滞在初日
家の中に入るとそこは外見の樹木とは打て変わって広い空間となっていた。
リビングになっていて暖炉や窓もある。
テーブルを囲んで置かれているソファの一席に初老の男性が座っていた。
ソファの横には杖が立てかけられている。
男性はケンとヒカリの父親で名前はトラク。騎士団で斥候や兵站などを担当していたが
まだオレたちが小さい頃に事故で足を負傷して騎士団を退役し妻のナダと共にナダの故郷である
ハルアで暮らしている。
「ただいま、父さん。」ケンが話しかける。
「おかえり。そしていらっしゃい皆さん。ああ、そこの美しい方が王女様ですな。
小さい頃の面影がある・・・。本来なら立ってご挨拶すべきだがあいにくと足を悪くして
ましてな。このままで失礼します。」トラクがオレたちを見回して言った。
「そのままで、お気になさらず。私は小さかったのであまり覚えていませんが、トラクさんが
こちらに引っ越されるときに父が寂しそうにしていたのを覚えています。」ディーアが返す。
「ゼクタ様が亡くなったと聞いたときは驚きました。私より3つも若かったのに・・・
まあ、皆さんどうぞお掛けください。おや、君がジント君だね。立派になったなあ。」
「どうも、トラクさんご無沙汰しています。」
ナダさんを含めて全員が席に座るとジントは今までの一連の出来事をトラク夫妻に話した。
「まさか。ムルタ様やヤギウ団長が・・サハリが敵だったなんて・・・。」など
トラクは驚いていたがやがて落ち着きを取り戻して言った。
「それで王女様たちはこれからどうされるおつもりかな?」
「しばらくハルアで休息を取らせてもらい仲間を集めて王国を取り戻します。」
ディーアが答える。
「フム、だが話はそう簡単ではなさそうだ。まずは敵の情報を集めないといけないな。
まあなんにせよ今日はゆっくり休んで明日里長のところに行ってみるといい。」
「ヒカリ、隣の樹の家が空いているから使うといいわ。あそこなら部屋もたくさんあるから
みんな一部屋ずつ使えるし。あなたたちはどうする?ここに泊ってもいいし、みんなと
隣に泊っても良いけど。」ナダさんが言う。
「アタシたちも隣に一緒に行くわ。」ヒカリは当然のように答えオレたち5人は隣の家に
滞在することになった。食事はナダさんとルリ姉が一緒に作ってくれたのを先ほどのリビングで
みんなで食卓を囲みながら食べ、久しぶりに落ち着けるひと時となった。
夜部屋に戻った後なんだか寝付けなかったのでジントは少し夜風にあたろうと部屋から出て
下におりるとリビングにディーアがいた。
「何してるんだ?ディーアも寝付けないのか?」
「ジント・・・うん、落ち着ける場所に来たらなんだか色んなことを考えちゃって・・・。」
「オレもだ。少し夜風にあたりに行かないか?」
「そうね、今夜は月が綺麗そうだし。」
二人で玄関のドアを開けて外に出る。
今日は月が大きくて明るく見え、月明かりに照らされた小高い丘が見えた。
「あの辺に行ってみるか。」二人でそこに行って丘の上から夜空を見上げた。
「これからどうしたらいいかしら。」ディーアがそうつぶやいた。
「王都を取り戻すんだろ。」
「でも、できるかしら・・・トラクさんに言われたように簡単なことではないわ。
仲間だってちゃんと集められるか分からない・・・何より私が一番戦場で役に立てない。」
「ディーアはオレたちの大将だろ。戦いはオレたちに任せろ・・いや、まてよ?
何か大事なこと忘れてるような・・・はっ!!そうだ、ディーア、あのさ・・」
「なあにジント?」
「あのときは口止めされてたんだけど、今は状況が変わったし言っとかなきゃと思って。」
「口止め?誰に?何を?」
「あの、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、そのネックレスは・・・」
オレは7年前にディーアの力が暴走した時にルーア様が助けてくれたことやその影響で
ルーア様がマグと呼ばれるその宝石になったこと。ディーアには魔王級の魔力を振るえる
ようになる素質があることを話した。ルーア様が宝石になったのは力を使いすぎた、
ということにしておいた。
「え・・・?ジント、本当なの?今の話・・・」
「本当だ。だからルーア様は失踪したわけじゃなくて体は無くなっちゃったけど死んじゃった
訳じゃなくってその宝石に魔力が溜まると出て来られるんだ。あ、でも出てくるのに
ディーアの体を使うからディーアは会えないかも知れないけど。」
自分でもよく分からない言い回しになってきた。
ディーアはネックレスの宝石を両手で包み込みながら見つめている。
「お母様・・・ずっとそばにいてくれてたのね・・・」
「そういえばその宝石の魔力が溜まり具合って分かるのか?」
「分からないけどこの間ジントの前に現れた時には特に力は使っていなかったのよね?
私の魔力も増えてるからまだ中に魔力残っているんじゃないかしら・・・ということはお母様出て
来られるの?」
「多分・・いや他にも出てくる条件みたいなのがあるのかもしれないけど・・・
ちょっとディーア寝てみてくれる?」
「寝付けないから夜風にあたろうと外に来たはずでしょ。」
そうでした。
「それにジントの前で寝るの恥ずかしいし・・・それより!一旦お母様のことは置いておいて、
私が魔王級の力を使えるっていうのはどうやったらできるのかしら。」
「それについても分からないな・・・ディーアはルーア様から何か聞いてないのか?
なんかすごい魔法の使い方とか・・」
「私がお母様から教わったのは治癒の魔法だけよ。他は分からないわ。」
「そうか。まあ遅くなってきたし今夜はこんなところだな。戻って休もうディーア。」
ジントが一緒に戻ろうと促すとディーアは少しうつむきながら小さな声で言った。
「・・・その・・・ジントの部屋で・・・寝てもいい・・・?」




