プロローグ(2)
2週間後
魔族王ドルゴアよりありがたくもご招待を受けたゼクタ王子ご一行はメルサリス城へと
向かっていた。
――道中――
ゼクタ
「どうするんだよ怪物みたいのが出てきたら。。。おまえらは良いよ、他人事だと思いやがって。。。夜寝てるときに隣見たら長~い舌とか出してたらどうすんだよ。いろんな意味で食べられちまうじゃねーか。。ブツブツブツ。。。」
ヤギウ
「何をブツブツと言っておられるのです王子。往生際が悪いですぞ。」
ゼクタ
「往生することになってるし!!」
今回の訪問団には襲われる危険を鑑みてディナル王は同行しておらず、団長を縁組の
当事者であるゼクタが務め、交渉役兼護衛としてヤギウ以下30名の兵士達で構成されている。
国境を越え魔族国に入ると間もなく数名の魔族が現れた。
「・・・ゼクタ王子の一行だな。我が名はギリス。我らの後について来い。」
ヤギウ
「お手前は・・。司令自らのお出迎え痛み入ります。私はオルメン王国軍団長のヤギウ。道案内よろしくお頼みします。」
ギリス
「ほう、貴様が・・・まあ良い、ついて来い。」
ギリスが一行の前で先導を始めるとヤギウはゼクタに話しかけた。
「彼はギリス司令。ドルゴア王国軍のトップですな。あのような大物を先導役で遣わすとは・・道中で襲われなければこの和睦を本気で結ぶつもりと考えて良いでしょう。」
ゼクタ
「そうか・・この婚姻で民が平和に暮らせるのなら良いことだな・・もう悪魔でも怪獣でもなんでも来―い!」
ヤギウ
「そのようなアブナイセリフはお止めください王子。」
やがてメルサリス城へ到着するとゼクタらは控えの間に通された。
「夜に謁見の宴がある。それまでここで休んでいろ。呼びに来るまでここから出るな。
何か用事があればそいつに言え。」
そう言い残してギリスは去っていった。
ギリスが指さしたところには長い爪とウロコのあるメイドさん?が立っていた。
「この城に滞在されている間のお世話をさせて頂きますナミカと申します。外におりますので何かございましたらその鈴でお呼びください。」
(名前だけはムダにかわいい!!)心の中でゼクタは叫んだ。
扉の前には見張りがいるため勝手に部屋から出ることはできない。
(まあ今更ジタバタしても始まらないか)
ゼクタは窓から外を眺めてみると一つ目の巨人が岩を素手で粉砕している様子や飛竜が火山の周りを飛んでいる様子が見える。
(やはり魔族は恐ろしいな)
ふと視線を下げると城庭の一角にあまりここには似つかわしくない花畑が見えた。
(魔族国にもあんなにきれいな花が咲くんだな)
そのとき、目が、合ったーー
花園に佇む1人の少女――髪は銀にも見える純白。遠目からでも分かる金と赤のオッドアイ。青のドレスに身を包んだ彼女は花畑と同様にこの場所に似つかわしく無いように思えた。
彼女は少し微笑みを浮かべたように見えた。が、次の瞬間には歩いて去ってしまった。
「おそらくあれがルーア姫ですな。」ヤギウが言った。
「え?今の綺麗な娘が?」ゼクタが信じられない風に聞き返す。
「だから言った筈ですぞ。かなりの美姫だと。」
「何か緊張してきたトイレ行っとこう。」
そうこうしている内に部屋がノックされナミカが入ってきた。
「準備が整いましたので大広間へご案内いたします。」
ナミカに先導されゼクタとヤギウは大広間へと着いた。
「ようこそ、君達を歓迎しよう。さあ席に着くがいい。」
ゴツめの貫禄ある男性が言った。見た目年齢は50代後半くらいだろうか。
魔族の年齢よく分からないけど。
「お初にお目にかかります。ドルゴア王。今後ともよしなにお願い申し上げる。」
ヤギウが口を開いた。
「貴様がヤギウか。先の戦では我が将兵たちをコテンパンに伸してくれたそうだな。いかなる秘法を使ったのか知らんがなかなかやるではないか。」
「いや、某などまだまだ、修練が足りぬ身。国の平和のため一層精進いたしまする。
また、先の戦の立役者はこちらのゼクタ王子にございます。」
ヤギウがゼクタに挨拶を促す。
「申し遅れました。オルメン王国の第一王子ゼクタでございます。和睦の申し出をお受け頂き、またこのような場を設けて頂き心より御礼申し上げます。」
「うむ、まあめでたい日じゃ堅苦しいのは抜きにしよう。なあ、婿殿。
誰かメアとルーアを呼んでまいれ。」
少しして広間にさっきの綺麗な女の子と赤髪の真っ赤な衣装を身にまとった怖そうな
オバサン・・・もといお后様が入ってきた。
「あら、坊や達かいアタシらと仲良くしたいってのは。人間が何の策略かと思ったけど、どうやら本気のようだねエ。だけどねエ坊や達。」
「のこのことここへ来て無事で帰れると思ってるのかい?」
メアが鋭い視線と飛ばす。
ヤギウは咄嗟に腰の獲物に手を伸ばす、が、この謁見の間にカタナを持ち込めないため控えの間に置いてきて来てしまっていた。
(今ここでやるとなれば初手で春風を放つほかは無い。しかし獲物が無い以上全力で放ちこの場を離脱して護衛隊と合流しなければならないがゼクタを巻き添えにしてしまう恐れが高い。)ヤギウは一瞬で思考を巡らせた。
ちなみに春風はヤギウの攻撃技でその優し気な単語とは裏腹に先の戦で魔族軍の多くを打ち取ったまさに一撃必殺の対軍奥義である。
そのときゼクタがヤギウの腕を掴んだ。「団長待て。」
「こんなところまで戦うために来たわけじゃない、和睦だ。それを見誤っちゃいけない。」
「しかしあれは明らかな殺気。むざむざと王子を討たせる訳には参りません。」
メアがヤギウを見ながら言った「坊やは只の人間じゃないみたいだね。」
ふっと場の空気が緩んだ。さっきまでの殺気が消えている。さっきだけに。
「ふふ、合格だ。気に入ったよ坊や達。アタシの自慢の娘だ大事にしなよ。」
メアがルーアの背中をこちらに向かって押した。
「いえ、そのことなのですが。彼女に結婚を無理強いするつもりはありません。」
「坊やアンタまさかアタシの娘が気に入らないってのかい?」
「そうじゃありません。あの、、、彼女は、、、とっても、、、美人で、、、その、、、
なるべくなら一緒に来て欲しいというか、、、でも、彼女の気持ちを考えずにこんな政略結婚みたいなのは違うと思うんです。だから!」
「待ちな坊や!坊やの言いたいことは分かったよ。じゃあ本人に聞いてみようじゃないか。
ルーア、あの坊やはアンタが嫌ならこの和睦の条件に結婚は入れなくて良いってさ。どうするよ。アンタはどうしたいんだい?」
「クスクス、面白い人。お父様、お母様、私はこの人と一緒に人間の国に行ってみようと思います。」 ルーアは花畑で見た時よりもちゃんと微笑んでいるように見えた。
「決まりじゃな。ルーアのことくれぐれも宜しく頼んだぞ。」
しばらくその存在を忘れられていたドルゴアが言った。
こうしてゼクタ一行はルーアを連れて道中多くの人々からの祝福を受けながらオルメン王国へと帰還。
王都への帰還後は盛大な結婚パーティーが三日三晩催された。