツとコイツの妹のヒカリとは幼馴染のような間柄となっている。
「そういえば聞いたかジン。次の国王にはムルタ様が就任するってよ。」
お忘れの方も多いだろうがムルタは先代セクタ王の弟君である。
「まあいつまでも国王不在というわけにはいかないしディーアはまだ14歳だし順当といったところか。」
「新国王就任演説が明日の12時からと決まったそうだからジンも忙しくなるんじゃないか。」
「そうなのか。じゃあ急いで師匠のところに向かうよ。じゃあなケン。」
ちなみにオレは軍所属だがケンは文官で王国大臣のガリオラの下で働いている。
どうもオレにはあの政というのが性に合わない。
オレは師匠のように王国の平和を守る強い団長になるぞ。いや、なろう。
「ジン兄。」
師匠の元へ向かう途中でサイズ小さめの女官さんに呼び止められた。
この小さくてかわいらしい少女はケンの妹のヒカリ。年はディーアの1つ下の13歳である。また兄と同じく頭が良いのですでに女官として王城内の管理などの仕事をしている。
「ヒカリか。どうしたさぼりか。」
「アンタと一緒にしないでよねっ!そんなことよりケン兄見なかった?
次の予算のことで相談があるって言ってたのに、、」
「ああ、ケンなら明日の新国王就任演説の件でガリオラのことに向かったと思うぞ。」
「ガリオラ大臣でしょっ!でもそっか。仕事で忙しいなら仕方ないわね。ジン兄も教えてくれてありがと。じゃあアタシ行くから。」
「ああ、気をつけてな。」
ヒカリを見送ると再びジントは歩き出した。
「あら、ジントちゃん。ごきげんよう。」
次に声をかけてきたのはルリィ。 ディーア専属のメイドさんだ。
年はオレより2つ上のお姉さんでかわいいし美人だ。胸が大きいのもポイント高い。
純情な青少年には目の毒だ。
おっとりした性格だがやる時はやる。何をかは分からないがオレの勘がそう告げている。
「ルリ姉。ちょうど良かった。ディーアの様子を見に行ってくれ。アイツ落ち込んでたから声かけづらくって。。」
「ディーアちゃんが?そんな時は後ろから優しく抱きしめてあげたらいいんじゃないかしら~?元気出ると思うけどな~。」
「はは、ゴジョウダンヲ・・ソンナコトデキルワケナイヨ。」
「なんで片言なのかしら~。まあいいわ。お姉ちゃんに任せときなさい。」
「じゃあ頼んだよ。」
オレは今度こそ師匠の元へ早歩きで向かうのだった。